★阿修羅♪ ★阿修羅♪ |
|
狂言界では宗家かどうかでもめているけどエコノミスト界だって同じようなもの?エコノミストの人達って本当に経済のこと分かっているのかな?
先週の金曜日5月3日は憲法記念日でお休み。とはいえ、とくにやることもなかったので、のんびりとテレビでワイドショーを眺めていた。普段は「ワイドショーなどくだらない」などと思っていたのだが、実際に見てみると意外に面白い。番組で取り上げる話題はどれも興味深いものであったが、中でも面白くかつ身近に思えたのが、狂言師・和泉元彌氏の「宗家自称疑惑」問題だ。
和泉元彌氏は、日本各地で「和泉流宗家主催狂言の会」を公演する傍ら、NHKの大河ドラマや紅白歌合戦に出演するなど幅広い活動をしている。問題なのは、この元彌氏が「和泉流二十世宗家」を名乗っていること。和泉流職分会によると、「宗家」を称するためには職分会の了承が必要だが、元彌氏は職分会の了承を得ず「和泉流二十世宗家・和泉元彌」を商標登録し、宗家を名乗っているらしい。もし職分会の主張が正しいのであれば、現在の彼の肩書きは「自称」ということになる。
「宗家自称疑惑」の真偽は別にしても、実力の高くない者が、実力以上の肩書きを名乗るケースは多い。たいてい人は、相手の実力を見定める際、相手の行動そのものでなく、相手の肩書きで実力を判断してしまう。肩書きを不当に立派に見せる人物は、こうした人の慣わしをうまく利用したともいえるが、人の善意に付け込んで自分を売り込んでいるといってもいい。
大変残念なことではあるが、私が所属するエコノミスト業界でも、同じやり方で自分を売り込み、多くの人々に自分の思いつき知識・考え方を刷り込もうとする者がいることを否定できない。エコノミストを名乗るには、特別な試験に合格する必要もなければ、誰かから認可を取る必要もない。特定の組織に所属していれば、その組織が何らかの判断をしたとも考えられるが、独立系エコノミストは、こうした組織判断すら受けていない。要するに独立系エコノミストのほとんどは、肩書きを自称していることになる。肩書きが自称であっても、発言内容が専門知識に基づいたものなら問題ない。しかし、ほとんどの場合、発言内容は思いつきの域を出ていないことが多い。
「経済アナリスト」と称し、テレビや雑誌等で面白おかしく経済現象を解説する専門家(仮にX氏としよう)がいたとしよう。X氏のコメントは他エコノミストと比べユニークな面が多いので、面白く聞こえることもある。ただ、専門知識が必要とされる政策論争になると、発言内容がとたんにおかしくなる。例えば金融政策に関するX氏の意見をみてみよう。
(1)不良債権処理が進まないのは地価下落が止まらないからだ。
(2)日本銀行は、資産インフレに誘導するため1〜3%のインフレ率目標を設定(インフレターゲット)をすべきだ。
(3)目標インフレ率に到達するまでは、無制限にマネーの量を増やすべきだ。
(4)インフレ率が3%を超えるようなら、今度はマネーの量を減らすべきだ。
(5)こうした考え方に同調しない今の日銀総裁を即刻更迭すべきだ。
X氏の意見のおかしさについては、多くのエコノミストが指摘しているのを読者もご存知だと思う。ここでは紙面の都合もあるので、X氏の発言内容の中でも、X氏の思い込み、もしくは思考の短絡さが目立つ3点について指摘する。
X氏が言うように不良債権問題を解決する目的で地価下落を止めるのであれば、「1〜3%程度のインフレ率」では十分でない。なぜなら地価下落スピードは、未だに5%を超えているからだ。「資産インフレ率は実物インフレ率よりも高まる傾向にあるから、インフレ率は3%未満で十分だ」とX氏は述べるかもしれない。しかし、土地等の資産価格が実物価格を上回って上昇する状態は、バブルそのものである。バブルが永続しないことを我々はよく知っている。X氏は、自分の言っている事が過去の過ちの繰り返しだという事実に気づいていないのかもしれない。
仮にX氏の政策が採用され、その後物価が急上昇した場合、(4)のやり方で物価上昇率が落ち着く可能性は非常に低い。X氏が指摘するように、物価とマネーの量は「中長期」には比例するかもしれないが、「短期」では比例しない。思惑買いという一種のバブルが土地等の資産ではなく財・サービスといった実物で発生するからだ。今、アルゼンチンは、インフレ抑制を狙ってマネーの量を収縮させているが、インフレ上昇率は未だ二桁である。そもそも、公共投資の削減すらできない日本で、日本銀行は簡単にマネーの量を減らすことができる、とX氏は本気で思っているのだろうか。
(5)については呆れるしかない。日本銀行の金融政策が日銀総裁一人で決定されているのなら、日本の為替は円高に向かって突き進んでいるはず。分かりやすい立場にいる人間に攻撃を加えることで自らの正当性を高めようとする姿勢は、善玉プロレスラーが悪玉レスラーに攻撃を加える図式と全く同じである。金融政策はプロレスではない。
こうした指摘は、経済に関する専門知識を多少有していれば誰でもできることだ。しかし全ての方が経済について詳しいわけではないので、中にはX氏のような論理性に欠ける意見でも、うっかりすると騙されてしまうこともある。我々投資家が経済現象をチェックする際、エコノミストの意見は参考になることが多いが、意見はまさに「玉石混合」だ。我々がすべきことは、自分の頭や仲間とのディスカッションを通じて、常に「玉」だけを取り上げていくことだろう。「経済アナリスト」や「マーケットエコノミスト」等と称しながら、単なる思い込みや短絡的な意見をもっともらしく発する輩に騙されないよう注意していこう。
マーケットエコノミスト 秋新作
提供:株式会社FP総研