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GAFAの「税金逃れ」も困難に…? 「法人税」の世界的な引き上げで起きる「劇的な変化」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/84182?imp=0
2021.06.16 加谷 珪一 プロフィール 現代ビジネス
法人税の国際的な最低税率について、米財務省が「15%を下限」とするプランを提案した。最低税率の設定そのものについてはある程度、合意が取れているが、数値をめぐっては21%程度を目指す米国と、10%台の低税率を設定する国との間で対立が続いてきた。もし15%の水準で妥結すれば、十分とは言わないまでも税率についての国際合意が成立することになり、世界経済には大きな影響が及ぶ。
GAFAの台頭が状況を変えた
法人税率というのは、各国が国内の経済・財政事情をベースに独自に決定するというのが基本的な考え方である。だが一部の国は、他国から企業や資金を呼び込むため、あえて低い税率を適用し、これを国家戦略としてきた。
アイルランドはその代表で、現在の法人税率は12.5%と極端に低い。実際、アイルランドには多数のグローバル企業が進出し、同国の経済はめざましい成長を遂げている。
低い税率の影響が、当該国への企業進出だけにとどまっていれば大きな問題は起きなかったが、モノのやり取りを伴わないIT企業が台頭してきたことから状況が変わってきた。GAFA(米グーグル、米アップル、米フェイスブック、米アマゾン・ドット・コム)を中心とした巨大IT企業の中には、各国の税制の違いをフル活用するところがあり、法人税が安い国に拠点を設けて、取り引きを集中させることで法人税を大幅に節税している。
こうした節税が広く行われるようになると、事実上の拠点となっている国が十分な税金を徴収できず、税務上の拠点となる国に所得が移転してしまう。以前からこうした試みはあったが、巨額ではないことから税金を失う国もあまり目くじらは立てていなかった。低税率をウリにする国は、たいていの場合、税率しか魅力のない小国であることが多く、大国は鷹揚に構えていたといってよいだろう。
実際、どの国に法人を設立するのかにあたってもっとも重要なのは税率ではなく、ビジネスのしやすさである。その証拠に米国の法人税は先進各国の中でも高い水準であり、長期にわたって40%台(地方法人税を含む実効税率)を維持してきたが、米国には世界中からビジネスを求めて人や企業が集まっていた。
だが、ビジネスのIT化やグローバル化の進展によって、より積極的な節税を行う企業が増えてきたことから、税率の高い国が税収の機会損失を強く意識するようになり、大国も含めて法人税を引き下げる動きが顕在化してきた。米国は先ほど説明したように80年代までは40%台の法人税率だったが、トランプ政権は30年ぶりとなる大型減税を実施し、同国の法人税率は26%まで大幅に低下している。
英国は相対的に米国よりも低い税率を適用してきたが、2007年以降はさらに思い切った減税を実施しており、現在の法人税率は20%を切っている。先進諸国の中ではもっとも高い法人税率を設定する国のひとつだったドイツも現在は30%前後まで下がっているのが実状だ。日本も安倍政権の成立以後、矢継ぎ早に法人減税を実施しており、現在の税率は約30%である。
「コロナ後」には強固な財政基盤が必要
グローバルに活動するIT企業の台頭に伴って国際的な法人税引き下げ競争が勃発した形だが、一連の引き下げ競争の結果、各国の税収基盤は弱体化が進んだ。こうしたところに発生したのが新型コロナウイルスの感染拡大である。
各国はコロナ対策に巨額の財政出動が必要となったことに加え、コロナ危機の発生が、社会のデジタル化を加速する作用をもたらしており、AI(人工知能)など次世代技術への先行投資について強化する必要に迫られている。
米バイデン政権は、コロナ対策に1.9兆ドル(1人あたり最大1400ドルの給付金を含む)、AI(人工知能)活用やEV(電気自動車)支援、インフラ整備などに2兆ドル、教育の無償化や子育て支援などに10年間で1.8兆ドル(約198兆円)を投じる計画を明らかにしており、投資総額は5.7兆ドル(627兆円)に達する。EUもこれに近い大型投資を決断しており、各国の財政には大きな負担が加わる。
