日銀が金融機関に実施する無担保の特別融資(日銀特融)に政府保証をつけるか−。四月のペイオフ(預金の払い戻し保証額を元本一千万円とその利息までとする措置)解禁以降、風評で健全な金融機関が一時的な資金繰り難に陥った場合、特融で支援すべきだという政府に対し、万一特融実施先が破綻(はたん)すれば日銀の信用が損なわれるとして政府保証を求める日銀。両者の交渉は大詰めを迎えている。(辻野訓司)
「日銀の財務の健全性がどうやって守られるか」。速水優日銀総裁は十三日に記者会見で、明言は避けながらも、日銀特融の対象拡大には政府保証が必要条件、との思いをにじませた。
日銀特融は、信用秩序の維持に重大な支障が生じるおそれがあると認められるとき、首相と財務相の要請に応じて実施できると日銀法第三八条で規定されている、金融不安阻止の“伝家の宝刀”だ。
日銀は、特融実施には(1)金融システム全体に波及するリスクが生じるおそれがある(2)資金供与が必要不可欠(3)モラルハザード(倫理の欠如)防止の観点から、関係者の責任明確化が図られる(4)日銀の財務の健全性を維持できる−の四原則を設け、事実上、破綻金融機関の預金払い戻し原資などに対象を限ってきた。
しかし株式市場の低迷などで金融システムが揺らぎ始めているうえ、四月のペイオフ解禁後は、自己資本比率が基準を上回る健全な金融機関が風評などの影響で預金流出に見舞われる恐れがある。その場合も日銀特融を実施して、資金繰りを支援すべきだというのが金融庁などの意見だ。
速水総裁はこの日の会見で、かつて山一証券へ特融を実施したときは閣僚答弁などで事実上の政府保証が付けられたことを強調。そのうえで「日銀の財務の健全性を議論するときに、どういう保証があるかが議論になってくる」と政府保証の必要性に言及した。
戦前の昭和恐慌のとき、日銀特融に政府保証をつけるかどうかで議論が長引き、事態が悪化したと指摘するのはニッセイ基礎研究所の櫨浩一チーフエコノミスト。「日銀特融実施の四原則があっても、政府保証がないと発動しにくい。発動が遅れると経済が混乱するおそれがある。政府は公的保証をつけて発動しやすくすべきだ」と指摘する。
タイムリミットは四月のペイオフ解禁時。金融庁には政府保証をつけると風評をあおりかねないという懸念もある。政府と日銀の駆け引きに残された時間はあまりない。