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潜在力は原発約400基分…浮体式洋上風力発電、期待高まる 日本企業の技術が先行
https://biz-journal.jp/2021/11/post_263766.html
2021.11.18 05:50 文=横山渉/ジャーナリスト Business Journal
浮体式洋上風力発電(「Wikipedia」より)
国のエネルギー政策の基本方針、「第6次エネルギー基本計画」が10月22日に閣議決定された。2030年の電源構成として、再生可能エネルギー(再エネ)比率は36〜38%へと、これまでより10%以上引き上げられた。
理由は明白だ。温室効果ガス(CO2)排出量を30年度に13年度比で46%削減するというのが国際公約になっているからだ。さらに、菅政権では50年にCO2排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすると宣言している。
再エネ比率を大幅に引き上げるとして、では、具体的にどの発電方法が有望なのか。エネルギー政策に詳しい大手シンクタンクの主任研究員によれば、浮体式洋上風力発電だ。洋上風力発電には、風車の基礎を海底に固定する「着床式」と、海上に風車を浮かべる「浮体式」の2種類がある。洋上は陸上よりも安定的に風が吹いており、設備建設のための部材は船舶で輸送するため、道路輸送に比べて制約が少ない。
■浮体式なら陸上風力や着床式の問題点を解決
一般社団法人「日本風力発電協会」によると、日本には着床式の設備容量の潜在力が128GWに対して、浮体式は424GWある。原発や火力など他の電源と比べた場合、実際の電力量は稼働率が違うため単純比較はできないが、浮体式の設備容量としての潜在力は原発約400基分に匹敵する。
風力発電というと、実績で先行している欧米に勝てないという意見もあるが、それは陸上風力や着床式の話。浮体式ならそうでもない。19年時点で浮体式洋上風力発電の導入実績があるのは、イギリス、日本、ポルトガル、ノルウェー、フランスだけで、日本は先頭集団に入っている。欧州では近年、洋上風力の導入量が年に1000〜3000MWの規模で増えており、急拡大している。洋上風力発電のこれからの主戦場は浮体式になるのだ。
一方、日本は広大な海に囲まれているにもかかわらず、導入量はまだ約2万kW(20MW)程度に過ぎない。その理由は、従来、日本の沖合の海底は急に深くなる地形のため、洋上風力には不向きとされてきたからだ。しかし、それもやはり着床式の話である。海に浮かべる浮体式なら何も問題はない。
さらに、日本は台風が心配という声もあるが、海外ではハリケーンにも余裕で耐えている。例えば、17年10月から稼働しているスコットランド沖の浮体式洋上風力発電「Hywind Scotland」は、2度の大嵐による突風や8.2メートルもの波高の直撃を受けたにもかかわらず、その後も安定稼働している。浮体式は地面に固定されていないので、むしろ地震や高波などの影響も受けにくい。
■浮体式の要素技術、日本の大手が先行
浮体式は、日本では長崎県五島市沖で10年から実証実験が始まり、16年には2MWと小規模ながらも商用運転が始まった。また、余剰電力を利用して水素を製造、貯蔵、利用する実証実験も15年から行われている。こういう実験は世界でも類がない。
浮体式洋上風力は機器・部品数が1万点を超え、事業規模は数千億円に上るなど、大きな経済波及効果が見込まれる。国内での部品調達比率は60%が目標だ。日本はもともと、建設、造船、鉄鋼、コンクリート、化学など浮体式に関わる要素技術を持つ産業群を抱えており、日本企業が先行しているのだ。
例えば、日立造船は浮き風車が載る土台の新工法を開発しており、23年の実用化を目指している。五洋建設は洋上風力発電建設に必要なSEP船(自己昇降式作業台)の建造を推進しており、昨年10月に資金調達のためグリーンボンド100億円を発行した。
洋上風力には政治的にも追い風が吹いている。19年4月、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行された。これに伴い、発電事業者は最長30年間、利用海域を占有することが可能となった。同法に基づき、五島市沖は促進区域のひとつに指定され、開発事業者として戸田建設、ENEOSホールディングス、大阪ガス、関西電力、INPEX、中部電力の6社が選ばれた。
■不安定な再エネはV2Gで出力調整する
風力や太陽光など出力が不安定な電源を電力系統に入れるには、出力変動を吸収する調整設備が必要になる。その際に有力なのが、電気自動車(EV)に搭載の蓄電池を活用する「ビークル・トゥー・グリッド(V2G)」だ。風力などからの発電が増えすぎた場合、EVの電池に充電し、逆に再エネの電力が不足した場合は、EVの電池を放電するというアイデアだ。
このV2Gで使う急速充電器だが、日本が生んだ規格「CHAdeMO(チャデモ)」は世界トップの実績を誇る。14年に国際標準として承認されている。この規格を世界に広げることで、充電インフラの拡充と、EVから先につながるエネルギーシステムの心臓部を握ることができる。CHAdeMO協議会はEVの大市場である中国と協力して、大容量の「ChaoJi(チャオジ:超級)」という日中共同規格を策定しており、日本は中国市場に足がかりを作る良いカードも持つことになる。
EVが増えると電力不足に陥ると指摘する向きもあるが、そもそも、世の中にあるすべてのEVが同時一斉に充電することはあり得ない。ある自動車メーカーの試算では、日本で10%がEVに置き換わると、再エネが100%になっても需給変動を制御する調整力が提供できるとされる。
■株式市場も脱炭素銘柄として大手製造業を注視
脱炭素というテーマではこれまで、ベンチャー系の太陽光発電事業者などに注目が集まってきた。しかし、CO2排出量46%削減の30年度まで10年を切り、50年カーボンニュートラルまで20年しか残されていない。
大手証券会社のチーフストラテジストは「残された時間が少ないので、技術開発資金を豊富に持っている大手が有利」と話す。株式市場における現在の脱炭素ブームは、活況と失望を繰り返してきた過去の環境関連ブームとは雰囲気が違うと指摘する。
「水素銘柄として注目を集めるごとに期待外れを繰り返してきた岩谷産業は、今年1月、1989年の上場来高値を31年ぶりに更新した。脱炭素に対する市場の本気度が違う」
2020年の全世界における太陽光パネル出荷量は、国別では中国が全出荷量の67%を占めている。日本がこれから巻き返すのは至難の業だ。太陽光パネルをめぐっては中国・新疆ウイグル自治区での強制労働も指摘されているが、その問題を抜きにしても、「脱炭素→再エネ→太陽光」という図式はあまりに古い。そろそろ太陽光発電頼みの政策はやめて、日本の製造業の強みをフルに活かせる浮体式洋上風力発電にシフトしたらどうだろう。
20年12月に政府が取りまとめた「洋上風力産業ビジョン」では、着床式と浮体式合わせて30年までに10GW、40年までに30〜45GWに増強する目標が掲げられている。
(文=横山渉/ジャーナリスト)
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