もし社会のデジタル化が加速すれば、ルーティンワークに従事するホワイトカラー層の多くがAIに代替されてしまうため、再教育など人材投資を強化しないと格差拡大を招く可能性が高まっている。格差を縮小し、教育の機会を拡大するためには所得の再分配が必要であり、そのためには強固な財政基盤が不可欠だ。
こうした状況から、米国のイエレン財務長官は2021年4月5日、「全世界的な法人税の引き下げ競争に終止符を打つべきだ」と発言。最低法人税率に関する国際協調を呼びかけた。イエレン氏の発言をきっかけに各国の財政当局の間で議論が行われてきたが、最大の焦点となっていたのが最低税率を何%にするのかという数値目標である。
先ほども説明したように、大国には市場としての魅力があるので、仮に最低税率が設定され、その数値が比較的高かった場合、圧倒的に大国が有利になる。仮に80年代の水準まで法人税率を戻せば、グローバルに拠点を構えていた企業の多くが、大挙して米国に戻ってくるだろう。
一方、社会のグローバル化は進む一方であり、バランスが取れた形での税率差があった方が、世界経済全体の成長にとって好都合という側面もある。当然のことだが、アイルランドのような低税率をウリにしている国にとっては、税率の引き上げは死活問題にもなり得る。
米国はこれまで21%程度の最低税率を念頭に、各国やOECD(経済協力開発機構)と議論を進めてきたが、OECDでは低い税率の国を基準にした方がよいとの意見も少なくなかった。今回は米国が譲歩を示した形であり、OECDとしても10%台が維持されたことから最終合意に至る可能性が高い。このまま議論が進めば、年内の合意成立もあり得るだろう。
もっとも、一連の合意はあくまで合意にすぎず、条約という形で法制度化はされない見通しである。米国は共和党が最低税率の設定に強く反発しており、各国が国内法でどう対処するのか現時点では何とも言えない。
取れるところからは取る社会に
では「15%以上」という水準で、とりあえずの合意が得られた場合、各国への影響はどの程度だろうか。
15%が最低税率となった場合、主要各国は現状の税率について大きく変えないか、むしろ引き上げる可能性が高い。英国はこの議論と前後して19%まで引き下げていた法人税率を25%に引き上げる方針を表明しており、バイデン政権も税率の引き上げを検討している。各国政府は巨額の財政出動を迫られており、安易に税収を下げる選択肢は取りづらいというのがその理由だ。
日本は企業の競争力が低下しており、減税で企業の増益を維持しているような状態であることから、法人税率はそのまま据え置く可能性が高い。表面的には大きな影響はないかもしれないが、中長期的に見た場合、今回の合意は法人税のあり方について、大きな変化をもたらす可能性がある。
バイデン政権はGAFAなどの巨大IT企業に対して、海外での利益について課税する方針を示している。最低税率に関する国際合意が成立するということは、基本的に課税逃れは許容されない社会がスタートすることを意味している。大企業の中には表面上の税率と実際に納税している金額に大きな乖離が生じていることがあるが、今後はこうした節税に対する社会の目は厳しくなるだろう。
見えない形での節税というのは実は日本でもかなり行われている。もっとも大きいのは主に大企業に適用されている租税特別措置(いわゆる租特)である。多くの人はあまり認識していないかもしれないが、日本には租税特別措置という大規模な優遇税制があり、大企業の多くが相当な金額の免税措置を受けている(表面上の税率に沿った金額を支払っている大企業は少ない)。
2018年度には何と200万件近くの適用事例があり、計算方法にもよるが、年間1兆円以上の法人税が減免されているとの試算もある。日本の場合、特に財政基盤が弱いため、こうした優遇税制を維持していく余裕はない。今回の法人税率に関する議論は、取れるところからは取るという流れを作るひとつのきっかけになるだろう。
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