【エルサレム海保真人】
「虐殺」か「戦闘の結果」か−−。ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ジェニンの難民キャンプで発覚した大量のパレスチナ人死者数が国際的な波紋を呼んでいる。パレスチナ自治政府側が「惨事」と声高に訴えているのに対し、イスラエル軍は「虐殺はなかった」と否定し、真相は薮の中だ。だが、泥沼化した衝突収拾に向け、イスラエル入りしたパウエル米国務長官の仲介の行方にも大きな影響を与えそうな様相だ。
同軍の侵攻以来、7日間に及んだパレスチナ人武装集団との戦闘は既にほぼ収束したが「軍事閉鎖区域」に指定されたままで、記者の立ち入りは禁止されたままだ。
パレスチナ側の報道によれば、多くの遺体は今も道路や破壊された家々のがれきの中で横たわったままだ。一般住民は近隣の村々に退去させられた。赤十字国際委員会やイスラム社会の「赤十字」にあたるパレスチナ赤新月社、国連関係の救護隊はイスラエル軍にキャンプに入ることを禁じられたままという。
イスラエル側の報道によれば、軍は11日、住民に遺体の埋葬を許可し、約100体が埋められた。現地指揮官が凄惨な遺体が世界のメディアに報じられないよう埋葬を急がせたとの指摘もある。一方、12日付のイスラエル有力紙ハーレツは、住民の話として「軍が遺体の山をブルドーザーを使って埋めた」と報じたが、軍側は否定している。
パレスチナ自治政府側はこの「惨事」を国際機関や世界に訴え、イスラエルに対する圧力を強めてほしいのが本音だ。既に英国はイスラエル政府に対し、正確な報告を求めた。欧州連合(EU)も後続するとみられる。
これに対し、イスラエルは国際社会から「虐殺」と糾弾されることが、パレスチナ過激派掃討作戦継続を主張する立場をさらに弱くさせると懸念している。82年のレバノン侵攻の際、パレスチナ人難民キャンプで起きた友軍による難民大虐殺事件の後遺症が重くのしかかっている。
双方は国際世論を味方につけることに躍起となっており、パウエル米国務長官の調停とも絡んだ駆け引きが展開されている。