ブッシュ米大統領が17日から日本、 韓国、中国を訪問する。18日午前の小泉純一郎首相と首脳会談では、テロ防止 に向けた同盟強化の確認、「悪の枢軸」と名指した北朝鮮との関係のほか、経済問題では日本の不良債権やデフレ対策などが議論される見通しだ。月内にデフ レ総合対策を取りまとめる”宿題”を自ら課している小泉首相にとって、大統領 との会談を通じ、その決意と骨格を国際金融市場に向け発信する場ともなる。
モルガン・スタンレー・ディーン・ウイッター証券のロバート・フェルド マン日本首席エコノミストは、「米国にとって現在の最大の国益はテロとの戦い。 それに協力する日本に対して、経済問題では厳しいことは言わない可能性もある」と指摘する。また、米国内には「静かな外交で、建設的にやりたいという意見が多い」と述べ、小泉首相が掲げる構造改革路線をぶち壊すようなことはしないとの見解を示した。
今回のアジア歴訪では、ブッシュ政権の経済チームの主要メンバーである オニール財務長官、リンゼー大統領補佐官(経済担当)、ハバード米大統領経済 諮問委員会(CEA)委員長は同行しない予定だ。このことからも、今回の訪日の主な目的は経済問題ではなく、テロとの戦いやアジアでの安全保障に重きが置かれていることがうかがえる。
天下泰平というわけにはいかない
しかし、フェルドマン氏は、「だからと言って、日本は天下泰平というわけにはいかない」と述べ、経済問題では「デフレの原因をどうとらえるかが重要」 と指摘。その処方箋(せん)として米国は、不良債権問題で困難な状況にある 銀行に対し、「早く国有化するべきだと促すことはあるかもしれない」と予測する。
今週初めの日本のメデイアとの会見で、ハバード委員長は、不良債権処理 とデフレ対策が首脳会談での主要な経済問題だと指摘し、「不良債権問題の解決と金融政策の変更をせずに、輸出主導型で問題を解決できない」と述べている。
「ブッシュ外圧」に不良債権問題の早期解決を期待する一部市場関係者の思惑とは裏腹に、大統領は、個別具体的な要求を避け、小泉首相が表明する改革プログラムを基本的には支持を表明するとみられる。そのため、大統領の発言よりも、むしろ小泉首相が、金融システム安定に向けどれほど踏み込んだ発言がされるかが、注目される格好になる。
こうした状況のなか、小泉首相は14日夕、柳沢伯夫金融問題担当相に対し、 不良債権の抜本処理策の柱として金融機関への特別検査の厳格化と検査結果の 公表検討を指示した。銀行が自己資本不足に陥り金融システム不安が生じた場合には、銀行への公的資金再注入も検討する構えだ。15日夕開催される経済財政諮問会議では、デフレ対策実行のための活発な議論がされ、それをもとに日米首脳会談で表明される。
米国の一番の関心は金融システム不安
米国は、政権発足後9カ月以上過ぎた小泉内閣の構造改革のスピードに不満を持ちつつも、日本経済が持続的な成長軌道を目指す構造改革路線を支持する見通しだ。ただ、米国が特に懸念しているのは、金融機関の不良債権処理が デフレ状況のなか遅れが生じ、国際的な金融システムに動揺が走ることだ。財務省幹部も、一国の経済成長そのものはその国の問題であり、米国の関心は世 界の市場に影響を及ぼしかねない日本の金融システムの安定化だ、と指摘する。
景気底打ちの兆しが見えてきたとはいえ、米国経済は企業の設備投資は弱 く、回復への道筋は決して万全とは言えない。また、米国の株式市場などに流 入していた欧州からの資金フローに逆流の兆しが見えるなか、日本の金融システム不安は日本の海外証券投資などの引き揚げにもつながりかねない。
一方で、景気後退を反映し、米国企業のなかにも、保護主義的な動きもみられる。米ゼネラル・モーターズ(GM)は、ブッシュ大統領に対し日米首脳会 談で、円安誘導しないよう日本政府に提起するよう要請している。
ある官邸関係者は、首脳会談で為替が経済議論に含まれるかもしれない、 と述べている。これに対し、財務省幹部は、その可能性は100%ないと断言する。 為替は先のカナダ・オタワで開催された7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)でも、大きな議論にならなかったように、相互の立場を踏まえあえて問題にしたくないという のが本音のようだ。
日本は北朝鮮問題では玉虫色
日本にとってむしろ悩ましい問題は、ブッシュ米大統領が一般教書演説で、 北朝鮮、イラン、イラクを「悪の枢軸」と非難した発言をめぐる取り扱いだ。 小泉首相は、今週初めの衆院予算委員会で同問題について、「イラン、イラク、北朝鮮とも話し合いの場は閉ざしていない」と述べている。
15日の海外メディアとの会見でも首相は、この発言はブッシュ大統領のテロに対する強い決意の表れ、と同調する姿勢をみせる一方で、韓国や米国と緊密に連携を取りながら北朝鮮との関係正常化に向け、対話を続けたいとの見解 を示した。
大量破壊兵器の不拡散という点については、日米とも認識は一致している が、果たして米国が「悪の枢軸」と名指しした国々と日本が主張する「対話路線」が果たして両立できるのか。日本は米国が期待するアジアでの安全保障の 役割について、難しい選択に直面する可能性がある。