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日本郵政、6200億円で買収の海外企業の実質価値ゼロに…西室元社長の独断経営の負債
https://biz-journal.jp/2021/05/post_224015.html
2021.05.04 06:00 文=編集部 Business Journal
JPタワー(「Wikipedia」より
日本郵政と子会社の日本郵便は傘下のオーストラリアの国際物流会社、トール・ホールディングスの主力事業の1つを豪ファンドに売却する。売却額は約7億円。トールへの債務保証を実質的に肩代わりすることに伴う減損損失などを含めて、日本郵政は2021年3月期連結決算に674億円の特別損失を計上する。現地の投資ファンド、アレグロに、豪州とニュージーランドでの宅配や貨物輸送事業を売却する。審査当局の手続きを経て6月末に売却を完了する見込みだ。
日本郵政は野村證券とJPモルガン証券を助言役に選び、20年11月から事業の売却先を探していた。国際航空貨物などの混載事業、倉庫保管など企業の国際物流の受託部門は保有を続ける。日本郵政の西室泰三社長(当時)が上場に際して株価テコ入れのためにトールの買収を独断で決めた多大なツケは、まだ残っている。
■西室氏の負の遺産
日本郵政グループ3社の同時上場は政府主導の案件だった。3社同時上場を強行したのは、株式の売却益をできるだけ多くしたいという政府の意向が強く働いた。親会社、日本郵政の上場だけでは東日本大震災の復興財源を確保できないという懐事情があった。
日本郵政グループの上場のために13年6月、元東芝会長の西室氏が日本郵政社長に就任した。2015年11月4日、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険が東京証券取引所に同時上場した。元教師など堅実な個人投資家をターゲットにし、株式を売り込んだ。西室社長ら経営陣は、上場直前の9月下旬から10月上旬にかけて欧米に出張した。海外の機関投資家に経営戦略を説明し、日本郵政グループに投資してもらうためだった。
機関投資家は、高い株価上昇が期待できる新規上場にしか興味を示さない。「日本郵政は成長性に乏しい」と厳しい評価を下した。持ち株会社の日本郵政と、その完全子会社の金融2社が同時上場を目指す“親子上場”に、欧米の機関投資家は拒否反応をみせた。利益相反を防ぐという観点から親子上場は歓迎されない。
海外の機関投資家の買いが期待できないことから、「割安、高配当」を前面に押し出し、国内の個人投資家に買ってもらう方針に転換した。郵便事業でも成長性があるところを見せるため、上場半年前の15年2月、日本郵政は子会社の日本郵便を通じてトールを6200億円で買収することを決定した。トールは100件以上のM&A(合併・買収)を繰り返してきた、継ぎはぎだらけの組織だった。M&Aのプロなら誰も手を出さない。焦っていた西室氏はこの案件にのめり込み、数人の幹部で買収を決断した。買収当初から「高値づかみ」といわれた。買収額は買収公表直前の株価の1.5倍だったが、日本郵政の取締役会で正式に一度も議論しないまま買収を承認していた。
「グローバルに生きていく第一歩が始まった」。トール買収発表の記者会見で、西室氏は高々と宣言したが、日本郵便に国際事業をハンドリングできる人材もノウハウもなかった。上場に向けて厚化粧をしただけだった。
将来性が見込めないまま6200億円という巨額を投じてトール買収を断行したため、西室氏の「負の遺産」といわれてきた。日本郵便は20年かけてトールののれん代を償却していく方針だったが、のれん代は16年末時点で3860億円に上った。トールは豪州経済の減速もあって業績が悪化し、資産価値を切り下げる減損処理に追い込まれた。
トールの買収からわずか2年後の17年3月期に4000億円超の減損処理を余儀なくされた。当初、3200億円の連結純損益と予想していたが、減損処理によって289億円の最終赤字。07年10月の民営化以来、初の赤字に転落した。日本郵政は当時、「マイナスのレガシー(遺産)は一掃できる」と強弁していた。しかし、ここにきて、海外関連の損失を吐き出すことで、長期にわたる業績面の重荷を取り除くことにカジを切った。
西室氏の出身母体である東芝は粉飾決算問題に続き、米原発子会社ウエスチングハウスの巨額減損で解体の危機に瀕した。東芝本社ビル38階の役員フロアには社長、会長の執務室に加え、西室相談役の個室があった。西室氏は土光敏夫氏が使っていた部屋に陣取り、東芝の首脳人事を事実上取り仕切り、“スーパートップ”と呼ばれていた。
■求められる、巨額減損処理の経緯の検証
日本郵便の国際物流事業は20年3月期に86億円の営業赤字となった。赤字の主因となった部門を今回売却したのは“止血”のための損切りにすぎない。トールの赤字事業売却で会見した日本郵便の衣川和秀社長は「大きな問題はこれで終わった」と説明したが、経営陣の責任については「一生懸命対処してきた」と精神論を述べただけ。結果責任についての言及はなかった。
トールの事業のうち倉庫事業を含むアジア圏向け物流は残る。日系企業が多く進出するアジアでの連携を目指すわけだが、今後の事業展開について衣川社長は「正直、社内で十分な議論ができていない」と語るのみだ。
売却後のトール株の簿価は約1000億円。抱える負債も約2000億円ある。6200億円を投じたトール株式の実質的な価値はゼロとなった。日本郵政は政府出資がいまも約6割残る特殊法人だが、2度の巨額減損処理に至る経緯を、きちんと自ら検証したとはいいがたい。
国内市場が人口減で先細るなか、収益向上のためには具体的な国際戦略の構築が欠かせない。トールの国際部門を残した今回の決断の責任は、日本郵政の増田寛也社長らが負うことになる。
(文=編集部)
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