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Re: 竹中新3原則『3つのS』の読み方」
投稿者 日時 2003 年 1 月 21 日 18:18:51:

(回答先: 竹中新3原則『3つのS』の読み方」 投稿者   日時 2003 年 1 月 21 日 18:14:18)

☆メガバンクは公金投入して、外資に高利払いだし
日本人の経営の方が国民にとって良いっていうのは幻想カモ


企業と人−「破たん」から学んだこと−
第26回「心の絆とマンパワー」(その1)
(アローコンサルティング事務所 代表
 箭内 昇氏)

最終更新日時: 2003/01/20
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 「たまらなく疲れた。背中を押してほしいといったので、夫をうつ伏せにし、背中を指圧していると急に苦しみだし、大きなうめき声を上げて意識を失いました。すぐに救急車で病院に運びましたが、蘇生術の甲斐なく心筋梗塞で息を引き取りました。」女性の目から大粒の涙がこぼれた。

 昨年暮れ、筆者の事務所を初対面の女性が訪れた。98年4月に夫を過労死でなくしたが、今も続く苦しい胸の内を聞いてほしいというのだ。

 夫人は夫亡き後、まったくの専業主婦にもかかわらず組織の支援も受けずに精力的に資料や情報を集め、約3年後の2001年3月、ようやく労働基準監督署から労災の認定を受けた。

 しかし、夫の勤務先であった旧第一勧銀の対応に不満があるとして、みずほグループ誕生直前の2002年3月に損害賠償を提訴し、現在も係争中である。この事件は当時マスコミでも取り上げられたので筆者の記憶にもあった。

 話を伺っていくうちに、夫人の望みが金銭的なものではなく、企業の誠意の問題だということがよくわかった。そして、その背景には、銀行だけでなく最近の大組織全般に共通する「心の喪失」という大きな問題があると確信した。

 わが国はバブル崩壊で大きな経済的損失をこうむったが、それ以上に日本の社会や経済の活力の源泉だった相互の信頼や助け合いといった人間の絆を失ったダメージのほうが大きいような気がする。

 本当の功労者は誰か

 夫人の夫K氏は、96年10月に設置間もない国際金融法人次長に就任した。一口で言えば海外の金融機関との取引を推進する部署だが、空席の企画担当次長も兼任することとなり、加えて98年からはアジアの通貨危機などもあって業務量が加速度的に増大していった。

 増員要請もかなわず、連日の長時間勤務と自宅への残務持ち帰りが続き、98年4月には、10日間でアジア、ヨーロッパ5カ国6都市でセールス活動をするという過酷な海外出張を終え、帰国から3日後に亡くなった。まだ47歳だった。

 夫人が集めた関係者の証言だけでなく、筆者が独自に入手した情報でも、K氏がきわめてまじめで人望が厚かったことが確認された。

 よく大企業には、1、6、3の原則があるといわれる。本当によく働いて企業に大きな貢献している社員は全体の1割程度で、6割はほどほどに働き、残りの3割はぶら下がっているだけという人材構成のことだ。

 K氏は、間違いなくこの1割グループの人材だ。日比谷高校、東大という秀才コースを経て76年に入行し、国内の支店経験のあと81年から2年間ドイツに留学した。帰国後は国内本支店やデュッセルドルフ支店を勤務し、96年から国際金融法人部に着任した。K氏の悲劇はこのときから始まった。

 筆者は5年間も銀行の人事を担当したので、K氏が自宅に残した銀行の資料を読むと、彼が大きな組織の中でエアポケットに落ち込んでいった様子がよくわかる。K氏は優秀であるがゆえに犠牲者になったのだ。そのエアポケットとは何か。

 第1は、専門部門ではどうしても特定の人材に仕事が集中するということだ。銀行は国際化が進んでいるといっても、国際派の人材には限りがある。特にK氏が担当していた円決済業務などは細かい専門知識と地道な努力を要するため、「余人を持って代えがたい」となった可能性が高い。

 第2は、官僚的風土の企業では伝統部門が人事権を握り、新興部門は割を食うということだ。大手銀行では人事部と交渉して人材を獲得してくるのが部長の才覚といわれているが、国際部門には優秀な人材が多いものの行内での発言力は弱い。その中でも新設部となると仮に国際部門全体で増員が実現しても、他の部にとられてしまうことが多い。

