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(回答先: 「よき時代」の終焉 投稿者 日時 2002 年 10 月 07 日 11:08:35)
続きです。
巨額の不良債権知りつつテクニック弄する
長銀と関連ノンバンクは、バブル期に不動産関連会社等への融資を増大させたため、バブル崩壊とともに多額の不良債権を抱え込むに至った。その後も不良債権の抜本的処理を図ることなく、赤字決算を回避する目的で受皿会社を設立して「不良債権飛ばし」をするなどして不良債権処理の先送りを続けてきた結果、大野木氏が頭取に就任した平成7年4月ころには不良債権額が巨額に上っていたとみられる。
例えば、同年7月10日に開催された常務会において報告された長銀の関連会社27社の不良債権額は合計で1兆4334億円に及んでおり、長銀リース等の関連ノンバンク6社の不良債権だけでも9905億1700万円もあって、処理しなければならない不良債権額が8908億円にも上っていた。このとき、大野木氏が「9000億円の処理をすぐにはできない」旨の発言をした記録が証拠として残っている。
また、平成8年4月に大蔵省による金融検査が実施される直前に開催された会議の資料には、「査定後(最悪ケース)」の場合には即刻償却しなければならない不良債権額(以下、W分類)が1兆1256億円と示されていた。
さらに、MOF検での検査結果を受けて事業推進部担当者が作成し、経営陣に説明した「今後の不良資産処理について」と題する資料の中にも、関連ノンバンク7社について「実態ベース(現時点において当行として本音ベースで自己査定した場合の分類数字)」の数値として、W分類が1兆608億円と記載されていた。
また、97年度から99年度までの3ヵ年の中期計画が策定される直前の平成9年2月の会議の席でも、7000億円から1兆円あると見られていた。さらに、同年12月の会議における社員向けの不良債権処理方針でも、「関連親密先の損失を完全に一掃するには1兆円規模の手当が必要で、当面はこれを一掃出来ないので抱えていかざるを得ない」との説明が行われていた。
要するに大野木氏らは、少なくとも1兆円前後の処理を要する不良債権があることを十分認識しながら、意図的にその会計処理を怠ったのだ。その事実を否定することは難しい。
ちなみに、平成9年4月下旬から5月上旬にかけて、長銀経営者に説明した「早期是正措置への対応と今後の不良債権処理について―不良債権処理3ヵ年計画―」という資料には、自己査定に関して「関連・親密先については、日本リースの扱い等無理をしているところがあり、会計士から相当意見が出てくる可能性がある」と記してあったという。また、償却・引当に関しても、「関連・親密先については引当率の考え方について会計士と相当議論になることは必至」と指摘していた。
巨額の不良債権があることを知りながら、償却・引当を避けるために、諸種のテクニックを弄してきたことが白日の下に晒されたわけだ。
前回のコラムで、箭内昇氏の「メガバンクの誤算」(中公新書)を紹介し、『大手銀行の財務担当者間では……水面下で陰湿な「不良債権隠し競争」が展開した』中で、『実質的に破たんした取引先に対して償還期限延長の変更契約を結んで金利だけを支払わせた』り、『資金繰りが行き詰まった企業に追加資金を融資して元利金を支払わせた』ことを示しておいたが、その事実が裁判でも立証されてしまったのである。
川口裁判長は、明らかになった事実をとりまとめて、この事件の本質を次のように説明している。じつは、ここで触れられている点は他の邦銀にも当てはまる不良債権問題の核心である。
「本件は、……早期是正措置制度が導入されるに当たり、……適切な自己査定を行い、不良債権について適切かつ妥当な償却・引当を実施した上で、客観的かつ正確な財務諸表を作成されることが期待され、かつ、義務付けられていた時期において、長銀の頭取……らが、……多額の不良資産を生じさせてしまった関連ノンバンク等を多数抱えている事実を隠蔽し、長銀に対する早期是正措置の発動を回避する意図から、……資産査定通達……の許容する範囲を逸脱した自己査定基準を策定して不良資産額を過少に積算した上、貸借対照表や損益計算書等の財務諸表及び利益処分計算書に過少な当期期処理損失を計上した有価証券報告書を作成……するとともに、株主に配当すべき剰余金が存在しないのに違法に株主に多額の配当を実施したという事案であって、その粉飾額は3100億円余りで違法配当額も71億円余りと多額に上っている」
健全銀行の仮面かぶり国民をあざむく
もっとも、川口裁判長の指弾は長銀ひとりに向かっているわけではない。重要な部分なので引用しておこう。
「被告人大野木が代表取締役頭取に就任した時には、既に巨額の不良債権を抱え込んでしまっていて、その処理は容易な状況にはなかったと言える。そのような状況の中で被告人らは、何とか住専処理を実行したものの、その後は、株式市況の低迷で不良債権処理の財源となる有価証券の含み益が減少する一方で、早期是正措置制度の導入に当たってBIS比率を確保し、かつ、長銀に対する市場の信頼を繋ぎとめる手段としての配当を続けるという苦渋の選択をせざるを得なかった側面があることも否定できない。その意味では、長銀の厳しい財務状況の中でその経営陣の中核となり、極めて困難な舵取りを委ねられた被告人らの立場には同情すべき余地があり、被告人らだけを非難することは失当と言える」
この部分は、不作為の罪を重ねて、病状を悪化させ続けている金融当局者に心して読んでいただきたい箇所だ。わが国の金融当局は、業界ぐるみで罪を犯しているのだ。その点については、箭内氏も指摘していた。前回のコラムでも紹介したが、改めて読み返しておきたい。
箭内氏は、「メガバンクの誤算」において、『金融当局は、不良債権の実態を把握し、地価がさらに下落して銀行の経営がますます圧迫されるのを十分に予見しながらも、余力のある銀行に銀行界全体の損失を割り振るという奉加帳スタイルの処理策を強行して銀行界全体の体力をそいでいった』と記述し、『銀行サイドも不良債権問題の深刻さを認識し、抜本的処理に着手しなければ危機を迎えることを予見しながら、業界内のカルテルを強化することによって展望のない逃げ込みをはかった』と断じた。そして、『不良債権問題は国家ぐるみの先送り構造に陥っていった』と慨嘆している。
『長銀が破綻し、その不良債権の実態や「飛ばし」についての詳細が報道されるにつれ、ほとんどの大銀行経営者は規模の差こそあれ、自分の銀行が長銀の相似形であることを明確に認識したはずだ。しかし、大手銀行はいまだに合法的な飛ばしを続けている』と箭内氏は証言する。『当局は行政面で何らの軌道修正することもなく「健全路線」を強引に突っ走って、業界全体を危機に陥れた。大手銀行はもっと悪質だ。不良債権の実態を完全に把握し、公的資金導入が不可欠であることを十分認識しながら「健全銀行」の仮面をかぶって国民をあざむいた』という箭内氏による告発の真否が裁判によって明らかにされるのはいつなのだろう。