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小室直樹著「国民のための経済原論II アメリカ併合編」を書評する。(3)
2、貨幣と為替について。
2・1「為替」を理解するための最単純モデル。
1、A国の通貨=ドルとN国の通貨=円の為替レートが、1ドル=200円である時点で、
N国が、原価8,000円の物品C_nを 利益率20%に売価を設定して10,000円(50ドル)で、A国に輸出した。(輸送費等は捨象)
2、N国は、受け取った50ドルのうち40ドルを円に交換(8,000円)して買掛金等の支払いに充て、
残り10ドルを、A国に、年利10%の円建て(10年満期元本一括払い)で貸し付けたとすると、この時点で、
A国には、10ドルの現金、と毎年1ドル(200円相当額)の利子支払い義務(それに勿論10年後N国に2,000円を支払う債務)
N国には、額面2,000円の債権と、毎年200円の利子受け取り権、が生じる。
3、数年後、仮に為替レートが、1ドル=100円に変化したと仮定すれば、
A国はN国への利子支払いに、倍の2ドル(200円相当額)を支出しなければならないが、
一方、N国の輸出品目である「物品C_n」は、利益率等の条件不動のもとにそれをA国で販売しようとすれば、その売価もまた倍の100ドルになる。
4、さて、そこで実は、A国にも「物品C_n」と類似の「物品C_a」を生産する産業があって、それを同じく50ドルで販売していた、としよう。
但し、生産性は低く、利益率は10%であった(原価45ドル)。
為替レートが、1ドル=200円の時点で輸出を目論んでも「物品C_n」に太刀打ちできないだろう。
5、しかし、為替レートが、1ドル=100円に変化してかつ「物品C」の生産性に変化がないとすれば「物品C_n」はA国において80ドル以下では販売し得ない(それ以下では赤字、すなわち「禁止関税」をかけられたも同然である)から、「物品C_a」(原価45ドル)はA国市場において我が世の春を謳歌しうるのみならず、
それをN国に輸出して、売価を「物品C_n」と同じ10,000円に設定すれば、利益率実に55%(売価100ドル:原価45ドル)という途方もない利益を得ることができるし、又は、
利益率等の条件不動のもとにそれをN国で販売すればその売価は5,000円という圧倒的な価格競争力を有するものになり、「物品C_n」をN国市場から駆逐することさえできるようになるだろう。
6、(我々はまずここでひとつ大きく驚くべきである。・・・為替レートの変更といういわばシンボル操作にすぎないものが実物経済に及ぼすこの影響の大きさは何なのだ!・・・しかし話はまだ先がある・・・)
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7、ここで、このモデルをもう少しだけ一般化すると、
A国、N国にはともに「物品C」を生産する産業があるが、
ある(為替レートが、1ドル=200円の)時点では、国際競争力にかなりの差があり、
N国からA国への輸出のみが行われている。
N国はその貿易で得た利益をA国の国債を自国通貨(円)建てで買う形で投資している、となる。
8、この場合に「円高ドル安」の方向への為替レートの変化が両国に及ぼす影響を整理すると、次の如し。
A国:
産業面ではプラス(輸出競争力は強化)
金融面ではマイナス(支払利息及び償還金額の増加)
N国:
産業面ではマイナス(輸出競争力の低下)
金融面では中立(受取利息額及び償還金額変わらず)
9、これは、(いくら強調しても強調しすぎることはないのだが、)あくまでも「N国がA国の国債を自国通貨(円)建てで買う形で投資している」場合である。
10、では、「N国がA国の国債を相手国通貨(ドル)建てで買う形で投資している」場合にはどうなるか? 以下の如し。
A国:
産業面でプラス(輸出競争力は強化)
金融面でもプラス(支払利息及び償還金額の減少)
N国:
産業面でマイナス(輸出競争力の低下)
金融面でもマイナス(受取利息額及び償還金額減少)
