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なぜ非上場の出版会社が「船井電機」へTOB?上場廃止の見通し…M&Aの新たな形態
https://biz-journal.jp/2021/04/post_219107.html
2021.04.11 06:00 文=編集部 Business Journal
船井電機本社(「Wikipedia」より)
船井電機に対して、出版事業を手掛ける秀和システム(東京・江東区、非上場)が子会社を通じてTOB(株式公開買い付け)に乗り出した。船井電機はTOBに賛同している。TOBが成立すれば船井電機は東証1部上場廃止になる見通しだ。
TOBの主体は秀和システムの子会社、秀和システムホールディングス(同)。買い付け価格は船井電機株1株に対して918円。TOB公表前日の終値696円に31.9%のプレミアムをつけた。買付予定株数は2278万株。下限は所有割合32.49%に相当する1116万株。船井電機の創業者の長男である船井哲雄氏が保有する株式34.18%(TOBには応募せず)と合わせると、発行済み株式の3分の2以上になる計算だ。買付期間は3月24日〜5月10日。TOB完了後は秀和システムの上田智一社長とNTTぷらら元社長の坂東浩二氏が代表取締役に就任予定である。
今回のTOBには特異な点がある。非上場の出版会社が家電メーカーを買収するというのがわかりにくい。創業者の遺産である船井電機株の引き受け先をめぐる人間関係のなせる業なのである。
■船井電機株を相続した長男
創業者の船井哲良氏は2017年7月4日、肺炎のため90歳で亡くなった。長男の船井哲雄氏が船井電機株の34.18%を相続した。哲雄氏は北海道の旭川医科大学卒業の呼吸器外科の医師で現在、旭川十条病院の院長である。
船井電機の公表資料によると、哲雄氏は株式を相続した17年から、父親が遺した船井電機の経営を託す人物を探していた。いくつかのファンドと接触したが信頼関係を築くことができなかった。
19年8月30日、船井電機の顧問であった坂東浩二氏に「経営を任せたい。(哲雄氏自身が保有する)株式を譲り渡す意向がある」と伝えた。19年9月上旬、坂東氏はビジネスを通じて付き合いのあった秀和グループの上田智一氏に話を持ち込んだ。「上田氏と共に取り組むのが適切」と判断したという。
坂東、上田の両氏は「上場を維持しながら再成長に取り組むのは最善の策ではない」と考えた。上場を廃止して中長期的な視点で経営改善に取り組むとの認識で一致した。20年6月、両氏は船井哲雄氏との協議で、「船井電機を非上場化することで合意した」。ここからTOBに向けて動きだす。
坂東氏は徳島大学工学部電子工学科卒でノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏と同級生。1977年、日本電信電話公社(現NTT)に電子技術者として入社。96年3月、マルチメディア開発担当部長。98年、通信販売会社NTTぷららの社長に就任した。
坂東氏がNTTぷらら社長に就任した当時、累積赤字は37億円、毎月1億円の赤字をタレ流していた。同氏はプロバイダー事業に特化。さらに映像配信事業「ひかりTV」など時流に乗った分野でビジネスを開始し、会員600万人、売り上げ800億円規模の企業へと変身させた。19年6月に社長を退任するまでの21年間、増収を達成した。退任後、船井電機の顧問に招かれた。
一方、上田氏は1998年、青山学院大学国際政治経済学部を卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2008年、IT&経営コンサルティング会社ボールドグロウス(東京・千代田区)を設立して社長に就任。製造業の領域のサプライチェーンマネジメントや業務改善の最適化のコンサルティングを得意とするが、M&Aの実績も豊富。15年12月、買収したコンピュータビジネス書籍の出版社、秀和システムの会長兼社長になった。秀和システムが今回、TOBを実施する。
TOBは船井哲雄氏の意思による。父親が精魂を傾けてつくった船井電機の経営を坂東氏と上田氏に託することを決断した。哲雄氏はTOBには応募せず、TOB成立後、買い付け価格918円の半値以下の403円で秀和グループに持ち株を譲渡する。関係者によると「経営を引き受けてくれた謝礼の意味が込められている」。
今回のTOBの本質は、創業者の遺産である船井電機株の処理にある。株式の相続をめぐるお家騒動や相続した株式が外部に流れて乗っ取り劇に発展するケースは珍しくない。そうしたトラブルを耳にしてきた哲雄氏は、投資ファンドではなく、坂東、上田の両氏を見込んで船井電機を売り渡すことにした。M&Aの歴史のなかでも極めて珍しいケースである。
■北米市場から日本市場に回帰したが浮上できず
船井電機が飛躍するきっかけになったのは、1990年代に始めた米小売り大手ウォルマートとの提携だった。ウォルマートの全米に広がる店の店頭に船井電機製のテレビが並んだ。2008年にはオランダのフィリップスから北米テレビ事業を取得し、北米を重視する姿勢を鮮明にした。00年代後半には韓国サムスン電子に次ぐ、北米シェア4位まで成長した。しかし、北米で安定した収益を確保できたのは00年代まで。海信集団(ハイセンス)など中国勢の安値攻勢に見舞われた。コストをとことん抑え低価格の商品を供給することで知られた船井電機をもってしても、中国の大手に抗して収益を確保するのは難しくなった。
創業者である船井哲良・取締役相談役(当時)は国内テレビ市場への回帰を決断した。北米向けの低価格のOEM(相手先ブランド)生産から国内向けの4Kなど高品質の自社ブランドで勝負するという経営方針に180度転換した。
哲良氏はヤマダ電機の創業者、山田昇会長兼取締役会議長をビジネスパートナーに選んだ。ヤマダは17年から「FUNAI」ブランドのテレビを独占販売した。それでも業績は好転しなかった。最盛期の07年3月期には3967億円の売り上げがあったが、21年同期の連結売上高は前期比10%減の800億円、最終損益は21億円の赤字(20年同期は23億円の赤字)の見通し。年商はほぼ2割に激減した。赤字から脱却できず業績は水面下に沈んだままだ。哲良氏が17年に亡くなり、その後、明確な経営再建策を策定できぬまま、TOBを機に株式市場から退場することになるのか。
再生を引き受けた坂東氏、上田氏に船井電機をよみがえらせる策があるのだろうか。テレビは構造不況業種の代表のようにいわれて久しい。
(文=編集部)
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