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あっしら殿 ; [A purpose of being] +α です。
投稿者 如往 日時 2002 年 12 月 19 日 18:19:01:

 あっしらさん、こんにちは。
 『FP』さんの代行(?)、ご苦労さまです。
 ご多忙な中まことに恐縮に存じますが、氏の守備範囲の広さを頼りに、今回は実は卑近なテーマでもある人間の[purpose of being]について、ハイデガー 『存在と無』をcontextにして古い記憶を辿りつつ哲学的(?)に、以下概括を試みたいと思います。しかし何れ雑談の域を出ることはないでしょうから、ついては一方の脚は快楽主義的なところに浸したままで一向に構いませんので、御笑覧下さいませ。


 先ず、私は人間の[purpose of being]を3つの相[phase] に区分して考えています。すなわち、第一の相:[to complete the reason for being]、 第二の相:[to develop the value of presence]、第三の相:[to create the meaning of existence]です。さらに、それぞれに「存在理由の完結」、「存在価値の発現」、「存在意義の創造」を、[purpose of being]には「存在目的」を訳語として充てています。


●「存在理由の完結」

 人は物心がつき始める頃から、近親者の死に遭遇したり物語に身も心も移入すること等、切っ掛けは多様で意識の次元は異なるとしても、「自分は一体何の謂れでここにあるのか。」と、自己の存在理由を自問するようになるでしょう。
 個という恰も不連続点と紛うものの断面に、ハイデガーは人間の存在の「被投性」をみてそこから[sein]が[dasein]たるべく、すなわち「即自的存在」が「対自的存在」かつ「投げ出す存在」に向うことに人間の本来性を回復する可能性を見い出そうとしました。それは、キルケゴールの神への反抗に組して、なおかつそれを完遂するための指針でもありました。尤も、キルケゴールがそこまで希求していたか、あるいは視野に入れていたかは不明です。人間の存在理由に関し実存哲学的に問う試みが社会学的地平を眺望するものとしては、近代ではキルケゴールを端緒にし、ニーチェ、ハイデガー、ヤスパースを包摂してサルトルで一応終結していると云えましょう。

 一方、宗教が規定する人間の存在理由には異論を挟みようがありません。何故なら、当然の如く大部分の宗教において経典は鵜呑みにするように示されていて、そもそも宗祖は崇拝すべきもので近づくことができないものであれば、論理的にコミュニケイトするなど殆ど不可能に近いからです。従って、自らの存在理由の源であるのにも拘わらず、こちら側からは真実を問うことができないといった原理が働くのです。これは天国への扉の自称番人(神父や牧師)や、浄土への渡河無き案内人(僧侶)の語ることに何ら実はないことを物語るものです。付け加えると、日本の神道は宗教ではなくむしろ道徳・倫理の範疇に入れられるべきで、人間の存在理由は最初から捨象してしまっている故に良くも悪くも論外であると言うべきでしょう。幾らか信仰心らしいものがあったのかも知れません、若い頃は好奇心も手伝って各宗教各宗派の集会に参加し、随分説教や講話を聴きましたが、何れも私の感性や知に響くことはありませんでした。

 このような経緯から、最近では哲学や宗教から離れてもっと自明なものとして、「ヒト(生物)の存在理由は遺伝(DNA)の承継にあり、個別的生はそのための個体維持である。」との生物学的な定義を存在理由の主概念として採用しています。そして、これが、問:「自分は一体何の謂れでここにあるのか。」への答えであり、存在理由を叙述するのにこれ以上でもこれ以下でもあり得ず、従って、「存在目的」は下位概念上では「存在理由の完結」に導かれると捉えています。
 さらに、この存在理由は個別的には時間性を有することになり、ヒト以外の大部分の生物は存在理由の完結が同時に個別的生の寿命を意味していますが、本来ならば人間もそうした宿命から逃れられないはずです。つまり、少なくとも20歳位から35歳位までを蒔種育苗の時期とすれば種子等が成長し一人立ちする頃、55歳位から60歳位で存在理由を根拠とする生は終了します。さすれば、その後の生には如何なる意味があるのでしょうか。


