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解説:情報収集衛星、既存衛星構造体採用が性能面の妥協強いる
日本初の偵察衛星、「情報収集衛星(IGS)」の打ち上げが3月28日に迫ってきた。総額
2500億円を投入した巨大プロジェクトだが、その実態は衛星の性質上、詳しくは公表さ
れていない。衛星に関して公表された情報を分析していくと、IGSの中途半端な性能が
見えてくる。今回打ち上げられる第一世代のIGSは、性能面で様々な妥協を重ねてお
り、既存の民間地球観測衛星程度、場合によってはそれ以下の能力である可能性が高
い。
●USERSと共通の衛星バスを採用
IGSの概要とおおまかな外見は、1999年7月16日に開催された宇宙開発委員会で公開
されている。衛星は、最大分解能(見分けられる最少の長さ)1mの光学衛星2機と、分解
能1〜3mで曇っていても観測が可能なレーダー衛星が2機の計4機。地球を南北に周回
し、衛星直下の地域の地方時が常に一定となると同時に数日おきに同じ地域の上空を通
過する太陽同期準回帰軌道に打ち上げられる。衛星の寿命は5年。今回は光学衛星とレ
ーダー衛星をそれぞれ1機、同時に打ち上げる。製造は三菱電機である。
図は宇宙開発委員会資料にいくつかの推定を加えたコンピュータ・グラフィックスだ
(上がレーダー衛星、下が光学衛星)。
この外見からすぐに分かるのは、衛星の基本となる衛星バスが、2002年9月にH-IIAロ
ケット3号機で打ち上げた材料実験衛星「USERS」と同一だということだ。電源系や姿
勢制御システムなどを含む衛星の基本となる構造体のことを衛星バスという。USERS
も三菱電機が製造している。なお、USERSのバスは今年秋にロシアのロケットで打ち
上げる予定の、電子部品を試験する衛星「SERVIS」にも使われている。USERS、IGS4
機、SERVIS2機ど、同衛星バスは7機も製造された。海外では珍しくもない数だが、過
去日本で開発された衛星バスの中で、もっとも大量に生産されたバスということにな
る。
バスが特定されたことで、衛星本体部分のサイズが分かる。USERSの衛星本体の大
きさは、1.6m×1.5m×1.2mだ。IGSの本体も、これとほぼ同じサイズだろう。
●光学衛星---小さすぎる光学系と不利なポインティング方式
光学衛星はこの1.6m×1.5mの面に、最大分解能1mの白黒画像を取得するパンクロマ
チックセンサーと、様々な波長で観測する分解能5mのマルチスペクトルセンサーが並
んで装着されている。ここではより高分解能のパンクロマチックセンサーに注目しよ
う。
パンクロマチックセンサーは、2004年度にNASDA(宇宙開発事業団)が打ち上げる
予定の地球観測衛星「ALOS」に搭載するパンクロマチックセンサー「PRISM」(分解
能が2.5m)を基本にして、分解能を1mへ向上させたものだと公表されている。地球観
測用のセンサーの分解能は、衛星高度、観測する光の波長、光学系の口径によって理論
的な限界が決まる。より高い分解能のためには光学系の口径を大型化しなくてはならな
い。また高分解能のためには同時に長い焦点距離も必要となる。限られたスペースに光
学系を実装するには、ミラーで光の経路を曲げる必要がある。
PRISMの口径は30cmで、衛星本体の大きさは1m×1m×2mほどだ。衛星バスのサイズ
からすると、IGSのパンクロマチックセンサーは、40〜45cm程度の口径だろうと推測さ
れる。最大分解能0.8mの米スペース・イメージング社の民間地球観測衛星「イコノ
ス」の光学系は口径が28インチ(71cm)ある。IGSパンクロマチックセンサーの光学系の
口径は、十分な性能を発揮するには小さすぎると考えられる。
また、偵察衛星には衛星の直下だけではなく、斜め横方向にセンサーを向けて観測を
行う機能(ポインティング機能)が必要である。IGSのセンサーのサイズからして、衛星
の姿勢を変えずにミラーを使って斜め横を観測する仕組みは組み込めないだろうと推測
できる。従ってIGSは衛星全体を傾けて斜め方向の観測を行うしかない。ところがIGS
には長い太陽電池パドルが突き出している。衛星の姿勢を変えるとパドルが震動し、衛
星全体を揺すぶってちょうどカメラの「手ぶれ」と同じ現象で観測画像がぼける可能性
がある。ちなみに前出の「イコノス」は震動しにくい高剛性の太陽電池パドルを装着し
ている。
小さすぎる光学系の口径、ぶれる可能性が大きいポインティング方式---このことか
ら、公表された衛星のコンフィギュレーションでは、最大解像度1mという公称性能の
達成が容易ではないことが見て取れる。一部で「性能が出ていない」と報道されている
が、そのことは公表資料からも推定できるのだ。
光学衛星は、最大分解能1mを達成できていない可能性がある。
●レーダー衛星---軌道的なメリットを捨てる
レーダー衛星の問題点は、実は「光学衛星と同時に打ち上げる」という点にある。レ
ーダーによる地表観測の利点は、「天候や時刻と無関係に観測ができる」ということ
だ。このため、レーダーを使った地球観測衛星は、通常、衛星通過時の直下の地方時が
午後6時になる「ドーン・ダスク・オービット」という軌道に打ち上げる。この軌道だ
と、衛星が夕闇の上を一方向から太陽光を受けつつ飛ぶので、衛星姿勢を乱す原因の一
つである太陽電池パドルの駆動機構を付けなくてすむ。このように有利な午後6時の軌
道に打ち上げるためには、衛星を午後6時前後に打ち上げる必要がある。
しかしIGSのレーダー衛星は、光学衛星と同時に打ち上げる。打ち上げ時刻は午前9
時から正午と設定されているので、おそらく観測地の通過時刻は午前10時半から午前11
時に設定されているのだろう。
これは、USERSのバスを使ったために、「ドーン・ダスク・オービット」用の最適
な衛星コンフィギュレーションを取れなかったためだろう。その結果としてレーダー衛
星は高精度な姿勢制御には不利となる駆動機構付き太陽電池パドルを持つこととなっ
た。大電力を消費するレーダーのために、パドルは光学衛星よりも大きい。適切に設計
しないと太陽電池パドルとレーダーの振動が連成して、複雑な振動を起こす可能性もあ
り、ここでも光学衛星の「手ぶれ」と同じ問題が開発担当者を悩ませたであろうことが
推察できる。
●足りなかった開発期間が衛星を中途半端に
IGSの形状から推測される問題は、すべてUSERSバスを使ったことに起因している。
USERSバスを採用した理由は、おそらく2つ。開発期間の不足、そしてコスト削減だ。
衛星バスの新規開発には相当な期間と予算が必要となる。ただでさえIGSは、高分解
能のセンサーという難しい新規開発要素を抱えている。センサー開発を優先して、衛星
バスでは既製品を使うという妥協をしたのだろう。しかし結果として、衛星バスの妥協
が、センサーの性能をも縛る結果となっている。
http://biztech.nikkeibp.co.jp/wcs/leaf/CID/onair/biztech/mech/235696