(「最単純モデル」終わり。)
2・2(上記「モデル」へのいくつかのコメント。)
(イ)、先ずは、一般の教科書においてどのように述べられているのかをみておきたい。・・・とはいえ私はそんなものを見たこともないので、以下の引用で代える。
教科書的理論によれば、日米間に貿易収支の不均衡があり、アメリカが巨大な貿易赤字を抱えている場合、ドルは円に対して切り下がり、結果として日本への輸出が伸び、輸入は減る。その結果、両国の貿易収支は新しい為替レートの下で均衡するはずであった。
ところが、ピーター・ドラッカーが『新しい現実』(邦訳・ダイヤモンド社)で観察していたように、一九八〇年代初めの時点で、世界経済を動かす力は、実物経済からシンボル経済に、つまり財・サービスの貿易からマネー取引に移っている。
(吉川元忠著「マネー敗戦」、文春新書、p.40 )
察するに「教科書的理論」では、「経常収支」のうち「貿易収支」の部分にだけ着目して次のように説明する。
アメリカ(USA)の経常収支悪化(赤字化)→円高ドル安→(輸出品価格低下、輸入価格高騰)→(輸出増、輸入減)→経常収支均衡
しかしながら、
@、資本取引の自由化が進み、
A、為替レートが、
「実需原則」を離れて、ケインズの所謂「美人コンテスト」の如く、
若しくは、時には「仕手戦」におけるが如く資金量の多寡で決定する株価のように、
決められてしまうこともありうる、
現在の現実の世界では、
「経常収支」のうち「貿易外収支」の部分のとりわけ「投資損益」部分が十分なウエイトをもって考慮されなければならないが、それらははたして「国際収支表」において充分明瞭に表現されているのだろうか。
(私はそんなものを見たこともないのだが。)
参考に、「国民のための経済原論II」にある説明を以下に掲げておく。
「収支」とはもちろん、収入と支出のこと。が、こんなことでつまづく人も多いのです。貿易では、輸出すれば収入があり、輸入すれば支出がある。貿易収支とは、商品輸出マイナス商品輸入。国際間の商品売買の収支を「貿易収支」という。
これに対し、国際間のサービス売買の収支を「貿易外収支」という。
貿易収支と貿易外収支をあわせて経常収支。(p.94)
昔むかし、資本主義と経済学ができたばかりのころ、国と国との商売といえば、有体物の商業すなわち「目に見える商品」(ヴィジブル)の売買がほとんどであった。目に見える商品の売買を、国と国との貿易(トレイド)と呼んだ。
が、その後、かかる目に見える商品の貿易だけではなく、目に見えないサーヴィスの売買も重要な役割を演ずるようになってきた。
そこで、目に見えないサーヴィスのためにも項目をたてて、これを「貿易外」(インヴィジブル)と名付けた。「運輸および旅行」「投資収益」も同様。これらの商品の国際売買も、国際収支表に入れるのである。(p.99)
(ロ)、上の「最単純モデル」では、「円高ドル安」がアメリカの「輸入」に及ぼす影響は意図的に無視されている。
理由は次の如し。
@ある国の「輸入財」を二分すれば、これを「消費財」と「原・材料財」とに分かつことができるだろう。
A一般に、ある国の通貨が「切り下がった」場合、それが「経常収支」に及ぼす影響もまた二分される。即ち、
(輸入財としての)「消費財」価格の高騰は輸入減という形で「経常収支」を改善するが、
(輸入財としての)「原・材料」(含、エネルギー)価格の高騰は「輸出財」の原価を増大させることになって、「経常収支」のマイナス要因となる。
Bしかし、アメリカは(相対的に)資源大国でもあり、なおかつ、
「資源」を輸入する場合にも、ドルの直接投資による開発先から調達しうる「基軸通貨国」であるから、
「為替レート変動」がその面で「経常収支」に及ぼす影響をほとんど「中立」とみなすことができる。
それ故、アメリカのような国にとっての「為替の適正水準」とは何か、という問題を最も単純な形で考えようとする場合には、為替が輸入に及ぼす影響については、これを無視するに如かず、ということになる。
(ハ)、では、一般に「為替の適正水準」は如何にして決定されるのだろうか?
