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☆日本経済の「ゆでカエル化」ってオモシロイが、この人には対案が無いのかね。
立教大学 教授 斎藤 精一郎氏)
最終更新日時: 2002/10/18
小泉改造内閣が発足し、柳沢伯夫金融担当大臣が更迭され、竹中平蔵経済財政担当大臣が金融担当相を兼任することになった。竹中大臣の金融行政についての発言や、不良債権処理に関わるプロジェクト・チーム(PT)の設置などを受けて、株式市場は「竹中ショック」に見舞われ、バブル崩壊後さらに19年ぶりの最安値更新を続けた。竹中大臣は「不良債権処理が遅々として進まないといって株価は下がっていたのに、今度は不良債権処理が進捗するとなって株は下がっている。市場は当てにはできない」と不満を口にしていたが、「竹中ショック」とは何か。そして、日本経済は小泉改造政権下で、一体どうなっていくのか。
まずはじめに確認しておかねばならないことがある。不良債権の最終処理を構造改革のいわば大前提として最優先に取り組むとしたのは小泉内閣の基本方針だということだ。昨年6月の「骨太の方針」ではっきりと「不良債権の最終処理を2〜3年の集中調整期間で実施する」と明記してある。だが、柳沢金融庁は「不良債権処理は着実に進行している」と繰り返し、この「骨太の方針」を事実上、ビナインネグレクト(慇懃なる無視)を続けてきた。この意味で柳沢氏の更迭は遅きに失したとはいえ、小泉首相としては正しい決断と評価せねばならない。問題は竹中大臣の兼任とその基本的政策スタンスだ。
兼任問題は後述するとして、最大の問題は政策スタンスの「危うさ」である。不良債権処理に関わる「竹中三原則」は(1)銀行の資産査定の厳格化、(2)銀行の自己資本の充実、(3)銀行の経営ガバナンスの確立だが、これらはいずれも妥当だし、有効な指針だ。
しかし、この原則のもとで不良債権処理を2004年度までに断行するとの竹中政策は経済学的論理からいっても政治経済学的文脈からいっても明らかに問題がある。もっとも、不良債権の抜本処理を「景気回復後にやるべし」との巷間、耳目に入りやすい主張は「俗論の域」を出るものではないし、この10年間に誤りであることが証明されているから、不良債権処理を最優先する、「骨太の方針」や竹中政策は方向性は正しい。だが、政策とは整合性が不可欠であり、真理とは必要条件とともに十分条件が備わっていなければならない。竹中政策は日本経済再生やデフレ脱却にとって「必要条件」を提示はしているが、「十分条件」は示されていない。気流が乱れ、黒雲が広がるなかでは日本経済はダッチロールに巻き込まれかねない。米国経済をはじめ、欧州経済のデフレ化という乱気流が起こりかねない状況では「竹中政策」は日本経済をさらなるデフレに追い込むのは必至であり、1930年の「井上デフレ」の二の舞ならぬ「竹中デフレ」を引き起こしかねない。
竹中政策の基本的問題点は金融庁の新設PTや日銀のスタンスに象徴される「BS派(バランスシート派)」に論理的準拠をおいていることだ。端的にいえば、銀行の貸借対照表を公的資金の注入を考慮して、健全化しさえすれば、日本経済のデフレ脱却が可能との基本的な分析と認識に立っている。不良債権が日本経済のデフレーション構造にいかに関わっているかの論理的な分析がなく、ただ、銀行の資産面での悪化(竹中原則の(1))や自己資本不足(竹中原則の(2))そして銀行経営の規律喪失(竹中原則の(3))がデフレの根因とされていることだ。
これは「頭隠して尻隠さず」の愚に譬えることが可能である。不良債権という銀行のバランスシートの棄損を処理することとは「頭隠す」に相当する。だが、不良債権とは企業のなかに銀行からの借金を返せないところが多く存在しているということを意味する。だから、こうした問題企業の存在を看過することは「尻隠さず」なのだ。「尻」に相当する企業や産業部門の淘汰・整理・再編を銀行健全化と同様なレベルでいかに行うかが問われているのにそれが欠落している。
この「尻」に相当する産業部門の健全化・正常化の根本策を提示すべきなのが実は経済財政諮問会議なのだが、これが金融部門の健全化と「兼任」となっていることこそ、政府の意志決定機構のガバナンスの欠落を如実に示している。金融行政と経済財政行政のチェック・アンド・バランス(相互牽制作用)が「兼任」で曖昧化せざるをえないからだ。「竹中原則」が銀行部門にガバナンスを要請することは「人の振り見てわが身を正せ」からすれば、笑止千万だ。
とにかく、世界不況の影が濃くなってくる今秋から来年にかけて、日本の景気下降と相俟って株式市場をさらなる混迷に追い込んでいこう。「竹中デフレ」が現実化してこざるをえないのではないのか。むろん、世間のデフレ恐怖感が高まってくるから、政府・与党もデフレ化をもたらす「竹中政策」の修正に早晩動くはずだ。またまたまたの、お馴染みの小出しの、ちゃっちい財政・税制の弥縫措置の総動員だ。2兆円や3兆円、最大で5兆円のデフレ対策という「目くらまし策」だ。すでに、政府は7項目のデフレ対策といって、先行減税、日銀の一層の金融緩和、証券・土地税制、雇用対策、中小企業金融、企業再生、経済特区などよくいっても総花的は小手先施策、悪くいえば「性懲りのない駄策」の列挙を俎上にのせている。
これら小手先デフレ策では精々、株価の一時的な落下を食い止めるだけの効果しかなく、来年始めにはさらなる追加デフレ策の登場になろう。総合デフレ対策とやや大掛かりの補正予算になるのは確実で、むろん30兆円枠は突破され、日銀も「インフレ目標」を強要されることになろう。そして、不良債権処理に「手心」が加えられ始める。
またまたまたの、「先送り策」への逆戻りだ。だが、この「逆流化」でデフレ圧力は軽減され、銀行も企業も国民もホッと安堵の感を味わうはずだ。これはこの10年間の「着実に不良債権の処理は進捗し、景気も底入れから回復に向かうはずだ」との大本営発表のシナリオにそって今後とも日本経済が動いて行くことを意味しよう。これは日本経済の「ゆでカエル化」であり、「静かで長期的な衰退化」という日本病に気づかぬままに陥っていくことだ。