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改革に夢託し無意識に応援
痛み実感まだ/後継者なく
依然として六割前後の驚異的な高い内閣支持率を維持する小泉純一郎首相。ところが、世論調査では小泉政権の経済政策には期待できないと答える人の割合もかなり大きい。景気回復の遅れが深刻化するなかで、経済政策を期待できないと判断した政権に対し、なぜ多くの人は支持するのか。こうした矛盾する現象を専門家に分析してもらったところ、「首相の政治スタイルの特異性」「現在の政治情勢」「国民の意識」「世論調査の限界」などが複合的にからみあっている実情が浮かび上がった。
≪矛盾に秘密≫
学習院女子大の石澤靖治教授(メディア関係論)は、小泉首相が抱える二つの矛盾点が高支持率維持を可能にしていると説明する。第一の矛盾は、自民党総裁でありながら自民党を壊すと主張している点で「国民は『小泉首相には改革はできない』と思っているが、いままでそういうことを言った人がいないから夢を託し、これが逆に『できないだろうから支持してあげなければだめ』となっている」と指摘。国民が無意識のうちに小泉応援団になっている点をあげる。
二つ目の矛盾は小泉首相のイメージ。「小泉さんは世論を見るプロで、どのタイミングで何をするかということを全部考えているようだ。しかし、いざ事が動きだすと、全然計算していないような形になることが多い。このため国民には『小泉さんに裏やうそはない』という形でメッセージが届く」と、クリーンなイメージが功を奏していると分析する。
田中真紀子元外相更迭で一度急落した支持率がV字形回復したことについては、早稲田大の谷藤悦史教授(政治意識論)は「政府の道路関係四公団民営化推進委員会のメンバーに猪瀬直樹氏を起用し(支持率低下の)揺らぎを止め、訪朝という一つのイベントが評価されて支持率を回復した」と分析。石澤氏も「拉致問題と反北朝鮮の風潮にうまく乗ったにすぎない」としている。
≪実は追い風≫
国民が経済政策に期待しないにもかかわらず、小泉政権を支持する理由については、石澤氏は「まだ多くの国民に痛みの実感がないため。いまは無策であっても許容範囲にあるが、具体的に痛みが出てくるとどうなるか分からない」と予測。東海大の白鳥令教授(政治学)も「失業率は新卒を入れて8%といっても百人のうち九十二人は仕事がある」と分析している。
現在の政治情勢については白鳥氏はまず、小泉政権が高支持率でスタートしたのは「森政権への失望感の反動」と指摘。そのうえで、高支持率を維持していることについては「小泉さん以外で何かやりそうな人が出てきていないし、民主党も代表選でつまずいている。小泉さんは何かをやってくれそうだという期待感がいまだに残っている」と、ポスト小泉不在の現在の政治状況を要因の一つにあげる。
≪調査法にも≫
一方、世論調査は電話と面接による聞き取りが主な手法だが、小泉政権が高支持率を維持するのは、現在の世論調査の方法にも原因があるという指摘が少なくない。
これについて、長年マスコミの世論調査に携わってきた統計数理研究所名誉所員の西平重喜氏(統計学)は、ここ二、三年増えだした「ランダム・デジット・ダイヤリング」方式と呼ばれる電話調査の特性にその一因があると指摘する。
「ランダム・デジット・ダイヤリング」方式とは、コンピューターで電話番号を無作為に発生させ、回答者が定められた人数に達するまで調査する方法。
調査時間帯に在宅して、回答することを拒まない人−つまり比較的、在宅する時間が長いうえ、話すことが好きな人の意見ばかりを聞く結果となり「世論が偏る恐れがある」と、統計数理研究所名誉所員の西平重喜氏は警鐘を鳴らす。
調査機関はこうした偏りをなくすため、相手が不在の場合などは、時間を置いてかけ直すなどの対応をとることにしているが、「時間がない場合にはすぐに別の人にかける例もある」(関係者)といった実態もあるとされる。
≪国民性にも≫
一方、西平氏は面接調査についても「かつては八割くらいあった回答が、六割程度に下がっている」と、回答率の低下が調査結果に影響を与えていると指摘。さらに「他人の意見を気にする日本人の国民性」が小泉政権の高支持率の要因の一つだと分析する。
西平氏によると、調査の際に「『他の人は何と答えているのか』と聞いて“正解”を答えたがる人が多い」という。この結果、「マスコミが小泉首相を持ち上げる一方、経済政策については批判するから、回答者もその通りに答えているのではないか」と分析。「マスコミの論調こそが国民が求める“正解”となっている。マスコミが小泉不支持を打ち出したら、支持率は下がる」と予測する。
早稲田大の谷藤悦史教授は「支持の中身が多様化している」と分析。「質問を『好きか』『満足か』『投票するか』など多様化させれば、必ずしも『イエス』になるとはかぎらない」との見解で、質問項目の設定の仕方で調査結果は大きく変わるとみている。
≪急落危険は≫
政権発足当時の熱狂的なブームが去った今、小泉内閣の支持率は今後、どうなっていくのか。小泉内閣にとっての「中間選挙」ともいわれた十月二十七日の衆参統一補選は、小泉内閣の高支持率とは反対に、いずれも低投票率を記録した。
この点について東海大の白鳥令教授は「高支持率といっても、その強さの度合いは内閣発足当時に比べて弱まっており、勢いがない」と指摘。「今後、首相に寄せた期待が裏切られたと国民が感じれば、支持率は急激に落ちる」と予測する。
一時、不支持が支持を上回る時期もあったが、谷藤氏は「一年たっても何も変わらないという意識を人々が共有しはじめた。本当に大丈夫なのかと思うようになっている」と分析する。
こうした状況で、小泉首相が支持率を高水準で維持するにはどうすればいいのか。学習院女子大の石澤靖治教授は「国民が欲しがっているのは明確な国家ビジョンと具体的な(政治課題への)対策。『やるぞ』という決意だけみせて一年半もったが、もうこれではだめだというのはみんな分かりきっている」と解説。谷藤氏も「これからは、体系的戦略か、(国政上の)はっきりした成果がなければいけない」と指摘する。
明確な国家ビジョンと具体的な成果は「ポスト小泉」を狙う政治家が抱える共通の課題でもある。小泉首相にとって代わろうという人材が小泉首相よりも早く明確なビジョンを打ち出せば、移り気な世論の支持を集める可能性もある。これまでの手法を続ければ首相が今後も高支持率を維持し続ける保証はないようだ。