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月刊 選択  注目記事 「ゾンビ」生保の真実」 ─朝日・三井・住友の3月危機─奇妙な静けさではないか。
投稿者 Ddog 日時 2003 年 1 月 23 日 00:28:57:

(回答先: 生保にまた救済策、株式会社化を容易に 金融庁、3月危機回避にあの手この手 [株ZAKZAK] 投稿者 あっしら 日時 2003 年 1 月 22 日 16:44:19)

http://www.sentaku.co.jp/keisai/zenbun.htm

月刊 選択  注目記事 「ゾンビ」生保の真実」 ─朝日・三井・住友の3月危機─奇妙な静けさではないか。

東証株価指数(TOPIX)も日経平均株価もおよそ二十年ぶりの安値圏にあって、金融の危機は「いまそこにある」。なのに誰も騒ごうとしない。全国紙が載せる金融庁などの大本営発表は何も告げず、誰もが「あすも同じ日が続く」と信じている。否──この静けさはバーチャル(仮想)だ。人工の無音室に幽閉されている。
一年前を覚えているだろうか。ダイエーが沈みかけて銀行も追い詰められ、特別検査の時間稼ぎと株価下支えで三月危機乗り切りを図る裏側で、もうひとつの危機が進行していた。朝日生命が見舞われた静かな取り付け──解約の行列である。
何とか止血して一年たったが、気がつけばまた同じ悪夢。メガバンク危機の陰で、朝日ばかりか三井生命も住友生命も「弱い環」はいつ鎖が切れるか分からない。
昨年暮れ、自民党の金融関連部会があわただしかった。鳴り物入りで通常国会に法案を提出する「産業再生機構」の影が薄くなるほど大騒ぎだったのは、生命保険問題である。保険業界のセーフティーネットにあたる「保険契約者保護機構」への公的資金枠四千億円がこの三月に期限切れになるため、その延長をめぐっててんやわんや。延長するからには保険業界の追加負担が必要になるが、日本生命や明治生命などまだ経営体力のある生保が、なかなか首を縦に振らなかった。
金融族の一人は呆れてため息をつく。「なんてジコチュウ(自己中心的)な業界
なんだ……」

衝撃の内容の朝日「告発メモ」
だが、生保側にも理由がある。保護機構よりもっと厄介な難題が、眼前にぶら下がっていたのだ。金融庁が夏以降ちらつかせ始めた究極の生保延命策──予定利率引き下げである。
そもそも生命保険という金融商品は、保険契約者から預かった保険料を保険会社が運用して、いざという際の保険金や老後の年金などに充てる仕組み。保険会社は資金を運用するにあたって運用成績のメドとなる利回りを契約者に約束する。これが「予定利率」で、銀行預金の利息のような確定利付き商品と思えばよい。
生保の経営が破綻して、予定利率引き下げの形で契約者が泥をかぶる例は過去にも起きている。しかし、いま議論されているのは破綻する前の引き下げ。「まだ会社はつぶれておりませんが、不良債権発生や運用の見込み違いで懐が苦しいので、お約束した利回りをケチらせていただきます」と言っているようなものだ。甘ったれるな、と一喝されるのがオチだろう。
こんな非常識を持ち出さざるを得ないほど一部の生保は苦しい。政府・与党も、決断を先延ばしできなくなっている。「これでまたマスコミの非難を浴びるんだろうな」と先の金融族はつぶやく。彼も知っているのだ。予定利率引き下げの正体は、苦境に陥った朝日生命の救済策であることを。「朝日生命の現状」──生保各社が中間決算の取りまとめに忙しい昨年九月末に、一枚のメモが業界に出回った。
藤田譲社長ら現経営陣を告発する内容だが、業界関係者は「暴露されている朝日の惨状はほぼ正確」と見ており、ある生保からこのメモを入手した金融庁関係者も、実態が隠しおおせなくなっていることを認めた様子だった。
「今年度の株の売却計画は三千億円程度。現状で売却済みなのは千七百億円程度
で、計画達成は不可能だろう。具体的には、富士通株を筆頭に大含み損状態。日
通、村田製作所、三共などを買い向かって減損回避に必死」
やり繰りに汲々としている。融資先の資産査定では「オリコを要注意先に区分」したというし、なりふり構わず「基礎収支を水増しするため、ヘッジ付き外債で水増ししている」。そのからくりはクーポン(表面利率)の高い外債を半期ごとに売却して、金利収入のみを取得するという方法だ。売却損益やヘッジのコストは基礎収支と関係がないので、見かけ上は基礎収支が高めになる露骨な「お化粧」なのだ。
それでも帳尻が合わない。だから「さらなるダブルギアリング」とメモは暴露する。ダブルギアリングとは銀行と生保が劣後債務を持ち合うことで、資本の「融通手形」を出し合うようなものだ。つまり朝日生命は、みずほ銀行やあさひ銀行に劣後債務を追加引き受けしてもらう予定なのだ。