 第3は、中間管理職の悲哀だ。K氏は次長職という典型的な中間管理職であり、部門の牽引役だった。特にK氏のように「最後は何とかしてくれる男」は企業にとって、というより上司にとってまことに頼りになる存在である。不幸なことにこの種の人材は愛社精神と責任感も旺盛であり、企業も上司も彼らがノーと言えないことを知って限界量以上の仕事を押し付ける。

 K氏急死の引き金になった海外出張も、本来上司が予定していた分まで直前になって追加したものだという。

 大企業病と従業員のストレス

 第4に、官僚的な組織では部門間の利害調整の会議など非効率な業務が多い。K氏の残した資料の中には、関連部門が業務分担や利益配分について議論した会議の議事録もあった。

 「内外金融機関のリスク管理は喫緊の課題であり、当面はシステム改革を見送り、従来どおり手作業で行うべし」とする国内本部の意見に対し、K氏(と推測される)は「あるべき姿を検討する会議なのだから、『当面』とか『とりあえず』といった話は終わりにしたい。今までも根本から正そうとすると大きなエネルギーを費やすといっては先送りにしたきたではないか」と真っ向から批判し、システムの抜本改革を訴えた。

 まったくの正論であり、今考えればこのときからみずほのシステムトラブルの素地はあった。現場感覚を持ち、仕事の本質を理解している者にとっては、こうした不毛の議論に費やすエネルギーと時間の空費ほど疲労感と虚無感を増大させるものはない。

 そしてエアポケットの第5は、組織のモラル喪失がストレスを倍加させることだ。筆者も30歳代は猛烈に働いた。連日深夜勤務が続くこともざらだった。しかし、当時の長銀は進取の気鋭にあふれており、企業との一体感もあったので、いくら働いても疲れなかった。現役行員の深刻な疾病や死亡もほとんどなかった。

 しかし、バブルが崩壊し不良債権問題が深刻化すると、行内の雰囲気は暗くきしんだものに一変した。90年代半ば、「経営者がアホだからこんな風になったんだ」とすし屋で筆者に愚痴をこぼした1年上の先輩が、その1週間後に心臓病で急死した。

 彼は融資業務のベテランであり、行内での信望は抜群で、不良債権処理の中心人物として連日激務をこなしていた。亡くなる直前にも首の血管が浮き上がるなどの異常症状があった。誰もが「戦死だ」と言い、有志が追悼集を作って未亡人に手渡した。

 これを契機に長銀ではその後30代、40代の病死、自殺が相次いだ。例外なく猛烈な仕事人で、みんな愛する銀行の凋落に大きな虚無感を抱いていたはずだ。終わりの見えない仕事、企業との一体感のない仕事、倫理に反する仕事など、ストレスほど身体を蝕むものはない。戦死者は、脳や心臓など循環器系の病気がほとんどだ。

 K氏も、亡くなる前年の97年6月に勃発した第一勧銀総会屋事件に大きな衝撃を受けたようだ。「上の者の不始末をかぶりながら、一体何のために働いているのか」と強い憤りと危機感を持ち、同志とともに経営正常化の署名運動を展開したという。

 その後銀行の業務環境は、不良債権問題の深刻化、アジアの通貨危機、金融ビッグバンと急速に厳しくなり、K氏は企業と一体感を持てないまま大きなストレスを抱えて激務をこなしていったのだろう。


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 金で解決できないもの

 こうした従業員を過労死に追い込む5つのエアポケットは、銀行だけでなく広く一般企業にも該当するはずだ。特に「貧すれば鈍す」で、企業の業績が落ち込んだときほど犠牲者は増える。生身の人間が物や道具として扱われ始めるからだ。

 K氏夫人が旧第一勧銀(現みずほコーポレート銀行)に求めているのは、真実を明らかにすることと、行内誌にそのことを掲載することの二つであり、決して金銭的なものではない。

 しかし、銀行側の対応は最悪だった。第1に、いまだに夫人の真意を理解していない。「金銭的な問題は終わったし、その後の残業や出張の見直しなどの改善策も実施した。これ以上何が不満か」という基本スタンスであり、遺族の心の問題に気づいていないのだ。

 K氏の令嬢によれば、夫人は夫を亡くした直後は、よかれと思って毎晩遅くに作った夜食が災いしたのではとか、なんとしても退職させるべきだったなどと後悔する日々が続き、心療内科に通うまでに衰弱したという。

