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ホンダ、トヨタに反旗翻す…日本の自動車業界を“トヨタ傘下”扱いする豊田社長への不満
https://biz-journal.jp/2021/05/post_224420.html
2021.05.08 06:00 文=黒崎真一/ジャーナリスト Business Journal
本田技術研究所本社(「Wikipedia」より/ウェルワィ)
ホンダの社長に就任した三部敏宏氏が4月23日に社長就任記者会見で、2040年にグローバルで販売するすべての新車を電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする目標を発表したことが波紋を広げている。前日に日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が記者会見で「カーボンニュートラルの本質を正しく理解して対応することが必要」と述べ、世界的に進むEVシフトの流れに疑問の声をあげていたためだ。
日本の自動車産業はトヨタグループの傘の下にあるような振る舞いを続ける豊田社長に忸怩たる思いを抱いていた業界関係者は、ホンダの発表に溜飲を下げたかっこうだ。
ホンダは前任社長の八郷隆弘氏が、2030年までにホンダが販売する車両の3分の2を電動車両にする計画を公表していた。電動車両は、日本市場でシェアの高いハイブリッドカー(HV)や、プラグインハイブリッドカー(PHV)といった内燃機関を搭載したクルマを含んでいる。ホンダは今回、一歩踏み込んで、40年に内燃機関を搭載したクルマの販売から撤退し、「タンク・トゥ・ホイール(走行中)」の観点から二酸化炭素(CO2)排出量がゼロのEVとFCVに絞り込むことを決めた。
■EV一辺倒に対する焦り
グローバルで2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル社会の実現を目指す宣言が世界で相次いで打ち出され、自動車業界もその対応に追われている。欧州の一部や米国の州の一部では、将来的にガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する政策が打ち出されている。ホンダでは自動車が10年程度使用されることを想定、40年からはゼロエミッション車しか販売しないことにして、50年のカーボンニュートラル実現を目指す。
脱炭素社会に向けて自動車メーカーの電動化の動きは加速している。ボルボは30年までに販売する全モデルをEVにする計画を公表しているほか、ゼネラルモーターズ(GM)は35年までに販売する乗用車すべてをEVにする。ダイムラーも39年に全販売モデルをEVにする計画を公表している。
しかし、日系自動車メーカーで、販売する全車両をEV、FCVにする計画を公表したのは今回のホンダが初めてだ。日系自動車メーカーはHVに力を入れてきたこともあって、EVでは出遅れている。なかでも、世界初の量産HVを市販し、HV関連技術では他社をリードするトヨタにとって、EV一辺倒の情勢に対する焦りと危機感は強い。EV市場の拡大は、HVに強いトヨタの優位性がなくなることを意味するからだ。
また、EVはHVなどの内燃機関を搭載するクルマと比べて、使用する部品点数が大幅に減る。EVシフトが本格化すると、トヨタグループが抱えている多くのサプライヤーの仕事も減り、結束を維持できなくなる。EVは内燃機関よりも参入の障壁が低く、テスラのような新規参入によって競争激化を招く。すでに中国では多くのEVのスタートアップが誕生している。
■「550万人ががんばってくれたおかげ」
世界トップの地位が脅かされることになりかねないトヨタの豊田社長が危機感を露わにしているのが、自工会での記者会見だ。3月11日の記者会見では、カーボンニュートラルに向けて業界挙げて取り組むことを表明しつつも、日本の電源構成が火力発電に傾きCO2排出量が多いことから、再生可能エネルギー比率の高い国に自動車生産がシフトし、日本の輸出や雇用が失われる可能性があると警告。
続いて4月22日の会見では、「ゴールはカーボンニュートラルであり、その道はひとつではない」と述べ、カーボンニュートラル=EVの普及という流れを批判。EVは搭載する大容量リチウムイオン電池の製造時に大量のCO2が排出される。自動車1台が製造されてから走行し、廃棄処分されるまでのトータルCO2排出量を見るLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点で、火力発電の構成比の高い日本では、EVが低炭素車とはいえないと主張する。
さらに、二酸化炭素と水素からつくる合成燃料「e-フューエル」をHVやPHVに使えばCO2排出量を大幅に減らせると主張し、「ガソリン車やディーゼル車を禁止するような政策は、選択肢をせばめ、日本の強みを失うことになる」と、内燃機関車の販売を禁止するなどの規制をけん制した。
これに対して業界では「『日本』の部分は『トヨタ』だろう。自工会の会長としての発言というより、トヨタの社長としての主張では」と疑問視する声がある。実際、自工会の会長会見の翌日、反旗を翻すようにホンダがEVシフトを鮮明にした。
三部社長は「自動車メーカーとしては、まずタンク・トゥ・ホイールのCO2排出量をゼロにすることが責務」と明言、電源構成のCO2排出量削減は電力会社の責任との姿勢を明確にした。e-フューエルに関しても、日系自動車メーカーで唯一参戦しているF1で使用している経験から「マジョリティ(の燃料)になるかというと、個人的にはかなり難しいと思う」(三部社長)と一蹴した。
自工会では、今年から日本で自動車に関わる就業人口「550万人」が力を結集して、コロナ禍の難局を乗り切ろうとのメッセージを発信している。ただ、トヨタの記者会見で業績回復の理由を聞かれ「550万人ががんばってくれたおかげ」と、まるで日本の自動車関連就業者すべてがトヨタグループの傘下にあるような発言を繰り返し、トヨタグループ以外から悪評を買っている。ホンダのEVシフトは、日本の自動車業界をまとめていると自負しご満悦だった豊田社長と、“トヨタ化”する自工会に対して強烈な一撃を放つかっこうとなった。
(文=黒崎真一/ジャーナリスト)
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