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(回答先: したたかに生きるクルド人 イラク、反政府の自治区は今…(産経2/25) 投稿者 YM 日時 2003 年 3 月 04 日 06:37:34)
国際ジャーナリスト河合洋一郎のワールド・インサイダーレポート 第65回
米英が対イラク新決議案を提出。その直前、プリマコフをバクダットに派遣したロシアの狙いは?
シルクワーム対艦ミサイルという手荒な花火を打ち上げて北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が韓国新大統領の就任を祝った先月24日、米英、そしてスペインの3国共同という形で国連安保理に対イラク新決議案が提出された。この決議案は、イラクは安保理決議1441で与えられた大量破壊兵器を廃棄する最後のチャシスを逃したという簡潔な内容で、武力行使の文字は出てこない。が、これは採択に向けて安保理理事国の中で新決議反対派、そして、まだ態度を決めていない国への政治工作をやりやすいように言葉をトーンダウンさせたに過ぎない。アメリカにとってこれはあくまでも対イラク武力行使容認かつ最終決議案である。
フランス、ドイツ、ロシアといった安保理内のイラク攻撃反対強硬派は、同じ日に査察強化を目的としたメモランダムを安保理に提出し、米英と真っ向から対決する姿勢を見せている。国連史上まれにみる激烈な多数派工作が展開中だが、アメリカ側には、国連が武力行使を認めないのならイギリスとともに攻撃に踏み切るまで、という切り札がある。
安保理常任理事国であるフランスやロシアにも拒否権を行使して新決議を潰すという最終手段があるが、潰した上でアメリカに単独攻撃をやられれば国連の虚構が白日の下にさらけ出されてしまうことになる。そうなれば安保理常任理事国という国際政治の舞台における彼らの力のひとつとなってきた立場を自ら弱めてしまう結果となる。そういった状況に追い込まれないためにフランスとロシアはドイツと協力して、安保理での交渉以外の場所でも戦争回避に向けた最終工作を活発化させているようだ。
その水面下の動きを示す出来事が23日に起きている。元ロシア首相のプリマコフが突然、非公式にバグダッドを訪問したのだ。プリマコフといえば中東問題を専門としたジャーナリスト出身で、エリツィン政権下で首相に任命される前には外相やSVR(ロシア対外情報機関)長官を歴任したロシア外交の重鎮である。
(中略)
プリマコフとサダムの間で何が話し合われたかについて欧米では、査察団をバックアップする国連軍のイラク国内への受け入れを許す、1年後にサダムが引退し、民主政権を樹立する、など様々な情報が飛び交っている。確かに、もしこの時点でサダムが武力査察を受け入れればイラク攻撃に向けて突っ走っているアメリカにブレーキをかけられるかもしれない。武力査察が無条件かつ全面的な査察協力と同じ効果を持つと攻撃反対派が主張すれば、さすがのアメリカもそれを無視して攻撃を推し進めることはできない。そもそも武力査察は当初、米英が主張していたものだからだ。少なくとも夏が終わるまで攻撃の延期を余儀なくされる可能性は高い。
(中略)
アメリカは今週金曜日に再び予定されている安保理への査察報告の後、週明けにも新決議案の採択を目指しているが、そうなると開戦は今月中旬以降となる。前号で述べたように中旬だとイラクの夜空は月光に照らされた状態での空爆となる。月が再び細くなるまで待つのなら、空爆は3月の終わりということだ。新決議案の採択、採択後にどうやってサダムに人質に取られることなく査察団メンバーをイラクから退去させるか、間近に迫る砂嵐のシーズンなどアメリカは多くの問題に直面しているが、ここにきて、さらに深刻な問題が加わっている。
北部イラクのクルド人居住地域が非常に不安定になりつつあるということだ。その原因はトルコの動きである。
トルコが米軍とは別に北部イラク占領に動き出す
周知のごとくアメリカはイラク攻撃の北部戦線の基地にトルコを使おうとしており、米軍の駐留をトルコ政府に要請してきた。トルコ側は去年末よりこの要請を受け入れると言ったり、やはり無理だと言ったりして煮え切らない態度をとり、決定をズルズルと引き延ばしてきた。が、先々週、業を煮やしたアメリカに48時間以内に回答せよとプレッシャーをかけられたため、24日に米軍の受け入れが閣議決定され、その2日後に国会審議に回されている。トルコに対する見返りは計卿億ドルの緊急支援で合意を見ており、閣議決定をみたことからも米軍駐留に関する問,題はほぼ解決したようにマスコミは報道している。が、実はまだ大きな障害が残っている。(注=その後トルコ国会は三月一日、米軍駐留承認提案を否決 =引用者)トルコ軍による北部イラク進駐である。
トルコ側は戦争が始まったらトルコ軍が米軍の指揮下から独立して北部イラクに進攻する許可、そして、戦後にはキルクークとモースルといった大油田地帯を含めた地域に軍を駐留することを要求しているのだ。米軍の駐留を認める法案の中にトルコ軍の外国進駐許可も含まれているのはそのためだ。
すでにトルコはイラク進攻のために陸軍の第2軍団の司令部をイラク国境付近の基地に移動させており、そこに先週の時点で10万人以上の兵力を集結させた。また、北部イラク領内に常駐している軍の特殊部隊がキルクーク周辺に居住する約50万人のトルクメン人たちに武器を供給しはじめている。
トルコは北部イラクヘの軍事介入の目的をサダム排除後にイラクのクルド人が独立を画策する恐れがあるため、また、大量の難民がトルコに進入してくるのを防ぐためなどとしているが、それは口実に過ぎない。彼らは今回の戦争を利用して以前トルコ領だった北部イラクを取り戻そうとしているのだ。
そして、トルコ政府が少しまだアメリカと協議せねばならないことが残っていると言っているのは、このトルコ軍がイラク攻撃にどのような形で関与するかという最も重要な部分なのだ。両者の間でどういう決着を見るか、この稿執筆時にはまだわからないが、このトルコの動きはイラクのクルド人、そしてイランの警戒心を極度に強めている。北部イラクのクルド人組織は、トルコ軍が進入してくれば武器を取って戦うと言明しており、イランは2週間ほど前に、北部イラクヘSCIRI(イランを拠点とするイラク人シーア派反体制組織)の軍事部門であるアル・バドル軍兵5千人を送り込んだ。
アル・バドル軍の兵士たちは高度に訓練されており、パスダラン(イラン革命防衛軍)の完全な支配下にある。彼らの北部イラク潜入はハメネイ師を頂点とするイラン保守派の指令によるものだということだ。面白いことにサダムは、イラク軍にこの反体制派部隊の動きを妨害させず自由に動き回らせている。彼らの目的はサダムと戦うことではなく、北部イラクに入ってくるアメリカ軍とトルコ軍に対する攻撃や破壊工作を行なうことだからだ。
アメリカはトルコの要求を呑まなければ北部戦線を諦めねばならないが、受け入れればトルコ軍とクルド人、そしてシーア派イラク人tの戦闘を招いてしまうというジレンマに立たされているわけだ。攻撃開始前一までにこの問題を解決できなければ、仮にバグダッドを陥落させることに成功したとしてもイラクは泥沼の内戦に引きずり込まれてしまう可能性が高いと言わざるを得ない。
(後略)