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QUICKエコノミスト情報VOL.81 BNPパリバ証券会社 経済調査部長 河野龍太郎氏
03/01/22
【景況判断】現状(3ヵ月前比):横這い 先行き(3ヵ月後):横這い
GDP予測:02年度0.8%(0.7%) 03年度0.0%(0.1%)
【金 利】短期:横這いTIBOR3ヵ月 0.10%
長期:横這い10年物新発国債0.90%
【円 相 場】横ばい118円/1ドル
【株 価】横ばい 日経平均8,500円
l GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%。カッコ内は直近10回分の平均値
l 長短金利、円相場、株価は3ヵ月後(03年4月末)の予測値
1.景気見通し:「不良債権新規発生の原因は構造調整圧力の増大か?」
金融機関による不良債権処理額は、累計ですでに90兆円を超えている。にもかかわら ず、新規発生が続き、不良債権総額はいっこうに減少しないため、不良債権を「バブル崩 壊」という要因だけで説明することは難しいという認識が一般的になってきた。
それでは
、新たな要因とは何だろうか。
多数派の意見は、「中国など新興国の生産性上昇による構造調整圧力の高まりで、苦況 に陥る産業、企業が増えている」というものである。しかし、筆者は構造調整要因からで はなく、資産デフレと一般物価の下落(デフレ)がスパイラルを起こしている結果、不良 債権の増加に歯止めがかからないと考えている。90年代後半になって、それまでバラン スシート調整の最大の原因であった資産デフレにデフレが加わったために、企業部門の 債務返済が加速し、設備投資が抑制されるなど、総需要への縮小圧力が強まった。資産 デフレ下でも本業が順調なら何とか存続していた企業も、デフレによって売上や利益の 減少が始まったために、立ち行かなくなる、というケースが増加して、新たな不良債権 の発生につながっている。
そして、デフレは、基本的には国内の総需要が不足し、需給ギャップが拡大している ことによって引き起こされているというのが、筆者の認識である。90年代半ばまでには 、すでにゼロインフレとなっていたが、そこに97年の緊縮財政、アジア通貨危機、国内 金融危機など一連の大きな経済ショックが重なって低成長となったために、需給ギャッ プが大幅に拡大し、デフレが始まったのである。
しかし、構造調整要因を掲げる多数派の認識はデフレが問題であるとしても、「デフレ の原因は中国など新興国からの安価な商品の輸入である」というものだ。そうした主張の 中には、要素価格均等化定理を持ち出して、日本が中国と輸出入を行うことによって雇 用などの経済資源の価格が両国間で均等化する、と論じているものもある。しかし、仮 に、要素価格均等化定理が日本と中国で成立するような環境にあれば、中国はすでに一 人あたりGDPも世界トップクラスとなっているはずである。定理の適用は明らかに不適切 である。
2.金融環境:「輸入デフレ説の真犯人は体力以上の円高」
ところで、デフレは全て国内要因がもたらしたものかというと、貿易財価格の下落が デフレの要因になっている面は確かに見られる。しかし、それは中国など新興国の生産 性上昇が影響しているのではなく、日本経済の体力に比べて、為替レートが円高に放置 されたために起きた現象である。日本経済が絶好調であった80年代後半の円高のピーク である1ドル=120円と現在の水準はほとんど変わらない。つまり、輸入デフレ説が正し いとすれば、その真の原因は、景気低迷にもかかわらず為替レートが円高水準に放置さ れていることであり、それが輸出や輸入を通じて日本国内にデフレ圧力をもたらしてい るのである。
もちろん、国内外の比較優位構造の変化によって苦境に陥る企業や産業が増えている 面もある。しかし、日本経済の体力以上の円高が国内製造業の競争力を低下させ、その 結果輸入代替が必要以上に進み、海外へ生産拠点の移行も進んでいるとすれば、それは 比較優位構造の変化がもたらした構造調整圧力ではなく、円高によるデフレ圧力が働い ているからなのである。円レートが日本経済の体力以上に割高となっているだけでなく 、人民元が中国経済の体力に比べて安すぎるということもあるかもしれない。中国の統 計が正しいとすると、中国経済もデフレに陥っていることになるが、USドルとの固定制 を採用している同国が、理論上諸外国に対してデフレ圧力を輸出するということはあり 得る。
ただし、その場合でも、中国のデフレは生産性上昇率の高さが引き起こしたと考える のは妥当ではない。生産性上昇は間違いなく同地域の実質所得を増加させるため、総需 要も増加させる。過去の歴史を見ると、どの国でも必ずそうであったが、中国ではこれ までと異なるメカニズムが働くのだろうか。しかし、実際に、生産性の上昇している中 国沿海部では、消費ブームが生じている。中国などの新興国の生産性上昇が世界的な供 給過剰を引き起こしているとの認識が一般的になっているが、こうしたグローバル構造 デフレ論は誤りである 。高い生産性上昇率を誇った高度成長期の日本がデフレに陥った ことはない。
3.注目点:「円高を放置すればデフレは当然」
上記の議論では単に「為替レート」と言ったが、経済に実際に影響を与えるのは、為替 市場で決定される名目ベースの為替レートではなく、名目為替レートにインフレ率を加 味した実質為替レートである 。例えば、名目円レートが5%減価すると、海外の消費者 にとって日本の商品が5%割安となり、日本からの輸出増加につながる。一方、名目円レ ―トが全く変わらなくても、日本の物価が5%下落すれば同様の効果が生じる。いずれも 、海外の消費者から見れば日本の商品の5%下落であり、実質円レートの5%の減価を意 味する。
経済状況が悪化すれば実質円レートに減価圧力が加わるが、日本のように景気低迷に もかかわらず名目ベースの円レートが減価しなければ、実質円レートは国内物価の下落 を通じて調整される。つまり、経済低迷が続く中で、体力以上の円高を放置している日 本にデフレが生じているのは、実質為替レートの調整の観点からすれば極めて当然の帰 結である。
実質為替レートの調整において、変動相場制を採用している国は、通常、名目為替レ ―トの調整を選択し、物価下落を選択しない。物価が下落するまでには、長期の不況と 失業率の上昇など、社会的コストが大きいためである。日本は物価下落を通じて実質為 替レートを円安にする痛みの大きな方法を選んだことになる。
<河野龍太郎氏略歴>
1964年生。87年横浜国立大学経済学部卒、住友銀行入行。89年大和投資顧問入
社、エコ
ノミスト、94年同社米国駐在エコノミスト、97年第一生命経済研究所入社、マク
ロ経済・
金融分析を担当、2001年11月より現職。訳書に「金融政策の理論と実践」(アラ
ン・ブライ
ンダー著)、「通貨政策の経済学」(ポール・クルーグマン著)等。金融学会会
員、ファイナ
ンス研究会会員、Japan Economic Seminar会員。財務省財務総合研究所「デフレ
と金融政
策」アドバイザリーグループメンバー、日本銀行「物価に関する研究会」、日本
証券アナリ
スト協会試験委員。日経公社債情報・エコノミスト人気調査第4位(2002年)、日
経金融新
聞・エコノミスト人気調査第12位(2002年)、週刊エコノミスト・エコノミストラ
ンキング
第6位(2002年)にランキング
クイックより