ゾンビ化の元凶は行政の不作為
「主力商品の『保険王』も逆ザヤ商品」という記述もある。人気俳優の竹野内豊と菅野美穂を起用した積立型終身保険「保険王」は、朝日セールス部隊二万一千人の奮闘でヒット商品になっている。この命綱ですら逆ザヤなら、そもそも一・五%の予定利率設定には無理があったということか。朝日は「二十年もの国債など国内金融商品だけで一・五%をクリアしており、逆ザヤ商品ではない」と否定する。
きわどい数字はほかにもある。「生命保険会社の経営状態を見る場合、今後積むべき利益(配当可能な利益)、過去の積立金(準備金の繰り入れ)、そして評価損益の三つが目安になるが、朝日は三項目とも数百億円単位のマイナス」と当局筋の見方も厳しい。
昨年十月十一日、朝日は「株式含み損が三月末の千五十九億円から二千百億円に拡大した」と異例の発表を行った。この数字は九月末の数字で、竹中ショック以降の株価急落を織り込んでおらず、「広島に新型爆弾が落ちたあとの大本営発表のようなもの」だった。
朝日のゾンビ化を放置してきた元凶は、旧大蔵省から金融庁へ受け継がれた保険行政の先送りと不作為にある。自力再建が困難と判断した若原泰之前社長は、米国のプルデンシャル保険への身売りを検討した。
ところが、米系投資ファンドに旧日本長期信用銀行(現新生銀行)を売却した際のゴタゴタに懲りて、当時の森昭治金融庁長官が朝日への外資導入案を呑まなかった。
森長官が強く推したのは、藤田現社長が推進していた東京海上火災保険のミレア・グループ入り。朝日という「ババを引かされる」懸念から一昨年秋、東京海上の株価が急落したが、このときも森長官は市場などお構いなしに東京海上に圧力をかけ続けた。が、紛糾の末に東京海上も「ゾンビと心中はご免」と判断、身を引いた。
金融庁は「朝日が倒れたら、東京海上は樋口公啓会長の首だけでは済まない。石原邦夫社長と森昭彦副社長らにも辞めてもらう」と凄んだが、後の祭り。万策尽きた金融庁はそれから何の手も打たない。別居状態でもミレア・グループとの「偽装婚約」を続けさせているのだ。
金融庁長官が森氏から高木祥吉氏に交代した昨年夏頃、東京海上は最終意志として「朝日との経営統合を断念する」と新長官に伝えた。ところが、金融庁は「破談になった」と公に言わせない(いまだに「二〇〇四年をメドに合流をめざす」としている)。朝日の信用不安に火がつくのを恐れてだが、このしこりが尾を引き、他の生保に朝日を押しつける行政命令のチャンスを失ってしまった。
昨年九月三十日の内閣改造で「敵地」金融庁に乗り込んだ竹中平蔵経済財政・金融担当相も、事務方から生保業界の計数を見せられて「そんなにひどいのか」と息を呑んだという。が、対銀行と違って対保険で不思議と発言を抑えているのは「生保にまで手を広げたら収拾がつかなくなる」と承知しているからだろう。
竹中金融相を上目づかいに見て「それなら」と高木ラインが打ち出したのが、破綻前の予定利率引き下げ案にほかならない。高木長官には、朝日の「破談」にフタをして真っ赤な嘘をつかせ続けた後ろめたさもあったろうが、とにかく事態が切迫してきたのだ。
朝日だけではなく、株価崩壊で三井や住友など弱い生保に火がつき始めた。これまで金融庁の腹づもりは「朝日(への処置)は今期決算(二〇〇二年度)を見てから。三井、住友は来期決算(二〇〇三年度)次第で考えよう」だったが、十月十八日付日本経済新聞の「経済教室」欄を見て、金融庁幹部は青くなった。
日銀OBの深尾光洋慶応大学教授が、米国基準に基づいてソルベンシー・マージン(保険金支払い余力、銀行の自己資本に相当)の比率をはじき、九月末で二社がゼロ%以下、一社がゼロ〜七〇%との試算を示したからだ。
深尾教授は社名を伏せているが、この二社が朝日と三井、残る一社が住友であることは明らかだ。その後、日経平均株価は年末にかけてさらに値を下げ、住友でもこの比率がマイナスに陥った可能性が大きい。