仮に、ある国が自国の利益の極大化という基準で自由に為替レートを設定しうる、という前提で幾つかの事例を見てみる。
a)、大英帝国。
「穀物条例」廃止(1846)(註1)以降、イギリスは「比較生産費説」を武器にして自由貿易路線をひた走ることになり「世界の工場」といわれた。
さぞかし貿易でしこたま儲けていたのだろうと、私などもなんとなく思っていたのだが、あにはからんや、
・さて、意外に思われるかもしれないが、一九世紀半ばに産業革命をほぼ完成した頃のイギリスは、その圧倒的な経済力にもかかわらず、こと貿易収支にかぎっていえば、終始赤字で推移していた。
・(略)結局のところ、再輸出を加えても、製品輸出総額は輸入額の八割程度にすぎなかった。
・このことは製造業の競争力に早くも赤信号が点り始めていたことをしめしているが、
マネー循環の立場から見れば、この赤字は、イギリスが自国通貨のポンドを、基軸通貨として国際的に散布するチャネルが満足に機能していた証でもあった。
・イギリスの貿易赤字は二〇世紀に入っても続いたが、その間、経常収支ベースでは常に黒字であり、しかもその黒字幅は拡大基調にあった。なぜだろうか。
・イギリスは、世界の商船隊の約三分の一を擁する大海運国として、海運収入によって貿易赤字を埋め、経常黒字を維持していた。
・しかも、この経常黒字がさらに海外への投資に向かったため、その利子収入が、もともと大きかった海運収入に加わり経常収支の黒字をいっそう引き上げた。
・増加した経常黒字はさらに海外投資に向けられる。
・「海外投資→利子収入による経常黒字増→海外投資」という循環のなかで、一九世紀後半には、黒字の雪だるま式増大の過程が明確に見てとれるようになった。
(吉川元忠「マネー敗戦」:文春新書p.15〜16)
「貿易収支」は終始赤字であり、その赤字を補って余りある利益を海外への(主として債券)投資によってあげていた(「経常収支」は黒字)という構造であった。
その戦略は「自国通貨のポンドを、基軸通貨として国際的に散布する」ということであり、相手国通貨で債券を建てるなどは論外である。
そして、それを「論外である」と一蹴できるだけの対外的な「政治力」(その究極が世界に隔絶する「大英帝国海軍」という「軍事力」)が有った、ということだ。
このような「帝国」においては、「金本位制」によって通貨を安定させ、その信用を強化して、もって海外投資の「シェア」を拡大するという政策には一定の妥当性があると思われるに充分な理由がある。
b)、'70年代以降の日本国
・(略)六〇年代後半にかけては、アメリカの貿易収支が黒字幅を狭め、七一年年には戦後はじめて貿易赤字を記録するにいたる。
(吉川元忠「マネー敗戦」:文春新書p.26)
その「貿易赤字」の主たる相手国が日本であろう。
(縞蘇鉄です。今日は2003/02/18 です。
1月26日からこの稿を書き始めて、「国際収支表」というものを専ら上記小室本の説明に依拠して考えていたのですが、昨日偶々「マイペディア」(百科辞典)の記事を読んでみますと、どうも現行では、形がかなり違っているようです。
@「国民のための経済原論II」の説明。
国際収支=経常収支
経常収支=貿易収支(ヴィジブル)+貿易外収支(=サービス収支+資本収支)(インヴィジブル)
Aしかし、マイペディアの記事によれば、その後次のように変わった。
国際収支=経常勘定+資本勘定
経常勘定=財貨及びサービスの収支。
資本勘定=長期資本勘定+短期資本勘定+金融勘定
新聞・雑誌などによく出るアメリカの「双子の赤字」という場合の「経常赤字」はAの意味なのだろうか?
