「女王アリが死亡」展示が終了 来園者が驚いた「変化」 緩やかに迎える滅び「『生きること』の意味」は withnews 2021/11/02 07:00 「女王アリが死亡しました」と周知し、女王を失ったアリの群れが衰退する「終焉(しゅうえん)」をあえて見せて話題になった展示が、女王死亡から5カ月、ついに終わりを迎えました。
見守ってきた来園者は、アリたちのある変化に「生きること」を考えたと言います。話を聞きました。(松川希実) 「展示を終了いたしました」 展示を行っていた多摩動物公園(東京都日野市)は、10月28日、ツイッターの公式アカウントで展示の「終了」を宣言しました。 <女王が死亡したハキリアリの展示は、巣内の状態が悪化したため展示を終了いたしました。新たに、バックヤードで飼育していた女王が存在している群れを展示場へ出しています。これまで女王亡き後の群れのゆくえを見守っていただき、ありがとうございました――多摩動物公園(@TamaZooPark)のツイート> 女王アリが死後5カ月、この群れでは働きアリたちが、女王が生きていた頃と「変わらぬ日常」を繰り返していました。 しかし、群れの働きアリたちはすべて、女王の子ども。そのため、女王アリの死が意味するのは、群れに「新しいアリ」が生まれなくなることです。 それぞれの働きアリが命尽きると同時に群れは衰退して、「日常」には間もなく終わりがくることが分かっていました。 その様子は「まるで社会を見ているようだ」「とてもエモい」と話題になりました。 <「滅びの展示」というすさまじい企画(中略)とても貴重な展示だと思います――空白寺さん(@vanity_temple)6月15日の投稿>
「命の記録を残したい」との思いから、カメラ歴約35年の腕前で、ハキリアリの群れを撮影し、ツイッターで「空白寺(@vanity_temple)」というアカウント名で投稿してきました。 ハキリアリの展示には、6月15日から10月5日まで、5回訪れ、様子を見守ってきました。 「滅び」の予兆 なぜ、「終焉」にひかれたのでしょうか。 空白寺さんはこう答えました。 「動物園にとって飼育生物の死は基本的にネガティブなものであり、積極的にPRしようとはしません」 「しかしこのハキリアリに関しては、あえて女王死亡後の群れの衰退を見せることで来園者に深くハキリアリの特徴や習性を知らしめようという意図があると知り、園のそういう姿勢にも感銘を受けました」 7月6日に再び訪れた時、すでに「滅び」の予兆を感じました。徐々に菌園が減少しはじめていました。 <働きアリの高齢化と個体数減少が進み、第一菌園の維持も困難な状況に。菌園の縮小は食料不足を招き、それは体が大きく行動量の多い運搬アリの飢餓に直結します。滅びの日は近いかもしれません。――空白寺さん(@vanity_temple)7月6日の投稿> 「切なくなりました」 訪れる度に見える「衰退」。空白寺さんは「いつまで群れを維持できるのだろうか」と考えながら、レンズを向けていました。 7月20日に訪問すると、菌園の表面にアリたちが本来食べない不要なキノコが発生していました。そして展示の近況にはこう書かれていました。「ゴミ捨て場とは別に、死がい置き場を作り始めました」 空白寺さんは、崩れそうな菌園を写しながら、投稿しました。 <ゆるやかに迎えつつある滅亡。それでも残ったアリたちは自分の役割をこなし続けています――空白寺さん(@vanity_temple)7月21日の投稿> 「見に行くたびにハキリアリにとっての『畑』である菌園が小さくなっていき、アリの数も減っていくのを見て切なくなりました」 確実に滅びへと向かっている――。 「一生懸命」 8月5日、アリたちの変化に目を奪われました。 体の大きな「本来外敵と戦う役目の兵アリ」の一部が、体の小さな葉切り役のアリたちに混ざり、葉切り作業をしていたのです。 <緩やかに迎えつつある滅びを前に、アリたちは協力して一生懸命生きています――空白寺さん(@vanity_temple)8月5日の投稿> 空白寺さんは振り返ります。 「完全分業制で他に類を見ない『農業をする昆虫』という驚異の存在」であるハキリアリ。 その「複雑なシステム」が、個体数の減少により維持できなくなっていく様子に、「どこか人間社会に共通するものを感じて物悲しさも覚えました」と言います。 一方で、「強さ」に心を打たれていました。 「残ったアリたちは女王アリ存命時と変わらず自らの役割をこなし続けていました。その一切の迷いがない姿には強さと美しさを感じました」 「何のために生きるのか、などという悩みは彼らにはないのだ。ただ己が為すべきを為す。なんとシンプルで強いことか」 「たとえ滅びが待っていたとしても」 空白寺さんが最後にハキリアリの展示を訪れたのは、10月5日でした。 菌園はとても小さくなり、アリの数も少なくなっていました。アリたちの切り出し用に用意されている枝も2本から1本に。 それでも、残ったアリたちの行動だけを見れば、「以前と変わらぬ姿」が続いていました。 「信頼できる仲間たちと、いつも通り過ごす日常」たとえ滅びが待っていたとしても、アリたちはそうやって生きていく。それが理解できました。 「緩やかに迎える滅び」
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