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「金融危機とデフレ経済を解く(2)」を読み解く 投稿者 あっしら 日時 2002 年 11 月 06 日 17:49:29:

(回答先: 金融危機とデフレ経済を解く(2)【吉田繁治】 投稿者 jimmy 日時 2002 年 11 月 06 日 14:37:32)

jimmyさん、転載ありがとうございます。

良質な経済理論を展開されている吉田繁治氏の「金融危機とデフレ経済を解く(1)」に対して、

『「不良債権」が「デフレ不況」の根源的要因ではない − 50兆円で不良債権を買い取っても「デフレ不況」は解消しない −』
http://www.asyura.com/2002/hasan15/msg/1127.html

というレスを書いたこともあり、(2)についても検討を加えたい。


>■1.わかりやすく書いた債務超過

>「金融危機」は、企業と銀行の債務超過が原因です。<資産の時価評価額−負債の時
>価評価額>がマイナスである債務超過でなければ、不良債権処理は、問題にならない。

>▼補注:債務超過の帰結
>家計で言えば、預金(流動資産)が400万円、株が200万円(有価証券)で、住宅の資
>産(固定資産)が2400万円(時価)なら、総資産は400+200+2400=3000万円です。高
>いときに借りた住宅ローンを含む借金(負債)が4000万円なら、資産3000万円−負債
>4000万円=−1000万円。家計の財政では、自己資本(=純資産)がマイナス1000万円
>の債務超過。

家計“資産”で最大のものは、終身所得が1億円から2億円と言われている“就業者”であろう。
わかりやすく言えば、家計にとっての“就業者”は企業にとっての固定資本である。
年収が500万円なら使用総資本利益率が5%だとすれば、1億円の“資産価値”があるということになる。

正常な営みのなかで家計が債務超過に陥る契機は失業である。
それは、企業で言う倒産であり、“資産”である活動力が経済価値を失ってしまうことである。

不況下でなくとも30代で住宅を購入したほとんどの人はいったん“債務超過”に陥り、その後継続的な所得があることで“債務超過”状態から脱する家計もある。

所得が断たれる失業によって、“債務超過”が現実の問題として噴出するのである。

これは、企業にも言えることであり、事業を止めて清算すれば“債務超過”という企業のほうが圧倒的に多い。

債務は、資産(ストック)の問題ではなく、収支(フロー)の問題である。


>■3.中央銀行の、国民経済でのポジションの比較(2001年度)

>国債を日銀が引き受ける結果、中央銀行のマネー政策が経済に関与する度合いが、
>「異常に」大きくなっているのが日本です。

>           日本銀行  米国FRB 欧州中央銀行
>〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
>バランスシート規模  139兆円   86兆円   95兆円
>名目GDP      500兆円  1342兆円  799兆円
>GDP対比      28%    6%    12%    
>〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
>(『日本銀行の政策・業務とバランスシート』02.07.29日銀企画局)


>何を示すか? 日銀のマネー供給に依存した「上げ底経済」です。

吉田氏も「日本は、97年以降資金不足」だと指摘しているが、年間100兆円にものぼる国債発行がファイナンスできているのは、指摘のように預金の増加ではなく、国債がこれまで金融機関に依存して消化されてきたことをベースに借換債がスムーズに置き換えられ、日銀が商業銀行に供給する通貨・株式売却で得た通貨・“貸し剥がし”で得た通貨などが上乗せ分の国債に向けられているからである。
商業銀行が通貨を必要になれば、日銀が「買いオペ」を潤沢に行うので問題は生じない。

デフレ状況が続いていることから、これを「上げ底経済」と表現するのは的確ではなく、それでもデフレが続く厖大な「デフレギャップ経済」と見るほうがいいだろう。

赤字財政支出による需要拡大を牽引力とする経済運営が「上げ底経済」であることは間違いないが、現状の問題を認識するときにズレを生じさせることになる。


>私の判断は、国債の高金利(=国債価格下落)が起こるまで、つまり、行き着くとこ
>ろまで行くということです。

吉田氏がどう考えているかは別として、「デフレギャップ経済」が「上げ底経済」の露呈で解消されハイパーインフレに転換するということである。


>日銀がGDPの28%(総資本139兆円)のマネーを人工的に供給し、国内経済を
>資金供給(=日銀の電力供給)で139兆円分底上げしてきた結果が、(平均)投下
>資本(=総資本)利益率の低下です。資金は中央銀行が作ることができる。しかし、
>総資本利益率は数字操作では作ることができない。

