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世界で「安全な水」争奪戦、各国産業を左右…日本企業の高い水精製技術、重要度高まる
https://biz-journal.jp/2021/05/post_223743.html
2021.05.06 06:00 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
オルガノ株式会社
近年、世界全体で安心、安全な水や高純度の水への需要が高まっている。それが世界の水ビジネスの重要性を高めている。一例として、台湾の水不足が深刻であり、半導体の受託製造最大手企業である台湾積体電路製造(TSMC)への影響が懸念される。気候変動による水量や水質の変化などによって、国と国が水源をめぐって対立するケースもある。
そうした問題を解決するために、日本企業への役割期待が高まっている。現在では、水に含まれる塩類などを取り除くイオン交換樹脂技術などに強みを持つオルガノ株式会社の成長を期待する投資家が増えている。産業、生活用の水を確保するためにオルガノの水精製技術やソリューションへの需要は高まるだろう。
国連が推進する「持続可能な開発目標(SDGs)」のなかで「安全な水とトイレを世界中に」という目標が掲げられているように、安心して使うことのできる水の供給は、私たちの安心と健康に欠かせない。そのために、世界全体でより循環的な水の利用を支える技術の重要性は高まる。世界全体で水不足が深刻化し、安定した水供給の重要性が高まっていることは、オルガノなど日本の水関連企業が高い成長を目指すチャンスだ。
■一段と重要性増す水ビジネス
世界的に水の不足が深刻化している。地域的に見ると、中央アジアから中東、アフリカ地域で水の不足は深刻だ。それに加えて、米国や豪州の一部地域などでも水不足が顕在化している。その背景には、気候変動による干ばつの影響などがある。
見方を変えれば、世界全体の水不足という問題を解決する技術やシステムへのニーズが一段と高まっている。その市場規模は100兆円に達するとみられ、水処理装置やシステムの開発と提供を行うオルガノや栗田工業、水処理膜を生産する東レや、日東電工、東洋紡など日本企業が持つ水精製技術への社会的なニーズは高まるだろう。そうした水ビジネスの重要性の高まりを確認するために、世界の水事情がどのようになっているかを生活と産業活動の2つの点から確認しよう。
私たちの生活には、安心して利用できる水の確保が不可欠だ。成人の体の6割程度が水分で構成されている。ユニセフ(国連児童基金)のデータによると、2017年時点で安全に管理された飲み水を利用できる人は、世界の約7割だ。残る約3割の人々は、安全な飲み水へのアクセスが難しい。人々の健康のために、安全な水の供給体制の確立は喫緊の課題だ。また、新型コロナウイルスの感染の発生は、世界全体が手洗いの重要性を認識する機会になった。しかし、世界の4割の人々は、水と石けんが整った手洗い設備を使うことができない。
次に、産業界からの水需要も増大している。その一つが超純水(塩類や有機物などをほとんど取り除いた純度の高い水)だ。超純水は、医薬品や半導体などの生産に欠かせない。両分野ともに、ごく微量の不純物の混入が安全性や製品の性能に大きく影響する。関連する企業にとって安定的に超純水を確保することは欠かせない。特に、半導体や液晶パネルなどIT先端分野の製造業が集積する台湾では干ばつによって国全体での水不足が深刻化している。そうした状況下、世界全体で水ビジネスの重要性が高まっている。世界全体で水の争奪戦がし烈化しているようにさえ見える。
■世界的な競争力を発揮するオルガノ
突き詰めていえば、安定した水の供給体制が実現するか否かは、世界経済の持続性を左右する。水源の確保にはじまり、工業用水、水道水、純水、超純水の精製と供給や、循環的な水の利用を支える新しい技術やシステムの供給など、水ビジネスの成長余地は急速に拡大しているとの印象を持つ。今後は水ビジネスでの成長を目指すスタートアップ企業も増えるだろう。
水の精製などに関する技術は、日本のお家芸だ。そのなかでも、成長への期待が高まっているのがオルガノだ。世界的な水ビジネス業界の展開を確認すると、フランスのスエズなど「水メジャー」と呼ばれる欧州の公共プラント大手企業が存在感を発揮してきた。しかし、過去5年程度の株価推移を見ると、オルガノの株価はスエズを上回って推移している。それが意味することは、世界の水ビジネスを取り巻く環境が大きく変化していることだ。ポイントは、オルガノが持つ水の精製技術とシステム面での競争力の高さだ。
新型コロナウイルスの発生によって世界のデジタル・トランスフォーメーションが加速したことは、半導体需要を押し上げた。その結果としてオルガノの超純水技術への需要も急速に拡大した。現在、深刻な水不足に直面している台湾の半導体業界は同社の技術をより必要としている。台湾のTSMCの生産ラインを各国の家電、IT機器、自動車などの企業が取り合っていることを考えると、オルガノは世界のIT先端技術を支える超純水メーカーとしての立場を確立している。同社の超純水精製技術は、台湾の半導体業界に加え、中国の半導体企業からも必要とされている。米国が半導体生産能力の引き上げを目指していることも同社の収益獲得にプラスに働く可能性がある。
また、オルガノは超純水精製などを行う装置の円滑な稼働を支えるソリューション事業も強化し、機器の稼働データを分析して故障などを未然に防ぐシステムを提供している。それが、超純水精製技術と相乗効果を発揮し、海外企業の需要獲得につながっている。
■重要性高まる循環的な水資源の利用を支える技術開発
超純水以外の水ビジネスでもオルガノの成長を期待する投資家は多い。コロナ禍によって世界的な産業排水の浄化や、上下水道の整備の必要性も一段と増した。水処理エンジニアリングと水処理の薬品や微酸性電解水などの機能性商品の両面で、世界がオルガノの技術をより必要とし始めている。
中長期的に、オルガノをはじめとする日本の水関連企業は、水の精製技術とプラントの稼働を支えるシステム(ソリューション)の強化に取り組むことによって、より高い成長を目指すことができるだろう。そのために注目したいのが、水の循環利用を支える技術とシステムの開発だ。その一つとして海水の利用がある。
世界の水資源の97.5%は海水などだ。淡水は全体の2.5%であり、河川など利用しやすい水は0.01%程度しかない。その一方で、気候変動の影響などによって水資源の不足は深刻化する恐れがある。2030年には全世界の水需要に対して、利用可能な水資源が40%不足するとの予測もある。
安定した水の供給のために、海水の淡水化技術の重要性は増す。日本企業は海水の淡水化に用いられるフィルター(膜)市場で世界の50%程度のシェアを持つ。高機能の逆浸透膜の研究・開発を進め、省エネと高い水質の両立を目指している。
それに加えてオルガノをはじめ日本企業に期待したいのが、濾過した海水からもたらされる高濃度の塩水の再利用技術の確立だ。すでに日本では排水の濃度を海水と同程度に薄める技術が開発されてきた。米国などではスタートアップ企業が塩を活用したエネルギーの貯蔵技術などに取り組んでいる。そうした次世代の技術と日本の水精製技術の結合は、世界の水ビジネスにさらなる変革をもたらすだろう。
世界的に水ビジネスの重要性が高まる中で日本企業に求められることは、最先端の研究内容を積極的に生かして、より循環的な水の利用を目指すことだ。それは、日本企業が新しい水関連技術の創出によって世界的な水不足問題解決への貢献と、市場開拓を進めることを意味する。そうした観点から、日本企業がより積極的に新しい素材や水の精製技術を確立し、水不足に悩む国や地域の要請に応えていくことを期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
●真壁昭夫/法政大学大学院教授
一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
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