(回答先: S&P:中期的デフレは日本格下げ要因に−小泉政権は数カ月が正念場 東京 3月18日(ブルームバーグ) 投稿者 sanetomi 日時 2002 年 3 月 19 日 05:43:08)
小泉純一郎首相は2001年4月の就任時、長引く経済不況からの脱却を図るべく奮闘している日本に、必要とされるダイナミズムを投入すると断言した。小泉改革の政策は、財政の回復と日本の財政制度の足かせとなってきた多額の不良債権処理を中心であるが、これまでのところ経済回復には結びついていない。デフレの脅威がのしかかるにつれ、長期的な構造改革問題と短期的な危急事態との均衡を保つことが厳しく試されることになる。向こう数カ月が正念場と言えよう。
先頃実施されたスタンダード&プアーズと投資家との電話会議では、小泉政権による政策とそれらが日本の金融制度に及ぼす影響について討論がなされた。スタンダード&プアーズからは、グローバル・バンク・コミュニケーションズ、マネジング・ディレクター、アーネスト・ネーピア、アジア太平洋地域ソブリン格付けディレクター、小川隆平、金融機関格付けディレクター根本直子、事業会社格付けディレクター福富大介の計4名のトップ・アナリストが参加した。以下は、電話会議の内容をまとめたものである。
「ネガティブ」のアウトルック
スタンダード&プアーズは、大手邦銀および日本のソブリン格付けに対するアウトルックを引き続き「ネガティブ」としており、2002年も改善する可能性は低いとみている。日本の事業会社も引き続き極めて厳しい状況にあり、事業会社が回復してこない限り、銀行の資産の質も極めて脆弱な状態が続こう。
根本は次のように述べている。大手邦銀に対する「ネガティブ」のアウトルックは、極めて脆弱な事業環境と増大が予想される不良債権によって、信用力がさらに悪化することへの懸念を反映したものである。銀行は収益の改善と資本の増強に努めているが、不良債権によるマイナスの影響の払拭には至らないであろう。
公的資金の投入
銀行は収益力に乏しく、資産の質は2002年も引き続き深刻な水準にとどまると予想されることから、ネーピアは、「銀行が必要とする政府支援とは何を意味するのかが根本的な課題として浮上している」と指摘している。すなわち、どのような状況で政府が金融危機を認定するのか、具体的な方策は何か、資本注入の前提として銀行が政府に支援を依頼するのか、、といったことが金融業界にとって重要な問題となっている。
小川は次のように述べている。資本注入に対して、2002年度中の実施を含めさまざまな憶測が飛び交っているが、今のところ政府はこれを実施する意向を表明していない。2002年4月以降も、首相が、金融危機対応会議の開催によって議会の承認なしに、最大15兆円までの資本注入を決定することが可能ではあるが、市場だけでなく政府内にも早期資本注入をすべきとの声が聞かれる。これまでのところ、いつ、どのような形で資本注入を実施するかに関する政府の考えは明確ではないが、今後、数カ月以内に決断が下されるものとみられる。
国有化
金融部門の問題を解決策として、一部では銀行の完全国有化(預金保険法102条第3号措置)が挙げられているが、スタンダード&プアーズは小泉政権がこれを実施する可能性は低いとみている。銀行の国有化(特別危機管理)には莫大な費用を要すため、国有化は政府にとって最後の手段であると考えられるためである。旧日本債券信用銀行と旧日本長期信用銀行の国有化では、すべての不良資産の整理と政策投資株式の購入に7兆円以上を要した。また、国有化の期間中は銀行の事業基盤が大幅に低下し、不良債権が増加した。スタンダード&プアーズは、政府が大手銀行を支援する場合、優先株等により資本の増強を行う「オープンバンク」政策をとる可能性が高いとしている。しかし、銀行の市場における信頼が大幅に悪化し、流動性の課題に直面した場合には、政府が完全国有化を検討することもあり得るだろうと、根本は述べている。
「ペイオフ」解禁