吉田氏は、この説明の前に、「全企業の総資本利益率(ROA:Return On Asett)で、日本は米国の4分の1、西欧の2分の1」で、「中国と比べるとおそらく10分の1以下です」と書いている。
今年3月の全上場企業の総和が赤字なのだから、日本企業の総資本利益率は極端に低下しているはずである。
しかし、それが、企業の活動力(競争力)によるものなのか、「デフレ不況」というマクロ的要因によるものなのかの違いが重要である。
前者であれば国民生活の切り下げを覚悟しなければ近代的救いはないが、後者であれば、経済政策で切り抜けることができる。

吉田氏は「139兆円分底上げしてきた結果が、(平均)投下資本(=総資本)利益率の低下です」と説明しているが、139兆円は、民間資本形成に投じられたわけではなく、財政支出を通じて需要に回ったのだから、「139兆円分底上げしてきた結果、(平均)投下資本(=総資本)利益率の低下を下支えしている」と分析するほうが正しい。


>90年代に資産価格が下落した理由は、マネーが国際的に自由に動くようになり、総
>資本利益率で「国際比較」が行われるようになったためです。これがグローバル化で
>す。例えれば、今の日本では10億円を投資しても〈平均的には〉米国の4分の1、
>西欧の半分、中国の10分の1の利益しか「期待」できない。
>とすれば、日本への投資が減るのは当然なことになる。投資が減るから地価と株は下
>がる。どこまで下がるか? 10億円の「投下資本利益率の期待値」が、米国・西欧
>・中国と等しくなるレベルが動的均衡点です。

米国・西欧・中国が揃って「投下資本利益率の期待値」を低下させ、投下資本利益率が貸し出し金利を下回る可能性もある。
そうなれば、米国・西欧・中国と等しくなる動的均衡点が「世界同時デフレ」を招来するレベルになることも考えられる。

米国及び西欧の投下資本利益率は急速に低下しており、中国も今後その影響を免れることはできない。


>■5.恐慌とは何か?:失業と賃金低下です

>経済が縮小均衡(=デフレの連鎖)に向かい企業が倒産して失業率が20%を超え、
>以前より低賃金でも就職を希望する人が増えるため、平均賃金が大きく下落する状況
>を「恐慌」と言います。1929年の大恐慌では、米国の失業率は25%でした。恐
>慌が終わるのは、賃金が十分に下落し、下落した賃金で、新しい産業と新興企業が雇
>用し始めるときです。総資本利益率が、実質金利を上回るまで続きます。

「大恐慌」が、ニューディール政策ではなく、第二次世界大戦によって解消されたという現実認識が重要である。

「新しい産業と新興企業が雇用し始めるとき」が、賃金が十分に下落するという経済変動の結果によって生じたわけではなく、戦争という国家総動員体制によって生じたことを見失わないようにしなければ、「構造改革」派と同じ陥穽に落ちてしまう。


>日本ではパート化(=時間当たり賃金の50%下落)という方法で、賃金の低下(賃
>金の構造変化)が進んでいることがわかりますね。実は、このパート化(時間賃金が
>半分)であることが、日本の失業率の急増を救った。西欧のような、賃金の固定性
>(下方硬直性)があったら、失業率は、今2桁を超えていたでしょう。90年代経済
>は、パート、フリーターが救ったと言っていい。

個別企業が過大な負担になった借り入れを返済するために首切りやパートへの移行を進めるのは正しい選択とも言えるが、それが「日本の失業率の急増を救った」わけではない。
パート化は、個別企業の存続を支えたが、マクロ経済を悪化させ、日本の失業率を急増させたのである。
Aの人件費総額が減少すればその企業は楽になるが、その分他の企業は需要を減らすことになり、それらの企業が首切りやパート化などを行うという“負の連鎖”が起きる。
「デフレ不況」であればAのような行動を起こす企業の数が膨らむので、大きな“負の連鎖”となる。

この問題を個別企業が解消することはできないので、国家がマクロ経済政策で取り組むしかない。


>▼近代経済史上初めての現象

>(1)株価は90年以降12年間、
>(1)地価は91年以来11年間、
>(2)消費者物価は、(97年の消費税の5%の影響を除けば)95年以来7年間下
>落していますね。