 正直いって、筆者も夫人の話をじっくり聞いてはじめて遺族の心の傷の深さを知り、銀行時代も含めこれまでの不明を恥じた。これは最近脚光を浴びている犯罪被害者のケアの問題とも共通する現象である。

 第2に、銀行は途中から組織防衛むき出しの姿勢に豹変した。夫人の記録を読むと、死亡直後は「労災を申請すべきだ」など同情的だった多くの関係者が、実際に労災申請をしたとたん「労災など本人にとっても不名誉なはずだ」と証言拒否はもちろん、手のひらを返したように冷たくなっていった様子がよくわかる。

 過労死の労災認定は企業にとって不名誉だ。特に銀行はスキャンダルを極端に恐れるので、あらゆる手段でもみ消しをはかる。人事部は夫人にK氏のスケジュール表を渡した同期生を叱責したという。他の関係者にもプレッシャーをかけたことは間違いない。しかし、そうした行為が夫人の不信感をいっそうあおることには気づかなかったのだろう。

 筆者は、大組織が都合の悪くなった仲間を見殺しにする光景を何回も見聞きしてきた。企業でも役所でも、不祥事が起きると「あれは彼が独断でやったもの」と担当者を切り捨て、場合によっては無言の圧力で自殺に追い込む。だが、多くの場合担当者は組織や上司のためだと信じ、大きなストレスを感じながら危ない仕事を続けていたはずだ。

 まして、K氏は誰もが認める大きな功績を上げて戦死した。銀行も仲間も、遺族の気持ちに誠心誠意こたえるのが最低限の供養だろう。国民を守るために命を落とした戦士に感謝しない国が栄え続けることは決してありえない。

 マンパワーを自ら減殺する日本企業

 96年3月、当時の菅直人厚生大臣は血液製剤からのHIV感染者に対して、頭を下げて謝罪した。2001年5月には小泉首相がハンセン氏病患者に対して長年の行政の誤りを認め、補償した。

 もちろん政治的パフォーマンスもあっただろうが、多くの国民がこれを支持し感動したのは、巨大な権力者が弱者の立場に立ち、「事実を認めて謝る」という当たり前のことをしたからだ。こうしたことの集積が国民の政治への信頼を高めていく。

 昨年、大企業は多くの不祥事を引き起こしたが、その背景には大きな権力に安住し、国民や従業員の目線にたった「当たり前」の座標軸を失ったことがある。

 このK氏の問題もさることながら、最近の日本企業は安易にリストラに走りすぎ、従業員との信頼関係を大きく損ねているように思う。むしろ中小企業ほど「従業員を切るのは最後の最後」として血の出るような合理化に努力しているところが多い。人間の絆が日本企業の経営の源泉であることを知っている。

 一方大企業ほど、業績主義に名を借りた首切りや陰湿ないじめの配転など、非人間的なリストラが多いように見える。企業が従業員を資産勘定ではなく負債勘定として見るようになったらおしまいだ。優秀な社員の信頼までも損ない、マンパワーは大きく減殺される。

 K氏が急死した98年4月前後、筆者は長銀新宿支店長として連日あふれかえる預金解約客の対応に追われていた。5月になるとパニック寸前の状態に追い込まれ、連日の深夜勤務に店頭の女性も体力の限界に達していた。

 それでも6月末の住友信託銀行との合併発表で息をつくまで何とか持ったのは、店頭女性の驚異的な働きもさることながら、現場の指揮官であったT資金部長と本店からの応援隊のおかげだ。人事部は、本部要員をはじめ新宿支店OBの退職者、出向者、転出者までかり集め、応援に回してくれた。調査部門一筋で客相手などまったく経験のない者まで、声をからしてお客様の整理に走り回る。一人が手一杯になれば誰かがすぐに駆けつけて助ける。

 このときの長銀マンのパワーは圧倒的だった。感動で足が震えた。人間の力、チームワークの力、日本企業の力を確信した瞬間だった。そこには確かに心の絆があった。残念ながら長銀は破綻してしまったが、経営陣が愚かなミスを犯さず、もっと早い時期にこのパワーを発揮していたらと残念でならない。

日本の経営者は、企業や組織を動かしているのは一人一人の人間だという原点を今こそ思い返すべきだ。

(本文はK氏夫人の了解を得て執筆したものである)

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