2002年4月よりペイオフの解禁が予定されている。預金の全面保護が解除されることでさらなる混乱が予想されるものの、これまでのところペイオフ解禁は大手銀行にとって総じて有利に働いている。預金増加率の高い勝ち組が大手銀行、地方銀行に、負け組が破綻の続く信用組合等になるという質への逃避が顕著になっている。しかし、スタンダード&プアーズは、大手銀行や地銀の預金増加は、必ずしも同業態への信認の厚さをあらわすものではなく、その大宗は2003年3月まで保護の対象となる決済性預金への資金移動であり、資金の移動可能性が高まっているとみている。仮に残高が一時的に増加しても、悪いニュースが続けばこれらはあっという間に減少するであろう。また、ホールセール市場での短期の資金借り入れは、金利水準がゼロに近いことや資金の出し手が慎重になっていることから一部の銀行にとっては困難となりつつある。
ペイオフ解禁の延期を求める声も聞かれるものの政府が現在の政策を変更する可能性は極めて低く、小泉首相も予定通りのペイオフ解禁の意志を表明している。ペイオフの解禁により業界全体を通じてみれば、力の弱い銀行が淘汰されるなどプラスの効果が期待されるが、一方で短期的には金融機関の経営環境に不安定要因が加わるだろうと、根本は語っている。
デフレ
政府は金融システムの蘇生に取り組んでいるが、デフレの加速は金融機関に対する政府の介入の必要性を高めるさらなる圧力ともなりかねないと、小川は指摘している。スタンダード&プアーズは、デフレは日本のマクロ経済にとって最も重要な課題であると考えている。日銀および政府は最近総合デフレ対策を発表したが、これまでのところその効果は明確ではない。こうしたデフレが中期的に継続すれば、ソブリン格付けが引き下げられる要因ともなり得る。
先頃、日銀が毎月の国債の買い入れ額を8,000億円から1兆円に拡大すると決定したが、これはデフレ圧力への対策を示すものとして、ややプラスに受け取れる。しかし、経済のデフレ圧力が深く根づいていることを考慮すると、中央銀行による金融緩和のスピードは緩慢であり、不適切に思われる。最近、対ドルの円の為替相場が反発しているが、これもデフレリスクが継続していることをはっきり示すものである。物価の下落がこのまま続けば、今年下半期には財政出動に対する圧力が高まるだろう。
デフレにより、健全な借り手の格付けが引き下げられることで、地銀の資産内容にも影響を及ぼしている。また、銀行貸し出しの約半分は担保、特に不動産担保によってまかなわれており、これらの価値も低下している。事業会社部門では、現在の低金利にもかかわらず、デフレが企業の債務負担を増加させている。多くの部門における価格の低下、特にリテール部門におけるさまざまな消費財の価格の低下は、同業界を圧迫するとともに、重い債務負担に跳ね返っている。
事業会社部門について、福富は次のように述べている。スタンダード&プアーズは、2001年に事業会社18社の格付けを引き下げたが、2002年の格下げ件数はこれと同水準、もしくは上回ると予想している。スタンダード&プアーズがこれまで対話を続けてきた大手企業の中には今年中に楽観的なシナリオを期待している企業はない。多くの企業は先に進むための試練を強いられることとなろう。
安易な解決策はない
事業会社がリストラに取り組むにつれ、通貨は弱まっている。小川は、円安は短期的には輸出を押し上げることになろうが、長期的に日本経済を後押しするとは考えにくいと述べている。また福富は、円がさらに下落すれば韓国企業にとっても脅威となり、日本企業の抱える不安を解消することにはならないであろうという点を指摘し、これは一時的な効果に過ぎず、国内経済の深刻な問題への対策にはならないであろうと語っている。
最後に、小川は次のように述べている。過去の不適切な対応の積み重ねによる負荷の下、行き詰まった経済に対して痛みを伴った構造改革を実施するには、小泉政権の機動力は限定的である。こうした問題の解決には多くの対策とリスクを伴うこととなろう。日本にはマクロ経済の改善、デフレ管理、事業会社部門・銀行部門のリストラが必要であるが、実際にすべての問題の均衡を、実行することは極めて困難である。