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ANA、パイロット出演のYouTube動画に削除警告…合併先社員へパワハラ横行
https://biz-journal.jp/2021/04/post_222121.html
2021.04.24 06:05 文=松岡久蔵/ジャーナリスト Business Journal
全日本空輸のボーイング767-300(「Wikipedia」より)
全日本空輸(ANA)がCA(客室乗務員)だけでなく、パイロットにもSNS上の発言について異常な監視体制を敷いていることが明らかになった。パイロットが人気YouTubeチャンネルに出演した結果、そのチャンネルがあわや閉鎖に追い込まれる騒動に発展した。さらに、パイロットの間でANA生え抜きの「純血主義」が横行し、吸収合併した子会社出身者への差別がパワハラという形となって表れているという。
■現役機長がYouTube出演でANA激怒
この連載第1回で、ANAがCAのFacebookなどのSNS利用に対して、異常なまでの監視体制を敷いている実態を紹介した。筆者が取材を進めた結果、これがパイロットにまで及んでいることが明らかになった。
事の発端は、航空業界関係者や飛行機好きなどを中心にファンが多い人気YouTubeチャンネルの閉鎖騒動だ。このチャンネルは元機長が配信主で、現役時代に経験した航空業界の内情について紹介するもので、昨年10月、ANAの現役機長をゲストで招き、コロナ禍での最新事情などについて話す番組を配信した。主な内容は以下の通りだ。
・コロナ禍でスケジュールがガラガラでヒマ
・20年1月にANAのCAで搭乗時の飲酒検査で引っかかった事案が発生し、国から事業改善命令が出た。それを踏まえて、ANAでは乗務後にもパイロットとCA全員の飲酒検査が実施されている。さらに、目的地到着から24時間は飲酒不可になり、地酒などが飲めず現地でCAなどとの会食もできずに退屈。会社側の従業員への不信感が現場で共有されており、現場の士気が下がっている。
・コロナ禍で巨額の有利子負債を抱えたANAは破綻するかもしれず、日本航空(JAL)との統合もあり得る。統合後の社名は「JANAL」「JANA」などが考えられる。
いかがだろうか。現役機長としては突っ込んだ内容だとは思うものの、運航に関する保安上の機密情報が開示されているわけでもない。現役機長が休暇を利用して社名を明らかにせずにぶっちゃけトークをするという意味では、常識の範囲内だろう。
■部長名義の業務命令で威圧的に「動画削除」を警告
ところが、ANA当局はこの発言内容に激怒し、社内で猛烈な犯人捜しが始まった。動画の配信直後に「フライトオペレーションセンター 業務推進部長」名義で「【注意喚起】ソーシャルネットワーキングサービスにおける不適切動画について」という以下の文書が、パイロットを中心に業務連絡として出回ったという。
「今般、SNS上(他者が主催するYou Tubeチャンネル)で、ある人物がANA運航乗務員を匂わせる発言とともに会社を揶揄するような発言を行い、当該チャンネルを視聴した方から指摘を受けるという事象が発生しました。
多くの方は認識されているものと思いますが、当社の信頼失墜につながるような発言をSNS上で行うことは、プロフェッショナルとして日々の安全運航を支えている多くのANA運航乗務員の品位を貶めるものでもあり、決して看過できるものではありません。
今回の動画がどのような経緯で配信されたのか現在調査を進めています。万が一、本件に関与した者が社内にいるのであれば、当該動画を速やかに削除するよう警告します。
FOC運航乗務員・スタッフにおかれては、あらためてANAグループソーシャルメディア利用規程を確認いただき、一人ひとりが『ANAグループ』を背負っていることを今一度強く認識するとともに、適切にSNSを利用するよう努めてください。 以上」
まるで犯罪者をあぶりだすような威圧的な文言が並ぶが、この連載第1回でご紹介したような、CAに対する「SNSの不適切投稿」を禁ずる文言と、「外部からの指摘で発覚した」という論法まで瓜二つである。今回出演したANAの現役機長が番組内で会社側への不満めいた発言をしていたのは確かだが、どれもこれもANAが従業員に十分な説明もないまま、国や世間への体面だけを繕おうとする姿勢が原因のものばかりだ。
この犯人捜しにしても、「ANAグループではSNSで自由に発言するな」という言論統制の本音が透けて見える。ANAがすべきはSNSをいちいち監視することではなく、現場の社員の声を汲み上げた上で職場改善の努力をしていくことだろう。
この後、出演者にまで危害が及ぶことを恐れた配信主の元機長は番組を削除し、チャンネル閉鎖まで検討したというのが事のいきさつだが、まったくいい迷惑だっただろうと思う。なお、ANAから配信主と出演者に対して不当な圧力がかかる懸念があるため、今回は当事者への取材はあえて行わず、筆者が動画内容を確認し、内情を知る関係者に取材するにとどめておいたことは強調しておく。
■ANAの生え抜き「純血主義」はバブル世代から、ANK出身者への差別横行
さらに、平成3、4年(1991、92年)のバブル入社世代以降に植え付けられた「ANA生え抜き純血主義」が、コクピットの風通しを著しく悪くしている。差別意識の矛先は、2012年に吸収合併されたエアーニッポン(ANK)出身者だ。
ANKは1974年に離島等の航空輸送を確保するために、日本近距離航空として運航を開始した。その後、全国に路線を拡大したが、共同運航という形でANAグループに取り込まれ、主に地方路線を担当することになった。この当時から、ANAのパイロットとの間で賃金格差などの問題が指摘されていたが、そこで育まれた差別意識が吸収合併後の現在も根深く続いているというわけだ。以下はANAのベテラン社員の解説。
「バブル世代入社のパイロットは、大量採用の時代であったため、あえて自分はJALではなくANAを選んだというプライドがもともと高い人間が多い。その上、ANK出身者に対して元子会社の社員で賃金も低かった過去をとらまえて、格下に見る傾向があったことは事実です。かつてJALと日本エアシステム(JAS)の間で起きた差別構造がそのまま残っている格好です。
パイロットの場合、密室で『指導』の口実が通用するコクピットの中でのパワハラが横行しており、『馬鹿ANK』などと恫喝された話も聞いています。パワハラをきっかけとした退職や休職もANK出身者の割合が高く、ANA純血主義の洗礼を防衛省出身のパイロットも受けています」
ANA社員のANK出身者への差別は、パイロットだけでなくCAや地上スタッフの昇進でも歴然として存在する。現在のところ、ANAホールディングス(HD)取締役、執行役員にANK出身者はゼロである現状を考えれば、ANK出身者の待遇改善など望むべくもないだろう。
パイロットのSNS監視とANAのパイロット純血主義に共通するのは、「経営側は絶対で、それを少しでも邪魔することは悪」という価値観だ。逆の言い方をすれば、いくら常識と乖離してもANAイズムに染まれば優遇されるということでもある。ただ、昭和の時代なら“右にならえのカイシャ絶対主義”が通用したかもしれないが、21世紀も20年以上経過した。多様性を重んじる現代で、この考えは恐ろしく遅れているといわざるを得ない。
度合いにもよるが、不満や不平を経営改善に生かせず、抑圧ばかりする企業はどこかの時点で危機的な状況に陥ることは、これまでの歴史が語っている通りだ。ANAにとってはまさに今がその時だろう。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)
●松岡 久蔵(まつおか きゅうぞう)
Kyuzo Matsuoka
ジャーナリスト
マスコミの経営問題や雇用、農林水産業など幅広い分野をカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや文春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。ツイッターアカウントは@kyuzo_matsuoka
ホームページはhttp://kyuzo-matsuoka.com/
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