ともかく、以下ではAの意味で用語を使用する。
@経常収支
日本は「加工貿易」立国である、といわれる。それは日本が工業資源に乏しく、輸入された原材料を輸入されたエネルギーを用いて加工し(付加価値を付けて)輸出することによって「豊かさ」を得ている、ということだ。
そのような国にとっては為替レートの変動が国際収支に及ぼす影響は必然的に「正」「不」の二面を有することになる。・・・例えば、「円高ドル安」は輸出については不利になるが、反面その輸出品の原材料コストの低下は当該製品の製造原価を引き下げることになるという有利さもなくはない、というふうに。
A資本収支
一面で、日本は世界最大の「債権国」でもあり、その債権の大半を「アメリカの債券」を「ドル建て」で所有している形なので、この面では明らかに「円高ドル安」は不利である。
総合すれば、日本の現況では1ドル=200円くらいまでなら、どちらかといえば円安が望ましいということになるのではないか。
c)、アメリカ[ 帝国 ]
アメリカは、1971年には「貿易赤字」国に、さらには「経常収支は八三年から赤字の拡大が目立ち、これを埋めるため、海外からの投資が盛んに行われ、アメリカは、海外からの投資額が同じ時期の対外投資を上回る、資本の純輸入国となった。」(「マネー敗戦」p.30)
この状態は今に至るまでずっと続いている。
そのうえ「財政赤字」ということもあって(所謂「双子の赤字」)それはクリントン時代に一時改善する局面もあったが、今ではまたあやしくなっているようだ。
「そんな国が何故いまだに『帝国』をやっていられるのか?」
「その答えを誰もが知っているから誰も問えない」(中島みゆき)ってか?
(2003/02/21)
一枚いくらで原稿を売って糧としている「専門家」諸氏には勿体なくて出来ないことかもしれないが、あるいは、
本当にこんなことは誰もが知っている常識にすぎないことかもしれないが、
本当にど<素人>の私にとっては今初めて腑に落ちたことであるので、断固書いておきたい。
アメリカがかれこれ20年以上も、ほぼ一貫して「双子の赤字」を続ける「世界最大の債務国」でありながら、いまだに「帝国」をやっていられるのは、ひとえに、その「赤字」を一貫して自国通貨(ドル)建てでファイナンスし続けた、語の最も正確な意味で「有り難い」もうひとつのある意味での(経済)「大国」があったからである。
そして、その「大国」とは日本にほかならない。
まあ、「金の卵を産むニワトリ」みたいなものだな。
その「卵」の累積額は国債、民間債あわせて700兆円位になっているそうな。
(今日は、2003年2月23日です。
「ぼやき」「407」から引用します。
日本のハイパー・インフレも、アメリカの大不況入り(NYの株価の近い大暴落)と金融システム崩壊に連動するようにして考えられている。その根拠は、アメリカの国債(TB トレジャリー・ビル=財務省証券その他)の発行残高の、実質3分の一は、日本(政府、金融法人、メーカー、個人金持ちの4者)が買い支えているからだ。その額は、400兆円(3兆ドル)ぐらいになる。その他にも各種の債券や株式の形で300兆円分ぐらいがアメリカにある。合計700兆円である。これが、日本の金融不況の最大の原因なのだ。日本は、「政治的に」、資金をアメリカに奪われ、釘付けにされている。)
かくして日本はアメリカに為替レート設定のフリーハンドを与えてしまうことになった。
アメリカにとっては、その利益極大を経済面のみで考えれば、「円高ドル安」のデメリットはなにもない、ということになってしまった。
アメリカ側の事情から「円高ドル安」に歯止めをかける要因があるとすれば、それは唯一、やりすぎて「金の卵を産むニワトリ」を殺してしまっては元も子もない、といういわば「政治」的な勘案のみだろう。
そしてその「経済」と「政治」の綱引きのバランス点が現在の130円前後という為替水準なのだろう。
(ニ)、上記「モデル」で為替レート変動が、1ドル=200円から1ドル=100円というふうに、いささか極端な想定がなされている。計算の便宜ということもあるが、しかしこれは「プラザ合意」以降の日米間において実際に起こったことなのである
2・3「プラザ合意」について
(この項、続く。)
http://www2.ocn.ne.jp/~megami-k/
(副島隆彦の総合掲示板より)
http://www.soejima.to/