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インフレターゲット論者の限界性:「構造デフレ論」に対する頓珍漢な批判
投稿者 あっしら 日時 2003 年 2 月 04 日 16:49:33:

(回答先: 野口旭の「ケイザイを斬る!」 第2回 「構造」なる思考の罠 投稿者 TORA 日時 2003 年 2 月 04 日 11:19:06)


野口旭氏の「構造」に関する論考は、「構造」論議や「構造改革」では現在の「デフレ不況」を克服することはできないので基本的に異論はない。

しかし、野口旭氏のデフレ克服=金融政策という立場には同意できない。


>この福井氏、野口氏、榊原氏らに代表される構造的デフレ論の含意は、主に以下の二
>つからなる。

>●構造的デフレ論の含意その1: 現在のデフレは、もっぱらグローバリゼーション
>の進展などの「構造的な要因」が原因で生じている。

>●構造的デフレ論の含意その2: 「構造的な要因」が原因で生じている現在のデフ
>レは、財政政策や金融政策のようなマクロ政策では対応できない。


>結論的にいえば、構造的デフレ論のこの二つの命題は、明らかな誤りである。正しい
>命題は、以下の二つである。

>●正しい命題その1: デフレの原因はデフレ・ギャップである。このデフレ・ギャッ
>プには常に、構造的要因=供給側の要因と需要側の要因の両方が影響を与えている。

>●正しい命題その2: たとえ、デフレ・ギャップ拡大の原因が供給側にあったとし
>ても、マクロ政策を用いてデフレ・ギャップを縮小させ、デフレを阻止することは、
>常に可能である。


>ここで、最初に確認しておくべきことがある。それは、グローバリゼーションなるも
>のが「構造的要因」かどうかはともかくとして、貿易機会の増大や技術革新の進展と
>いう「正の供給ショック」それ自体は、確かにデフレの原因になりうるという点であ
>る。
>「正しい命題その1」のデフレ・ギャップとは、総供給(=完全雇用時の総供給)に
>対する総需要(=現実の総供給)の不足分である。ここで、仮に総需要が一定とすれ
>ば、安価な輸入財の流入や技術革新による総供給の拡大は、デフレ・ギャップの拡大
>をもたらす。そして、デフレ・ギャップが拡大すれば、デフレはさらに進む。 より
>直感的に言えば、「何らかの供給ショックによって生産の効率が上昇し、既存の資源
>によってより多くの財貨サービスが生産できるようになったにもかかわらず、その財
>貨サービスへの需要が十分に拡大しなかった場合には、物価の下落が生じる」という
>ことである。

>しかしながら、これは「構造的デフレ論の含意その1」が正しいことを必ずしも意味
>しない。デフレの原因とは、あくまでもデフレ・ギャップすなわち「総供給と総需要
>の差」であるから、総供給の変化だけを見ても、一般物価がどう動くは分からない。
>たとえば、総供給の拡大と同程度あるいはそれ以上に総需要が拡大すれば、デフレは
>まったく起こらない。実際、90年代のアメリカやアジア諸国をはじめとして、日本以
>上に生産性上昇率が高い国は数多く存在するが、90年代末の中国をほぼ唯一の例外と
<して、インフレの国はあってもデフレの国は存在しない。というよりも、戦後世界で
>恒常的なデフレに陥ったのは90年代の日本のみであるが、その90年代の日本の生産性
>上昇率は、発展しつつあるアジア諸国はもとより、他の成熟した先進諸国と比較して
>も相当に低かったのである。


>以上の考察から、「構造的デフレ論の含意その2」が誤りであることも明らかになる。

榊原氏などが野口旭氏のこの批判を読めば、「●構造的デフレ論の含意その1: 現在のデフレは、もっぱらグローバリゼーションの進展などの「構造的な要因」が原因で生じている」に、なぜ、「●正しい命題その1: デフレの原因はデフレ・ギャップである。このデフレ・ギャップには常に、構造的要因=供給側の要因と需要側の要因の両方が影響を与えている」をぶつけるのか?、筋違いだろと反論するはずだ。

デフレが需給のデフレ・ギャップであることを榊原氏などが否定するとも思えず、彼らは、需給のデフレ・ギャップ要因がメガコンペティションだといっているだけである。

野口旭氏が批判するとしたら、需給のデフレ・ギャップが、冷戦崩壊後旧共産国からの低コストでの供給増大ではない、たとえば、植草氏のような“緊縮財政”など別のデフレ・ギャップ要因を挙げなければならない。


野口旭氏は、一応、榊原氏などの論の妥当性を認めているが、その結末が、「しかしながら、これは「構造的デフレ論の含意その1」が正しいことを必ずしも意味しない。デフレの原因とは、あくまでもデフレ・ギャップすなわち「総供給と総需要の差」であるから、総供給の変化だけを見ても、一般物価がどう動くは分からない」では、上述の反論がそのまま当てはまってしまう。

「そもそも、マクロ経済政策とは、構造的要因=総供給にではなく総需要に働きかけることで、総供給と総需要のギャップを縮小させ、物価や雇用の適切な水準を達成し維持しようとする政策である。つまり、仮に総供給がどう変動しようとも、マクロ政策によって総需要さえ調整できれば、需給ギャップを縮小させることは常に可能なのである」という追加的な説明に対しては、榊原氏なども、“一般論”としては否定しないはずだ。
(榊原氏は総需要増加策として政府紙幣の発行まで主張している)

「もちろん、そのようなマクロ政策による「ファイン・チューニング」は、決して容易ではない。とはいえ、それがあながち無理というわけでもないのは、日本以外の多くの国が、主に金融政策を用いて物価の安定を実現していることからも明らかである」と言われても、それはインフレ抑制=総需要抑制策であって、デフレ解消=総需要増加策ではない。
総需要抑制策と総需要増加策は、市場経済ではたんなる逆方向の金融政策というわけにはいかない。(とりわけ、財政が不如意になっている状況では)

野口旭氏がここで書いた論理では、榊原氏などを批判したとは言えないだろう。

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