>株価、地価、物価が、こんな長期にわたりダラダラ下落するのは、世界の近代経済史
>上初めてです。初めての現象だから処方箋は混乱します。原因は2つから構成されます。

>(1)80年代の投機経済の後始末、これは単純なマネー現象です。
>(2)20世紀の工業資本が価値を失って、先進国では21世紀の知識資本へ向かう
>構造変化です。

80年代後半の後始末に関して異論はないが、「20世紀の工業資本が価値を失って、先進国では21世紀の知識資本へ向かう構造変化」という視点は、アルビン・トフラー氏や堺屋太一氏の影響力の結果かどうかはわからないが、物質的充足を得た“現代人”が陥りやすい誤りである。

まず、工業(産業)資本そのものが、厖大な知識が物質化したものによって構成されている。(現代の農業・水産業もそれなりに高度化している)

知識資本とはなんぞやという明示がない。
まさか、銀行・証券・格付け会社・メディア・シンクタンク・官僚機構・IT企業・企画開発会社・デザイン会社・ソフト会社などではないだろう。

ひょっとしてそのような企業群をイメージしているのなら、それらの企業が財の生産活動にどれだけ依存しているかを考えれば、「20世紀の工業資本が価値を失って、先進国では21世紀の知識資本へ向かう構造変化」という捉え方がどれほど危険なものがわかるはずである。(手足腰を外部に依存して頭だけで稼ぐという構造は長続きしない)

日本が知識資本国家として存続できるとしたら、それこそ、それらの企業活動を通じて中国の生産活動の“上がり”をすべて吸い上げるという構造を作り上げたときであろう。

近代合理主義的価値観の行き着く先が知識資本社会なのかもしれないが、人は思考活動のみで生存することはできない。
思考活動を含む人的活動力と働きかけの対象である自然との結合過程から生み出される物が、思考活動の継続をも支えているのである。


>「補正予算を!」との声があります。それは工業経済の固定の機能しか果たさず、数
>年先になれば時間(=富)を失った消耗にしか帰結しません。着地点(goal)への合
>意がないための混乱(chaos:カオス)です。高価なダム、道路、空港、橋を作って
>も工業経済のインフラに過ぎない。だから、無駄になる。

赤字財政支出による景気対策は、これまでの歴史経過と同じように、将来のより苛酷な経済状況を招来することになるので行うべきではない。(限定的なアクセル効果としての利用は容認するが)

そして、工業資本が知識資本になるという観点からではないが、工業資本の量的な拡大は望むことができないと考えているので、工業経済のインフラ整備を主眼とした公共投資拡大も要求しない。

住環境整備・活動力劣化者対策・リサイクルシステム開発・再生可能エネルギー開発などに財政支出を重点的に振り向けるべきである。


>「高付加価値経済」とは土地、資源、エネルギー、肉体労働を節約することです。情
>報作業と知識作業をデジタルプロセスにすることです。

>工業社会では、第三世界の資源とエネルギーを大量に使い、無駄な消耗をしないと、
>先進国経済が成り立たない構造があった。知識資本の社会は「知識」によって、資源
>とエネルギー消費を減らし、資源とエネルギーの効率的な利用があるから生活が豊か
>になる社会です。これが、価値観の転覆であり産業の枠組みの変更です。

この考えには同意する。
しかし、これは脱工業化というものではなく、農業を含む産業技術の高度化である。

そして、このような価値観の転覆と産業の枠組みの変更は、「近代経済システム」を乗り越えなければ実現されないものである。


>■7.(工業社会の枠組みでの)デフレの問題

>デフレが問題になるのは、

>(1)土地・株を含む資産評価と商品価格は下がるが、負債(=借金)は借りたとき
>の金額(=名目額)で固定されるため、

>(2)新規投資が起こりにくくなって、

>(3)プラスの資金需要が減り、資金需要は赤字補填になり、

>(4)経済の全体が、縮小に向かうことです。
>  (注)経済を拡大するのは、投資以外にはありません。

デフレの問題をきちんとまとめていると思う。

とくに、「(注)経済を拡大するのは、投資以外にはありません」というのは、持論である「供給=需要」に通じるものであり、デフレでは投資=供給が行われ難くなるという認識はポイントである。

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