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「中長期的な観点からみると、今後2年程度は厳しい局面を辿(たど)ることになろうが、その先には明るい兆しが見え始めている」−−。日本銀行が7日公表した3月19、20日の金融政策決定会合議事要旨によると、追加緩和を提案した中原伸之委員が先行き楽観論を展開する一方、現状維持を支持した多数派が悲観論を展開。奇妙な“ねじれ現象”がみられた。
中原伸委員は任期最後となった会合で、1)インフレターゲット導入、2)外債買い入れの開始、3)日銀当座預金残高目標を20兆円程度とする調節方針−−を提案。オーバーバンキング解消の過程では、金融仲介機能が十分発揮されることはないとして、「そうした状態を緩和するような潤沢なマネタリーベースの供給が必要だ」と強調した。
これに対し、「マネタリーベースの高い伸びにもかかわらず、マネーサプライがあまり増加せず、銀行信用が減少を続けているという現実を認識すべきであり、海外の一部にみられる論調は日本の現実から遊離している」、「ここ数年はマネタリーベースと名目GDPの比率が過去のトレンドから大きく上方に乖離しているにもかかわらず、物価は低下傾向にあり、単純なマネタリスト的な見方は足元では妥当しないのではないか」など、強い反論が相次いだ。
長年の鬱憤が噴出
さらに、中原伸委員とおぼしき人物が「債券相場の長期的な上昇トレンドは終了し、先行き、長期金利が強含むリスクがある」と述べたことを引き合いに出し、「ターゲット達成までの間、オーバーバンキングの解消、すなわち銀行信用の収縮を想定し、かつ、長期金利が上昇するリスクにも言及しながら、一方でインフレ率は高められるとする、そのメカニズムとしてどのような姿を想定しているのか」と疑問の声も出された。
ここまで量的緩和路線を引っ張ってきた中原伸委員に対し、同氏最後の会合で、多数派委員の間から長年の鬱憤(うっぷん)が噴出した格好だ。一方、追加緩和を提案した“現状悲観”の中原伸委員、それを否決した“現状楽観” の多数派という構図が逆転したのが、景気の先行きめぐる議論だ。
中原伸委員は冒頭の発言のように、楽観論を展開。根拠として、1)バブル期以前の銀行貸出残高対名目GDP比を適正な貸出規模のひとつのメドと考えると、あと2年程度でオーバーバンキングが解消され、その間に不良債権処理もそれなりに進ちょくすると予想される、2)昨秋以降、マネタリーベースが前年比15%を上回る高い伸びを示している、3)株価は12年以上にわたって長期間下落してきたが、ここへきて底値感がうかがわれる−−と指摘した。
中原伸之委員抜け、議論低調の声も
対照的に慎重論が強かったのが全体の論調。「99年から2000年の回復局面の経験を踏まえると、今回も、企業収益の増加が賃金や消費の回復には結び付かない可能性がある」(複数委員)、「通常、企業収益の改善は設備投資回復の環境を整えるはずであるが、その際、投資が海外に向かう可能性に留意する必要がある」(同)、「賃金の減少が消費減少および物価下落を招きデフレスパイラルにつながる恐れがある」(ある委員)など、厳しい声が相次いだ。
中原伸之、三木利夫両委員の退任に伴い、春英彦、福間年勝両委員が新たに加わった4月10、11日の決定会合では、昨年7月13日以来、9カ月ぶりに全員一致で現状維持が決まった。現状の金融政策は十分ではない、とみる論者の間からは、中原伸之委員が退任したことで、政策委員会の議論が低調になるのではないか、といった懸念も声も出ている。
3月の会合では、政府側から「政府と日銀との間で目標を共有したうえで、互いの独立性を認める新しいアコードのようなものについて長期的な方向性として議論をしていただきたい」(内閣府出席者)など、一段の金融緩和を求める要請が出された。中原伸之委員がいなくなったので日銀は一段とダメになった、などと言われないためにも、政策委員会は先をにらんだ金融政策の議論をしていく必要がありそうだ。