(回答先: 骨太の改革 (朝日新聞 【経済気象台】 ) 投稿者 sanetomi 日時 2002 年 4 月 20 日 08:16:22)
米国の景気が予想を超える回復ぶりだ。四半期(3カ月)ごとの経済成長率がマイナスになったのは、同時多発テロ事件があった昨年7〜9月期だけで、今年1〜3月期は4%台に乗りそうだ。個人消費の強さが特徴で、このまま本格的な回復軌道に乗るとの見方もある。一方で原油高騰など、回復に水を差しかねないリスクも指摘されている。世界経済を左右する米国景気の足元を点検してみた。(ワシントン=山脇岳志、ニューヨーク=山本晴美、サンノゼ=尾形聡彦)
シリコンバレーの真ん中を抜けるエルカミノリアル通り。西海岸特有の強い朝日の中、約60人の外国人労働者が日雇いの仕事を待つ。人集めのワゴン車が止まるたびに、先を争って乗り込んだ。行き先は建設や清掃の現場、芝生の手入れなど。時給は10ドル(約1300円)ほどだ。昨年後半、仕事にありつけるのは毎日1人か2人だったが、いまは10人を超す。
IT(情報技術)バブルの崩壊に直撃されたシリコンバレーだが、住宅市場にも活況が戻ってきた。不動産業のサハー・ザファーさんは「50万ドル(約6600万円)程度の家ならすぐに売れる」という。調査会社によると、サンフランシスコ一帯の1月の住宅販売は、前年同月より17%多い6990戸。前年実績を超えたのは1年半ぶりで、2月はさらに伸びた。
高速道路沿いのメルセデス・ベンツの販売会社は3月、昨年より46台多い215台を売った。
昨年9月のテロ以降、米経済復活の主役は自動車などの個人消費だ。統計への影響が大きい住宅販売の好調も効いた。
今年1〜3月期の国内総生産(GDP)の成長率(年率換算)は4・5%の見通し。テロ直後の重苦しい空気を思えば、驚異的ともいえる回復ぶりだ。
◇くすぶる不安3要素
米連邦準備制度理事会(FRB)は、前期比マイナスが続く企業の設備投資の動向に注目している。低迷する企業収益や設備投資のほかに、米経済の本格回復には三つのリスクがある。
■中東情勢
イスラエル軍によるパレスチナ自治政府への直接攻撃に、原油の国際指標銘柄であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の市況は急騰し、2日には1バレル=28ドル台と半年ぶりの高値をつけた。
続いて、イラクが石油輸出の1カ月停止に踏み切った。他の産油国が即座に「同調せず」と表明したが、市況は3カ月前より3〜4割高い水準にとまったままだ。
米エネルギー省は8日、「石油輸出国機構(OPEC)が今後増産しても、WTI価格は年末まで25ドル以上が続く」との予測をまとめた。米国にとって2番目の石油輸入先、ベネズエラの政情不安も気がかりだ。
今年1月半ばに1ガロン(3・8リットル)1.1ドル前後だったガソリンの小売価格は、1.4ドルを超えた(米自動車協会調べ)。夏のドライブ季に向け、生活必需品のガソリン高が、景気を引っ張る消費者心理をじわりと締め上げる恐れがある。
原油が10ドル上昇すると、米国のGDPを0・2〜0・4%押し下げる。世界経済の回復でエネルギー需要が増えたところに、パレスチナ情勢の一層の悪化や「イラク攻撃」があれば、原油価格はさらに上がる。ニューヨーク株式市場の神経質な動きは、この不吉なシナリオを反映している。
■保護主義
「新税で米国民をたたきのめすようなもの」。ブッシュ大統領が先月、鉄鋼製品への緊急輸入制限(セーフガード)を発表した際、鉄鋼貿易関連の企業でつくる米国国際鉄鋼協会(AIIS)のデビッド・フェルプス会長は激しく非難した。
16品目の輸入に最高30%の関税を上乗せするこの措置は、米鉄鋼業界を保護する半面、鉄鋼製品や自動車、家電などの価格上昇を招く。
米政府は、カナダからの住宅用木材にも上乗せ関税をかける方針だ。商務省が認定した平均29%が課せられた場合、「平均的な住宅建設費は1500ドル上がる」と、米住宅建設協会のレイバーン副会長は警告する。
■住宅バブル
個人消費を支える要素の一つは、住宅の資産効果。エール大のロバート・シラー教授らは昨年、住宅価格と株価の資産効果についての研究結果を発表した。それによると、住宅価格が10%上昇すると、消費支出は0・6%増える。株価の上昇よりも、消費を刺激する効果は大きいわけだ。
シラー教授は、米国の株価はバブルだと論破した「根拠なき熱狂」(00年春出版)により、ハイテクバブルの崩壊を言い当てた人物だ。
教授は「来年、サンノゼでは10%、サンフランシスコでは7%ほど住宅価格が下落する可能性がある。ほかの大都市でも下落すれば、米景気に大きな影響が出るだろう」と話す。日本ほどの地価バブルは生じなかった米国だが、90年代後半、一部の大都市では株価につられて住宅価格が上昇した。これが、ハイテク株の二の舞いとならない保証はない。
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