「三井住友銀行が抱えるのが筋」
朝日も住友も生き残りを賭けた大リストラを進めているが、とりわけ三井生命の取り組みはすさまじい。社員を一年半で三割減らし、事業費を一年で二割強カット、体質改善を図ってきた。その三井の悩みは、止まっていた解約の動きが最近再発、特に団体生命保険分野が深刻だという。
住友生命は、保有株の簿価が高く、株価の下落に弱いのがアキレス腱。バブル期の上山保彦社長時代、日生追撃を合言葉に貯蓄性保険を売りまくり、高利回りに見合う運用成績を上げようと不動産関連融資に傾斜していた。不良債権の山を処理しようと株式の益出しを繰り返し、株式の含み損を膨らませた。
三井生命、住友生命は結局、「(三井住友銀行の)西川善文頭取と岡田明重会長が処理の責任を負うのが筋」と金融庁は言う。その受け皿となるのが三井住友銀行の持ち株会社なのだ。三井住友カードなど金融関連四社を傘下に置く持ち株会社構想に、金融庁は当初難色を示していた。結局ゴーサインを出したのは、三井住友銀が「最後まで三井生命の面倒を見る」と約束したからではないのか。
三井生命は二〇〇四年度をメドに株式会社化し、三井住友銀の持ち株会社が過半数株式を取得して子会社化すると報じられた。
子会社化を西川頭取は記者会見で否定したが、実質的な子会社化の道を歩んでいるのは否定しようもない。銀行から七十人もの法人営業部隊を派遣し、会長に旧さくら銀行の石川博一副頭取を就任させているからだ。
それでもシラを切らざるを得ないのは、朝日との共倒れリスクで沈んだ東京海上の二の舞いを恐れているからだ。ただ、東京海上は土壇場で袖を振れたが、三井住友銀は三井生命を見捨てられない。住友生命もあって両手に爆弾を抱えた状態だ。熊谷組など問題融資先の処理で手一杯な三井住友銀は、国有化を取り沙汰されるUFJやみずほと五十歩百歩と言える。
一年前の解約急増の教訓もあり、朝日は「外債解約などで一週間程度で一兆円規模のキャッシュが準備できる態勢」と金融庁は言う。しかし「とにかくこの三月期末まではもってほしい」というのが金融庁の本音。だから昨年十一月の生保各社の中間決算発表に際して、金融庁は各社に「比較一覧表をつくるな」などとばかげた要請をしたのである。どこが危ないか誰の目にも一目瞭然になるからで、業界ではやむなく内輪向けに朝日だけ外した比較表を作成した。すでに朝日は「えんがちょ」状態なのだが、新聞などは業界集計に頼らず独自集計したので、八三ページの表のように「弱い環」三社の傷みかたは隠しようもない。小役人らしい姑息な小細工は無駄な足掻きに終わっている。
万一の場合には蓋然性の高いシナリオとして、更生特例法(生保版の会社更生法)の申請か、臨時総代会での予定利率引き下げが、業界内でささやかれている。
ただし、破綻前に総代会で予定利率引き下げを決めさせるのは至難の業。契約者の三分の二が賛同することが必要で、しかも引き下げは経営危機を自ら認めることになり、取り付けの引き金を引きかねない。とすると、自力再建をあきらめて更生特例法の適用を申請するほかないが、予定利率をカットせずに朝日に手を差し伸べる生保があるとは考えられない。だから金融庁も法改正を急いでいるのだ。
しかし、総資産(昨年三月末)が七兆七千億円、保有契約高(同)は八十八兆円の朝日クラスの生保が破綻するとどうなるのか。第一に生保の出資金や劣後ローンが毀損することによって、生保に出資や融資していた銀行に危機が伝播する恐れが生じる。
朝日の場合、みずほと、りそなが拠出した出資金、前者の千五百億円、後者の一千億円が吹っ飛ぶ。出資金には性格上、引き当てを積んでいないはず。だから三月末までに朝日が破綻すると、銀行側も今期決算で処理しなければならなくなり、体力のないりそなを直撃、額面近辺のりそな株が突き落とされかねない。
第二に朝日の融資先企業の資金繰り不安、第三は朝日が保有株処分に走ることに伴う株価全体の瓦解である。同じ古河財閥のつながりから朝日が一億株保有する富士通は、昨年九月末の終値五二六円から十二月二十日には終値三三六円に暴落しているが、こうした「朝日関連株」が一段安となれば日経平均株価は七千円台となり、持ち合い株の含み損拡大で、銀行も生保も事業会社も三月決算ができなくなる。
受け皿候補の第一と日生の思惑
とすれば、朝日破綻に備えて受け皿が欠かせない。生保業界が候補と目しているのは第一生命だ。他方、朝日が追い込まれたら、三井と住友も津波に巻き込まれる。三井の受け皿として、三井住友ホールディングス以外に注目されるのは「巨人」日本生命である。
朝日については「財務内容が悪すぎる」と歯牙にもかけない日生だが、三井となると「三井住友銀が真水(キャッシュ)を入れるなど全面支援している」ことを評価している。これまでは、下手なお荷物を国から押し付けられてはたまらないと、合併や提携に慎重だった日生の宇野郁夫社長は営業畑だけに明治・安田生命の誕生で脅威を感じ始めたことが背景にある。関東の数県では明治・安田に契約件数で抜かれているため、三井生命を救うことで三井グループの顧客基盤を取り込みたいと考えても不思議ではない。
透けて見えるのは、営業でいかに後続生保を間引き、シェアを奪うかという弱肉強食の営業戦略だ。生保が金融危機の震源地という自覚は希薄に見える。予定利率の破綻前引き下げにしても、いわゆる三利源(費差、死差、利差)がまだ大きい日生を利するのは明らか。朝日、三井、住友などの弱体生保がギブアップするのを待って、強者が「焼け太り」するばかりと見える。

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