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米英政権や日本のメディアは、「フセインは独裁者だ」とか「イラクは独裁国家」だといったレッテルを貼って、「フセイン政権の打倒とはイラク国民を解放することだ」と叫んでいる。
TVも、フセイン支持と反米を語るバクダッド市民のインタビューを流した後で、判を押したように、「独裁国家ですから自由にしゃべれないからそういう話になる」と注釈をつけている。
何をもって独裁だとか独裁国家と呼ぶのか、そのような呼び名は、たんにある国家を貶め様々な介入を行うための政治的スローガンでしかないのではないかという疑念の提起はさておき、イラクの統治構造がどのようなものかを垣間見る記事が今週号の「ニューズウィーク日本版」に掲載されているので紹介する。
「湾岸戦争」時の実情も知ることができる面白い記事である。
『ニューズウイーク日本版3・19』 P.31「部族社会はどう動く」より:
武装勢力:イラク史を動かしてきた社会構造が開戦後の展開を決める重要な要素に
「族長のカディム・アルメンシャブ・アルハビブと彼の男たちは、米軍に捕まった91年のことを思い出すと、今でも笑いが込み上げてくる。
イラク軍がクウェートから撤退していたころ、イラク南部の都市でサダム・フセイン大統領への反乱が起きた。カディムは部族の戦士14人を率いて、反乱鎮圧に協力した。だが帰り道に、50人ほどの米兵に包囲されてしまった。
イラク屈指の規模を誇る部族の長を世襲したカディムが捕まれば、フセイン政権の一大事だ。だがガディムは、米兵に嘘をついた。
「俺たちは反乱勢力だと言ったら、武器を返してくれた」と彼は言う。「近くの沼地にいた反乱勢力の場所も教えてくれた。一緒に戦うと思ったのだろう」
<中略>
カディムは今、26万7000人の武装戦士を配下に置いている。彼の家には、自分とフセインの写真が飾られている。
戦争が始まれば、カディムら族長の忠誠心が決定的な役割を果たす。オスマン・トルコ帝国時代から、この国の政権の運命は部族に左右されてきた。イラクには150の部族があり、人口約2400万人の少なくとも4分の3が、いずれかの部族に属している。
<中略>
米軍は今、91年に反乱勢力が一時的に14都市を制圧したイラク南部で心理作戦を進めている。
<中略>
「アメリカ人は私たちを理解していない」と、バスラのある族長は本誌に語った。「部族とフセイン政権の結束は非常に固い」
若い側近の一人がこちらに身を寄せ、つけ加えた。「中央政府に従う。だが、もし関係が切れれば、権力はすべて族長が握る」
族長が若い男に合図を送ると、その男は反ブッシュの詩を朗読しはじめた。外では銃を背負った民兵が、親フセインのスローガンを叫びながら後進している。
フセインとの結束は−−少なくとも、今のところは固い。」
★ まず、イラク南部の話だから、シーア派に属する部族だと推定できる。
● 「湾岸戦争」は米軍などが撤退するイラク軍を後ろから攻撃した卑劣な戦争
ニューズウイーク誌は気の緩みか、「イラク軍がクウェートから撤退していたころ」と書いている。「湾岸戦争」は、ソ連の仲介でイラク軍がクウェートから撤退を開始した後に始められたのである。イラク軍は、攻撃を受けるとか、戦闘になるという考えを持たないままやられたのである。
● 反フセインの蜂起は小規模
「カディムは部族の戦士14人を率いて、反乱鎮圧に協力した」とある一方で、「カディムは今、26万7000人の武装戦士を配下に置いている」と書いている。
「湾岸戦争」時に発生した蜂起が大規模なものであれば、わずか14人を率いて鎮圧に向かうことはない。
「反乱勢力が一時的に14都市を制圧した」のは、米軍などによる“汚い”攻撃を受けて大混乱に陥った間隙をぬって行われたと推測できる。
しかも、米兵が「近くの沼地にいた反乱勢力の場所も教えてくれた。」というのだから、米国の影響下にある勢力が米軍に唆されて蜂起した可能性が高い。
● シーア派多数派はフセイン支持
イラク問題を語るときには、イスラム二大宗派の対立やクルド人の問題が取り上げられる。
しかし、この記事を読むと、スンニ派に属するフセイン大統領とシーア派多数派の関係は良好だと推測できる。
フセイン大統領は世俗主義を基礎にイスラムをそれなりに尊重しているので、シーア派としては、イスラム主義のスンニ派が政権を取っているよりずっといいのだろう。
● フセインは独裁者ではない
独裁者が、「26万7000人の武装戦士を配下に置」く族長の存在を許すはずもない。部族社会と政府の関係も、「中央政府に従う。だが、もし関係が切れれば、権力はすべて族長が握る」というものだ。
このような統治構造を持つ国家を独裁国家というわけにはいかない。
日本のメディアもフセイン政権が銃を国民に配っていると報じているが、市民の自由を権力で抑えつけている権力者が、それに対抗する力になる銃を配ることはないのである。
● CIAがイラク攻撃に反対するわけ
この記事を読むと、CIAやスコット・リッター氏がイラク攻撃に反対している理由がわかる。
部族社会と国家機構の二重支配構造になっている国家に正規戦で勝利しても、国家社会全体を支配することはできない。
米国は先の大戦の結果はじめた日本占領の占領体験を支えにしているが、イラクの統治構造は、中央集権的近代国家であった日本とは異質のものである。
「大東亜戦争」時に、中央政府とは独立して26万7000人もの武装戦士を配下に置く“藩主”はいなかった。
イラクの統治構造は、江戸幕藩体制に近いものである。
米英の愚かな政権は、戦争には勝てても戦略を達成することはできない攻撃に踏み出そうとしているのである。