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森永卓郎さんが提唱する生活防衛術「楽しい老後にしたいなら月13万円で生活設計を」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/297598
2021/11/24
森永卓郎氏(C)日刊ゲンダイ
新型コロナウイルスの感染拡大で痛感するのは、日本が格差社会になりつつあることだろう。飲食や観光業界では職を失った人も少なくない。片や世界的な金融緩和で株式、不動産が高騰し、富める人はますます富める状況に。ベストセラー「年収300万円時代を生き抜く経済学」を出版した2005年時点で、こうした「格差社会」を予見。昨年には「年収200万円でもたのしく暮らせます」を出版した森永卓郎さん(64)。コロナ禍で自らも収入が半分以下になったという森永さんに、生活防衛術を聞いた。
◇ ◇ ◇
今(令和3年)、余生を送る高齢夫婦2人は、月21万円ほどの年金(厚生年金)をもらっています。しかし、厚労省の試算だと、今後このモデル世帯の年金は月13万円まで減額される見通しです。
現在95歳以上の人の割合は人口の0.5%です。さらに長寿が進めば、65歳のリタイア後、30年も老後があるのが当たり前になるかもしれません。
そこで私が提唱しているのが、夫婦2人の暮らしを「月13万円」で設計することです。こうすれば、お金の心配をせず自由で楽しい老後が送れると本気で思っているのです。
今は65歳以降も働かないと暮らしていけない人が多い時代です。どんな仕事でも楽しく働けるのであれば、それでもいいと思います。しかし、生活のためにやりたくない仕事を嫌々やるのはストレス以外の何ものでもないでしょう。ですから、将来受給するであろう年金額だけで生活できる仕組みにするのです。こうすれば、何が起こっても過度におびえる必要はなくなるからです。
郊外生活で生活コストを限りなく最小限に
最近では豊かな老後のために、株式投資などでFIRE(投資収益で早期リタイアの意味)を目指す若い世代が増えているといいます。こうした夢を描いて投資に励むのも理解できますが、誰もが実現できるほど簡単ではありません(ちなみに、今の株高はいつまでも続かないとみています)。
ただ月13万円というと、「とてもじゃないけど生活できない」という声が聞こえてきます。確かに、現在、高齢夫婦の平均消費支出は月23万円ほどといわれています。ですが、これらの消費は全部が全部、本当に必要でしょうか。月13万円でどうやって暮らしていくかというと、生活コストを限りなく最小限にしていきます。私自身も徐々にですが、これを実践しています。
まず今、都心で暮らしているなら、自宅を郊外に移すか、都心で暮らすにしても間取りをダウンサイジングすること。夫婦2人なら1DKでも十分暮らせます。
私は埼玉県に自宅がありますが、コロナ以前は仕事の多い東京都心のワンルームで寝泊まりしていて、ほとんど自宅に帰っていませんでした。しかしコロナ禍で生活が一変し、自粛期間中は埼玉の自宅で過ごす時間が大幅に増えました。
郊外といっても、都会から遠く離れた田舎ではありません。田舎特有の距離の近いコミュニティーが苦手な人も少なくなく、私の妻も田舎暮らしはできないと断言しています。
例えば、東京から電車で1〜2時間の場所に自宅を構えるだけでも、大幅にコストカットできます。中古戸建てなら1000万円以下で購入できますし、都会に比べたら家賃も激安です。買い物をする場所など生活インフラは揃っているのに、田んぼや畑が広がる自然豊かな環境で、都会では体験できない豊かさを満喫できます。そのうえ、私の場合、都心に出るにも片道500円ちょっとの電車賃で済みます。
農業が楽しいのはすべて自由だから
農作業中の森永さん(提供写真)
今、私は社会実験を兼ねて半農生活を送っています。以前は群馬で畑を借りていましたが、コロナになってから近所の地主さんから30坪ほどの畑を借りて農作業に励んでいます。
トマト、キュウリ、ナス、ネギ、タマネギ、サニーレタス、ジャガイモ、スイカ、ゴーヤー、ニラ、春菊など季節ごとに25種類の野菜を栽培していて、家族で食べるだけではあり余るほどの収穫量で、ラジオで共演している阿佐ヶ谷姉妹にもお裾分けしています。おふたりはうちの野菜で生活していると言っても過言ではありません。周囲には10人ほどの半農人がいて、収穫期になると物々交換ができるので、野菜をスーパーで買うことはほぼありません。
農業がなぜ楽しいかというと、すべてが自由にできるからです。商売ではないので栽培ルールも自由です。
私が育てるトマトは、通常行う芽かきなどはせずに伸ばし放題で、さながらジャングルのようです。そのほうが傷がつきにくく、12月くらいまで長生きするのは大きな発見でした。
バカな上司もいませんし、マスクもせずにたばこも吸い放題。うちの畑には資本主義が入ってこないので、悪天候で収穫量が激減しても、阿佐ヶ谷姉妹にあげる分がなくなるだけで、収入や生活に影響ありません。
儲からないエキストラに夢中でもいい
農業をしていると自然と運動になるし、ヘトヘトになって早寝早起きになります。私はもともと野菜が好きではありませんでしたが、自分で育てた野菜の味は格別で、今では野菜中心の食生活です。これすなわち、医者が勧める生活習慣が勝手にできていることになるんです。
ラジオ番組で辛坊治郎さんと話したんですが、我々の余命はせいぜいあと20年、そのうち健康寿命は10年ほどしかありません。余生を、歯を食いしばってつまらない仕事をするのではなく、楽しいことをして、好きに生きようと。今は本当にそう思っています。
私は北川景子さんのファンで、あるとき北川さん主演のドラマに、監督に無理をいって出演させてもらったんです。そのとき出会った高齢のエキストラの方に出演料を聞いたら、交通費でなくなる程度というので「稼げないのに、なんでやってるの」と聞いたら、「テレビに出演している有名人を間近で見られるなんて、こんな楽しい仕事ないでしょ」とうれしそうに話すんです。
結局、北川さんとの共演シーンはありませんでしたが、この人のように楽しみを仕事にするほうが、人生を後悔せずに楽しく生きられるのではと気づきました。若いうちは子育てなどがあるのでできませんが、老後は「月13万円」で生活できるように設計すれば、ストレスなく楽しい余生を送れるのではないでしょうか。
▽森永卓郎(もりなが・たくろう)1957年、東京都生まれ。経済アナリスト、独協大学教授。テレビ、ラジオ番組のコメンテーターとしても活躍中。おもちゃやオタク文化にも精通。「森永卓郎の『マイクロ農業』のすすめ」など著書多数。
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