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◇「最後の買い手」解体の危機――日経金融スクランブル
「今のものを壊してどういう新しいものを作らないといけないのか真剣に考えないといけない」
1月23日の衆院予算委員会で小泉純一郎首相はこう言った。
首相の身上は創造的破壊であるだけに「ああまたか」と見過ごしてしまいそうだが、「今のもの」とは公的年金の運用を担う年金資金運用基金のことだ。首相は同基金を廃止も含めて抜本的に改革すべきだ、との考えを示したのだと聞けば、市場関係者にはこのセリフの重みが理解できるに違いない。
年金資金運用基金は旧年金福祉事業団の後継組織。運用資産額は2002年9月末で29兆円弱。運用資産は今後も膨らみ、数年後には約160兆円と「世界最大の投資家」になる。
株式市場の注目度は極めて高く、デフレ経済下でも株価が底なしに下落していかないのは、売り方が「公的年金の買いで踏み上げられてはかなわない」との警戒感を常に意識しているからでもある。
同基金の廃止問題は特殊法人改革の一環として2001年にいったん持ち上がったが、年金改革が実施される2004年まで結論は先延ばしになった。
その後、株式相場の下落で同基金の運用成績は一段と低迷しており、日興ソロモン・スミス・バーニー証券の藤田勉ストラテジストは1月28日付リポートで「年金資金運用基金が廃止になる可能性が出てきた」と指摘している。その後の公的年金は「株式は保有せず、国債の持ち切り運用などだけに限定。国が直接関与する」(厚生労働省)といった形態が議論されている。
そうなれば国内株市場への打撃は計り知れない。東証がまとめる投資主体別売買動向を過去3年間累計すると、年金資金の動向を表すとされる信託銀行の買越額は7兆5500億円と断トツだ。
しかも、信託銀は唯一の3年連続買い越し。外国人と投資信託も買い越してはいるが、1999年のIT(情報技術)相場や2000年の小泉相場で大きく買っただけで、買いの姿勢に安定感はなく、その結果として買越額も小さい。
企業年金の株離れが加速するなか、公的年金の存在感は一段と大きくなっている。同基金が2002年度に予定する国内株の新規購入額は1兆7000億円。これは2002年の信託銀行の買越額(2兆930億円)の8割に相当する規模だ。
公的年金が国内株投資を取りやめれば、株式市場への資金供給が急減、売り方が勢いづいて空売りを一気に膨らませ、需給関係が底抜けに悪化する可能性も否定できない。
運用資産から株式が排除され、債券だけになること自体の危険も指摘されている。デフレ圧力が高まるなか、「株はリスクが高く、債券は安全」といった見方が受け入れられがちだが、上昇を続ける債券相場には「バブル」の懸念がつきまとう。また、経済がインフレに戻ってしまえば、株式を持たないポートフォリオの運用成績が大きく落ち込むのはまず間違いない。
また、公的年金が国債ばかりを買うようになれば、「米エンロンの年金基金がエンロン株を大量に保有したのと同じで、リスクが集中してしまう」(ニッセイ基礎研究所の臼杵政治主任研究員)。実際、アルゼンチンの公的年金は自国の国債に投資した結果、大きな損失を被ったという。
年金資金は数十年単位の長期運用が欠かせないにもかかわらず、数年間損失が続くだけで、運用の基本である分散投資の考え方に反して「株をやめろ」の大合唱が始まってしまう。これは結局、「国民全体に広がる株アレルギー」(臼杵氏)が根底にあるのかもしれない。
意外高となった3日の東京株式市場では日経平均株価が8500円台を回復。米スペースシャトルの事故を受けて売りが優勢だった朝方の雰囲気を変えたのは、やはり公的年金とみられる買いだった。それがなければ後場の一段高もなかっただろう。
いまや「最後の買い手」である年金資金運用基金が解体されるかもしれないと聞いて、ある投資家は「考えただけで背筋が寒くなる」と身震いした。(山下茂行)