『医者が患者をだますとき』(草思社)からの引用です
http://www.soshisha.com/books/isha.htm
■現在、多くの医者が風邪の患者にもペニシリンを投与している。しかし、ペニシリンが効くのは細菌性の感染症に対してであり、風邪やインフルエンザのようなウイルス性の感染症に投与しても意味はない。
ペニシリンをはじめとする抗生物質には次のような特徴がある。
◎風邪やインフルエンザの罹患期間を短縮することはできない。
◎合併症を予防することはできない。
◎鼻内部、のどに存在する菌の数を減少させることはできない。
要するに、抗生物質は風邪には効かないのである。風邪やインフルエンザに対する抗生物質の作用というのは、副作用だけである。抗生物質を投与された患者は、発疹、嘔吐、下痢、発熱、アナフィラキシーショック(激しいアレルギー反応を伴う薬物ショック)などで苦しむ。しかも、発疹だけで済む患者はわずか7〜8パーセントにすぎない。単核症(血液中の単核白血球の数が異常に多くなる病気)の患者がアンピシリンというペニシリン系抗生物質を服用すると発疹を起こす確率はもっと高くなる。ペニシリンに対して激しい反応を起こす5パーセントの患者がアナフィラキシーショックを起こし、呼吸困難で苦しむ様子は見るに堪えない。このほか、ペニシリンには、心血管虚脱、発汗、意識不明、血圧低下、不整脈などの副作用があるが、本来、これらはいずれもペニシリンによって治るはずの症状だったのである。
ペニシリン以外にも危険な抗生物質は少なくない。クロマイ(ク口口マイセチン)は、インフルエンザ菌(ヘモフィルス属の標準種)とするある種の髄膜炎とチフス菌を病原菌とする病気に対して有効な薬である。しかも、こうした病気にはクロマイしか効かないことが多い。この薬には骨髄造血機能を妨げるという致死的な副作用があるのだが、瀕死の状況では、この程度の副作用はやむをえないのかもしれない。
しかし、子供が単なるウイルス性の咽頭炎、咽喉炎、扁桃炎といったのどの炎症程度のことでクロマイを投与するのはどうだろう。効果がないばかりか、骨髄造血機能の阻害という危険を無意味に冒すだけである。骨髄の造血機能が阻害されれば、多量の輸血をはじめとする処置が必要になる。しかも、患者が完全に回復できるかどうかという保証はない。ところが、なぜか医者はのどの炎症にもクロマイを処方するのだ。
テトラサイクリン系抗生物質は、外来診療所や開業医に人気の薬である。各種の細菌性の症状に効果があり、副作用も少ないと考えられているからで、子供から各年代の患者に幅広く投与されている。しかし、この薬の副作用は多岐にわたって現れるので、それを知っている医者ならば不用意に処方はしないはずだ。
この抗生物質の重大な副作用のひとつに、骨と歯に沈着物を形成することがあげられる。骨におよぼす影響を正確に指摘することはできないが、子供の場合、歯に黄色や黄緑色のしみを永久に残してしまう。経験的にそれに気がついている親は数十万人、おそらく数百万人はいるだろう。いくら風邪の症状を軽くしてくれるからといっても、こんな代償を払うのかと思えば、多くの人は服用する気にもなるまい。しかし、ほとんどの医者はそうは考えてはいない。
■不幸なことに、医者の多くは、現在でも抗生物質のような強い薬を愚者に投与している。アメリカでは、毎年数千万もの人々が風邪で通院しており、そのほとんどに薬が処方されているが、その薬の半分は抗生物質である。この患者たちは二重、三重にだまされて、現在の医療体制に組み込まれているのだ。風邪にはまったく効きもしない抗生物質を投与されて必要もない医療費を負担し、副作用のために風邪よりもはるかにひどい、時には死に至る感染症を発病して、さらに治療を受けざるをえないように仕組まれているのである。
医者はその昔、「治癒の代理人」であったが、いまでは「病気の代理人」と成り果てている。現代の医学は濃厚で過剰な治療を軽症患者にまで安易に行なったため、逆に重症患者の治療に対する有効な治療法を低下させて台なしにしてしまった。私を含めて多くの医者がかつて誇りを抱いて携わった奇跡の医療が、現在では患者に害をおよぼす薬漬け医療に堕落したのである。