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某携帯電話会社にトラブルで電話したら延々1カ月もたらい回し…アマゾンと真逆
https://biz-journal.jp/2021/11/post_263746.html
2021.11.20 05:50 文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役 Business Journal
「Getty Images」より
デジタルによってスムーズにサービスが提供される。これがDX(デジタルトランスフォーメーション)の理想であるとすれば、その成否はトラブルの際にはっきりするものです。
DX先進企業であるアマゾンではもう10年以上前から、トラブル対応が優れていることがわれわれプロの界隈で話題になってきました。最近のアマゾンはややコンタクトセンターの品質が劣化しはじめたという報道もありますが、10年前当時、私の個人体験ではこんなことがありました。
まだ置き配が始まる前の時期でしたが、当時アマゾンで購入した書籍はメール便で配達され、それが郵便受けに入りきらずに突き刺さった状態で配達されることがよくありました。「危ないなあ、あれじゃいつか盗まれちゃうぞ」と思っていたら案の定、あるとき注文した書籍が届かない。アマゾンのサイトで調べたら数日前に配達済みになっています。たぶん誤配か同じような状況で配達され盗まれたかのどちらかでしょう。
こういったトラブルが起きたときには、消費者は不安で嫌な気持ちになるものです。嫌な気持ちは購入した商品が届かなかったからですが、不安は「この問題を解決するまでにすごく面倒なことになるんだろうな」という気持ちから来るものです。
それでアマゾンのサイトにアクセスしました。置き配が始まった現在は少し手順が違うのですが、当時のアマゾンの場合カスタマーサービスのサイトには「配達済みになっているのに商品が届かない」という場合の対処法として電話での対応と、メールでの問い合わせ法が載っていました。
それで電話をしたのですが、プロの経済評論家としていい意味で驚いた点は、まずなによりもすぐに電話がオペレーターにつながったことです。そして電話口で注文番号とトラブルの状況を伝えると、すぐに謝罪があり、その場で同じ商品の再配達の手続きをしていただけました。
経済評論家という商売は、こういった事例をきちんと記録する習慣があります。このときの記録を確認すると、不安を感じてアマゾンのサイトで対処法を調べ始めてから問題が解決するまでにかかった時間は8分でした。この記事の読者の皆さんは、まずこの10年前の「アマゾンでは8分で解決」というエピソードを覚えておいてください。
■オペレーターにつなげさせない仕組み
つぎに最近、私が使っている携帯電話会社であったトラブルの話をします。対応が悪い例として紹介する関係上、どこの会社かは内緒とさせてください。
この会社ではオプションで500円を払うと一種の保険としてデータ通信量が超過した場合の0.5GB分のデータ追加を無料にしてもらえるサービスがあります。経験的には3〜4か月に一回ぐらいデータ超過になるので、私はこのオプションを使っています。
実はこのオプションを申し込むと、系列のショッピングモールで500円の割引クーポンがもらえます。つまりインターネット通販をよく使う人なら、このオプションは実質無料なのです。
ところが最近、私が携帯の設定を少し変えたせいでこのクーポンが消失してしまうトラブルが起きました。「500円払って入ったサービスで500円の特典がもらえていない」というのがトラブルの内容です。少額なので普通の人ならあきらめる話かもしれません。しかし、経済評論家はこういったことは好奇心からちゃんと追及してみるのです。
それでまずその通信会社のトラブル対応をするコールセンターに電話をしたのです。電話をすると自動音声が出てきて、トラブルの内容に応じて「何番を押せ」と言われ続けていくのですが、細かく分岐していくと結局私のトラブルに対応する番号がありません。それで「元のメニューに戻る場合は9を」みたいな感じで出口がなくなるのです。
ユーザーにとって困ることですが、そのスマホの会社ではオペレーターにつながる経路がみつからないようにしている様子なのです。そこでヤフー知恵袋で調べたら、その会社でオペレーターに電話をつなげる裏技を見つけました。
ある分岐に進んだところで自動音声の指示を無視するのです。そうすると自動音声がまた入力を指示する。そこも無視をする。それを3回やると向こうが困ってしまってオペレーターが電話に出ると書いてありました。実際やってみるとその通りで、ようやくオペレーターにつながりました。ここまでで約1時間です。
それでオペレーターにトラブルの状況を話したところ「状況はわかりましたが、その件はこの電話番号におかけなおしいただけないでしょうか?」と言って別の番号を知らされます。簡単にいえばこのコンタクトセンターは、問題解決できる担当者への電話の転送を行うDXの仕組みは導入していないわけです。
それで電話をかけ直すと、結果的にはそこからまた自動音声に沿って何度も番号を押させられたのですが、最終的にはオペレーターにつながりトラブルの内容を報告することができました。それで20分ぐらいかけて対応方法を検索してくれたのですが、検索では解決できず、折り返し詳しい担当者が電話をしてくれることになりました。
こういったトラブルは好奇心がなければ心が折れてしまうものです。日本のお客様対応室は戦術として、なるべくコンタクトセンターにつながらないようにしてあきらめさせる手法を好んでとっています。後述するように、このあたりはDX後進国となる土壌になっています。