●「存在価値の発現」

 第一に、存在価値は存在理由を完結していくための個別的能力や置かれた状況全般を示し、時代的な制約を受けるものとして社会性や相対性の域におさまり、その点で人の運命を構成しています。従って、普通、存在価値は存在理由の完結の進捗を図っていく過程で社会への適応上、必要性に対応すべく発現されます。その人に存在価値があるか否かは本来他者が決めることではないのですが、現実には社会によって決められています。何故なら、能力や家系の状況を受け継いだ価値は相対的で時代や社会に認知されなければ、生存を担保するものにはならぬからです。
 第二に、存在価値は人類の存在状況を先取るものとして未来を投影する手立てにもなり得るという側面を持っています。芸術や文化がその象徴ですが、科学一般は大局的には人類の生き残りの技術であり、その進歩・発展がやがて「存在意義の創造」に向っていくならば、この上ないことだと思います。


●「存在意義の創造」

 ヒト以外の生物に、それ自体の存在意義を問うことはできません。但し、人については人間界の事柄として「存在理由の完結」までを存在意義の意味として叙述することは可能です。
 しかしながら、一般的に「存在理由の完結」以後や「存在理由の完結」への試行を停止した時点で、人は存在意義を喪失していると言わざるを得ません。多くの人々が存在意義の喪失を意識することなく、社会や家族から存在価値があると認められているとそんな幻想をよすがとしながら、以後も存在を継続しています。それを充分意識する人達は、殉じる先を求めて神道や仏道に末期の煌きを見い出そうと試みるかも知れません。
 私は「存在理由の完結」以上の存在意義は固よりあり得ないと結論づけています。逆に、敢えて言うならば、創造せずにはあらぬのが存在意義であると考えています。


●「存在目的」

 嘗て、ハイデガーは存在意義の不明と存在目的の不在の根拠を人間存在の「被投性」に求め、さらに自己の過去と対峙し投げ出す存在として存在意義を創造していく「企投性」に新たな存在目的の表出があると提示しました。またそれまでの過程で、ニーチェの「超人」の下位概念においては、身を挺すればこそ浮ぶ瀬もあれといった自己犠牲的な当為に普遍性(永劫回帰)への活路を見出そうとしたものもありました。
 神と決別しその加護を求めずして世界内存在としての人間存在が情況にたいし投げ出していこうとすると、忽ち原初的不安が立ち塞がって来るのですが、超克(究極的には時間の超克)のために何がメルクマールとなり得るか、個別的にはそれがノスタルジアの内にあるとハイデガーはみました。ここで、哲学はその弁えを堅持し社会学(世界)への敷衍を踏み止まろうとします。(余談ですが、ハイデガーは一時期この弁えを外してナチス政権に沿うかのように消極的にでしたが加担しました。戦後彼はこの件については黙止を続けたまま没することになります。)


●「取急ぎの結語」

 今日、自らの「存在理由の完結」を省察し目覚めた知にとって弁えを外してコミットすべき対象は、「存在意義の創造」をコンテクストとする「存在目的」の達成であり、人類の当為は少なくとも次世代の「存在理由の完結」を担保することに収斂していくでありましょう。換言すれば人類の営為は、永続的に「存在理由の完結」を現出すべく循環の普遍的ホメオスターシスを創出することに、その存在意義があると結論づけられると思います。


 〔30年以上も前、門閥の出自とは縁遠い貧しい哲学徒であった者達が、おそらく戦間期ほどではないにせよ、時々の時代に翻弄されながらも世界を捉えようとした感性はそれほど変わっていないと感じています。その一人として、やがて身過ぎを実業の世界に託して後も、問題意識の胚芽だけは細く長く綿々と保持されていることに驚いています。しかしその一方で、前述しましたように、自身の「存在理由」も終結する時節を迎えつつあるのだと意識している次第です。ところで、当事者能力と当事者意識は本来不可分であり、それが理想と考えています。しかしながら、事実は当事者能力を有する者が当事者意識に欠けることが多いようです。人間の心理的側面からみると世の中で諸々の齟齬や焦燥を来たすことの原因の大部分が、この当事者意識の欠如に負うていると云えましょう。それ故、生産関係に敷衍するならば、「生産手段の、共有に基づく個人的所有」は(生産者及び労働者の)当事者意識を具体的に反映するもの、すなわち当事者能力の権化であり、極言すれば、「生産手段の所有」は人間(労働者)にとって生存の自在性を担保していくための、すなわち自由であることの基本的な要件に外なりません。しかしながら、とりわけ日本人がこうした自覚に欠けるのはどうしたことか、あっしら氏の以前の論考も大いに参考にしつつ多々原因の究明を試みていますが、人々に自覚を促すための方策にまではなかなか到達できないでおります。〕


 また寄せさせていただきます。

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