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インフレターゲット論者の限界性:デフレ=貨幣現象論の陥穽
投稿者 あっしら 日時 2003 年 2 月 04 日 17:53:22:

(回答先: 野口旭の「ケイザイを斬る!」 第2回 「構造」なる思考の罠 投稿者 TORA 日時 2003 年 2 月 04 日 11:19:06)


野口旭氏は、金本位制と管理通貨制という違いはあるが、同一“原理”で動いている経済社会との比較として19世紀末のデフレも取り上げている。

※ 現在の中国のデフレは、19世紀後半のデフレとりわけその時代の米国のデフレに通じるものがあると考えている。
(外資導入による急激な生産性の上昇と輸出拡大ペースを超える供給力の増加など)

>歴史といえば、最近の構造的デフレ論者が好んで援用するのが、「大不況期」とも呼
>ばれる19世紀末に生じた世界的デフレである。榊原英資氏は、上記論考の中で、この
>時期の状況を「貿易・資本移動の拡大が必然的にデフレをもたらす」ことの証拠とし
>て詳細に論じている。

>ところが実際には、この大不況期の経験は、デフレがまさしく貨幣的現象であること
>を示しているのである。というのは、この19世紀末は、金本位制が世界的に拡大した
>時代だからである。金本位制の下では、各国の通貨供給量は常にその保有する金準備
>の制約を受けるので、経済成長によって貨幣需要が拡大したとしても、それに応じて
>貨幣供給を十分に増加させることができない。その場合、通貨供給の伸び率が実質経
>済成長率よりも低ければ、物価は傾向的に下落していくことになる。19世紀後半に世
>界的な長期デフレが生じたのは、まさしくそのためである。この推論は、この長期デ
>フレの終焉が、1890年代に入ってからの新たな金鉱脈の発見(南アフリカ、アメリカ、
>オーストラリア)とほぼ重なっていることからも裏付けられる。

膨大な金量を保有していた大英帝国でもデフレに見舞われたことからわかるように、新たな金鉱脈の発見がデフレを収束に向かわせたと判断するのは誤りである。
世界中に資金を供給していた大英帝国は、絶対的な通貨不足ではなかったである。
(米国も、当時は中小の発券銀行が乱立し通貨を大量に供給したが、デフレのために不良債権を抱え破綻するというものであった)

19世紀後半のデフレは、金の採掘量の増加ではなく、植民地(販売市場の拡大)や産業再編(企業合同など)と現代風な消費社会(セールスマンや広告宣伝従事者の増大)によって解決されたのである。
国内供給を減少する植民地の拡大や巨大資本による供給力の調整と新たな需要者(=供給者)としてのセールスマンが増加することでデフレは収束した。
しかし、それらは根源的な解決策ではなかったがゆえに、第一次世界大戦→大恐慌→第二次世界大戦という世界の構造を変える大変動を必要とした。

>ヴィクセルの『利子と物価』は、何よりも、「物価の変動は自然利子率(=貯蓄と投
>資を均衡させ物価を一定に保つ利子率)と貨幣利子率(=現実の利子率)の乖離によっ
>て生じる」という、「物価の累積過程」と呼ばれる理論を提示した書として知られて
>いる。ヴィクセルによるデフレの説明も、まさしくその観点からのものである。すな
>わち、ヴィクセルによれば、19世紀後半に資本蓄積が進展し、それによって自然利子
>率が下落したにもかかわらず、貨幣利子率が十分に下落せず、貨幣利子率が自然利子
>率を上回り続けたことこそが、その時代にデフレをもたらしたのである。確かに、自
>然利子率の下落は「構造的要因」ではあるが、それ自体はデフレの原因ではない。デ
>フレの原因はあくまでも、「貨幣利子率の自然利子率からの乖離」である。したがっ
>て、そこから導き出されるデフレ阻止のヴィクセル的処方箋は、「金融緩和による貨
>幣利子率の十分な引き下げ」である。そしてそれは、「たんに通貨供給量を増大する
>だけでは問題は解決しない」という考えとはまったく正反対のものである。

野口旭氏は、「デフレがまさしく貨幣的現象である」とか、「デフレの原因はあくまでも、「貨幣利子率の自然利子率からの乖離」」だとか言っているが、デフレになる貨幣現象が起きる要因や「貨幣利子率の自然利子率からの乖離」が起きる要因については、“通貨供給量が足りない”としか説明していない。

“通貨供給量が足りない”という説明だけならば、日銀がここ5年以上も金融を超緩和しているのに、デフレが解消されない、そこまで言わなくても、民間マネーサプライが増加しない現実を有効に説明することができないだろう。
日銀がベースマネーを増加させているのに、貸し出し残高に代表されるマネーサプライは逆に減少している。

名目GDPが510兆円だった95年の日銀券発行残高は46兆円で、名目GDPが500兆円を切っている現在の日銀券発行残高は95兆円である。

“通貨供給量を増加させればいい”というだけでは、現在の経済的苦境に対する処方箋にはならない。


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