さて1時間後、担当者から折り返しの電話がありました。要約すると「このトラブルは別会社であるショッピングモール側の問題で、そちらに問い合わせてほしい」ということでした。しかも連絡先は「自分で調べていただけないか」と言うのです。そこで「ここまで話が伝わるまでにものすごく苦労しているので、同じ苦労をショッピングモールのコンタクトセンターでしたくない」旨を丁寧にお伝えしました。
結局、担当者からもう一度折り返しの電話をいただけることになったのですが、やはり直接担当者を見つけることができないという回答でした。ただショッピングモールのコンタクトセンターにつながる裏技を調べていただけたようで「こうしていただければ先方から連絡が入ります」と教えていただきました。
トラブル発生から3時間後、その裏技を実行しました。簡単にいうとモールのメール問い合わせ窓口から不十分な内容の相談メールを送るという技です。
翌日、ショッピングモールの運営会社から「何でお困りでしょうか?」という問い合わせメールが来て、ようやく「500円のクーポンがもらえない問題」の解決に向けての話し合いができるようになりました。
状況が伝わって、先方からはメールで「担当部署で問題を確認します。少々お待ちください」と返事があったのですが、実はここからいつまでたっても返事が来ないのです。数日に一度「どうなっていますか?」とメールで問い合わせると、毎回同じ自動応答の文章で「担当部署で問題を確認しています。少々お待ちください」と返事が来ます。これがほぼ1カ月続きました。
それでもう忘れた頃の話なのですが、なんと問題解決のメールが戻ってきました。要するにちゃんと問題解決の努力をしていたわけです。その会社のエンジニアが何日もかけてシステムを調べてみたところ、まれにある設定をした場合にエラーが起きてしまい付与したはずの500円クーポンが消失するトラブルが起きることが判明したそうです。それで今なら私のクーポンは復活しているはずなので確認してほしいと書かれていました。
私も丁寧に「問題を解決していただきありがとうございました」とメールでお礼を述べておきましたが、この事件、決して例外ではなくこのような顧客対応が日本では標準になっていることこそが日本企業の問題です。
■DX後進国からどう盛り返すのか?
もう一度整理してみましょう。10年前、アマゾンで800円の本が届かなかったときは8分で解決して800円の本は無事2日後に配達されました。最近日本を代表するスマホ会社で500円のクーポンが消えた際には、3時間悪戦苦闘してようやく窓口につながり、30日後に問題は完全解決しました。
ポイントはこの差です。冒頭でお話ししたように、DXとはデジタル技術を駆使して顧客にスムーズにサービスが提供されることだと考えると、我が国を代表するスマホ会社ですらDXがここまで遅れているという問題があるということです。
では、なぜこのようなことが起きるのでしょうか? DXをデジタル化だと勘違いしているとこうなります。アメリカ企業ではDXを設計する際に、最短労力と最短時間で顧客にサービスを提供するにはどうすればいいかと考えます。DXはあくまでその手段で、仕組みの設計には人力を当然のように組み合わせます。
これもある別の通信会社の話ですが、その会社の幹部が提携するアメリカの通信会社に出向して驚いたというのです。その方はエンジニア部門の人なのですが、日本の通信会社時代には顧客である法人の通信設備にエラーが起きると、エキスパートのエンジニア複数名が即座に現場に飛び、さまざまな原因を切り分けたうえでなんとか数時間でトラブルを復旧させてきました。
ところが出向先のアメリカの通信会社では、法人対応のサービスエンジニアはほぼほぼ素人なのだといいます。ところがそれでサービスできるようにDXが完成している。ここがその幹部が驚いたところです。
法人顧客の通信設備にエラーが起きて、サービスエンジニアが現場に飛ぶと、あるモジュールにエラーランプが光っているそうです。それでエンジニアは車に積まれた交換モジュールをとってきて入れ替える。それで再起動すると現場のトラブルは十数分で解決します。その後、その故障モジュールを会社に持ち帰ると、もっとエキスパートなエンジニアがそれを分析して故障原因を把握して、本質的な解決策を考える。「これがアメリカのDXか」と思ったそうです。
総じてDXの進んだアメリカ企業では現場対応をいかにシンプルかつ標準化するかに力を入れる点と、現場にトラブル対応の権限を与えることでサービスを設計している点が日本と大きく違います。
もし私が体験したトラブルがアメリカ企業であったとしたら、最初につながったコンタクトセンターが、原因が別会社であるかどうかは関係なくその場で500円のショッピングクーポンを私に付与する権限を持っていて、実際にそうしたことでしょう。そうすればコンタクトまで1時間はかかったとしても私のトラブルはこの時点で解決です。
そして本質的にトラブルを引き起こしたプログラムエラーについては、後日、別会社に申告すればいずれエラーコードが発見されて二度とその問題は起きなくなるはずです。その設計が下手なためにシステムが肥大化するにつれて顧客の不満が増大する。販売窓口が「これは別会社の問題です」と言って責任逃れすることで顧客の不満は深まる。それがDX後進国日本の現状です。
ここからどう盛り返すのか? どうやら日本企業は「なんのためにDXを導入するのか」から再設計をする必要がありそうです。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)
●鈴木貴博(すずき・たかひろ)
事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『ぼくらの戦略思考研究部』(朝日新聞出版)、『戦略思考トレーニング 経済クイズ王』(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
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