財務省は、長期国債の発行に伴う長期金利の上昇圧力を軽減するため、長期金利と短期金利とを交換する金利スワップ取引を活用する方針だ。既に関連法案が閣議決定され今国会に提出された。 2003年度の開始を目指す。
国債の大量発行が続くなか、米有力格付け会社による日本国債の格下げなどによって、長期国債の需給が大きく崩れたとき(金利が上昇)に、取れる対抗手段の一つにするためだ。
短期国債発行、スワップで金利を固定化
財務省が検討している具体的なスワップのスキームは、長期金利に予想以上の上昇圧力が加わっているとき、長期国債を発行する代わりに、短期国債を発行。それと同時に、スワップ取引を活用して、金利債務を短期から長期に固定化するというものだ。長期国債で資金調達したのと同じ経済効果を得られるという。
例えば、償還期間6カ月のTB(割引短期国債)を発行する。それと同時に金利スワップ取引で短期運用を10年間続ける一方、債務金利を10年間固定化する契約を結ぶと、短期運用が短期国債の発行による債務と相殺される。金利スワップを使うことによって、6カ月ごとに市場リスクにさらされることなく資金調達ができるようになる。
5年前比で3倍増の市中消化
ここ数年、相次ぐ大型の経済対策などの原資を確保するため国債の発行額は急増している。2002年度の市中発行分は104兆円と、5年前の97年度当初計画33兆円の3倍以上だ。
米国の格付け会社は、こうした日本の財政の現状を厳しく評価している。ムーディーズ・ジャパンは「財政赤字は絶対水準でも、対GDP比率でも高い。金融・財政政策は中期的に維持不可能」として、現在「Aa3」の格付けを、最大で2段階下げもあり得ると表明している。2段階引き下げられ「A2」となると、ギリシャ、イスラエル、ポーランドなどと同水準だ。
例え、この水準まで格下げされても、ほかに有力な運用先が見当たらない現状では、投資家は国債への投資を続けざるをえず、相場に大きな影響はないとの見方が市場では大勢だ。
しかし、関係者の中には「A格への格下げということになれば影響は大きい」(巣鴨信用金庫国債資金証券部の西村匡弘氏)という厳しい見方をする向きもある。
スウェーデンなどで取引が行われている
ドイツ証券の高橋祥夫ストラテジストによると、スウェーデンやアイルランドなど欧州の国々を中心に、すでに国債の金利スワップ取引が行われている国は少なくない。スウェーデンでは99年末の国債残高に占める想定元本が50%を超えているという。
最初に金利スワップ取引を導入したカナダは利払いコストの軽減のために金利スワップを利用した。
ただ、スワップ市場の需給に大きな影響を与えるほか、憶測によって、相場が政府に対して不利に働く可能性があるため、今では利払いコスト軽減だけのために金利スワップ取引を使う国はほとんどないという。
それに代わって最近は金利スワップを国債の平均残存期間を調整する手段としてスワップを利用する国が増えている。ただし、欧州の残存期間の調整は日本とは反対だ。戦略的に10年債の発行を増やし残存期間が長くなり過ぎるのをスワップを使って調整している。
「池の中のクジラになるつもりはない」
政府によるスワップ取引の市場への影響について、財務省幹部は「あくまで万が一のときのための備えに過ぎない。池の中のクジラになるような取引はしない」として、市場に影響を与えるようなことはないと強調する。
スワップの導入で先行しているフランスやドイツでは、昨年、国債管理機関を設立、マーケット・メカニズムに基づいた国債管理政策を目指している。フランスでは昨年10月に金利スワップを導入してから12月までで85回のディールが行われ、12月末の取引は固定金利の支払いと固定金利の受け取りが同額で行われており、市場に影響を与えにくいポジションになっているという。
同省は、金利の上昇リスクを回避するため、スワップ取引導入の検討のほかにも様々な施策を行っている。既に発行している国債の買入消却による償還年次の平準化もその1つだ。
10年利付国債の償還状況をみると、2002年度から2007年度の償還額は16 ―26兆円前後だが、2008年度の償還額は40兆円と突出している。このため2002 年度以降、2008年度償還の国債を買い入れ償却することにより償還額をならしていく。
また、国債の個人保有を増やすための個人向け国債や国債の元本と利札を分けて取引できるストリップス債の導入も、金融機関の保有が多く、同一方向に動きがちな国債市場を安定させるためだ。
金利の反転は必ず来る
国債発行残高は2003年3月末に約414兆円に達する見込みだ。94年度に 200兆円を超え、その後わずか8年で倍増した。しかし、これだけ大量発行が続いているにもかかわらず、10年物国債の利回りは94年度には単純平均で4.5%程度だったものが、2001年には1.4%以下に低下している。
「こんな高値がずっと続くはずがない。いつか暴落するのではないか」。こんな恐れが、時に強まり、時に薄れながら常に市場に漂っている。
需給懸念によるものか、景気の回復期待によるものかはわからないものの、いつか金利が反転するときは来る。その衝撃を最小限に抑えるため、財務省の手探りの試みは続く。