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(回答先: 「よき時代」の終焉 投稿者 日時 2002 年 10 月 07 日 11:08:35)
最近はなにかと有名になった木村剛氏のコラムです。
金融問題を論じる多くのエコノミストたちに是非とも読んでいただきたい文章がある。
当たり前の基本知識を理解しないエコノミストたち
「証券取引法が、……会社の概況や経理の状況等その事業内容に関する重要な事項を掲載した有価証券報告書等の……開示を求めている趣旨は、現代社会における企業の資金調達手段として重要な機能を担い、かつ、その経済活動の基盤となっている証券市場において、投資家が、その自主的な判断と自己責任に基づき安心して有価証券の売買を行うことができるようにするためには、投資等の判断等をするに当たって必要不可欠な上場会社の財務内容等に関して客観的でかつ正確な情報の提供を受ける必要があることに基づくものであり、上場会社によってその財務内容の重要な事項に虚偽の情報が混入させられることは、多くの投資家の判断を誤らせて経済的損失を被らせるだけでなく、証券市場に対する投資家の信頼を失わせ、ひいては我が国の経済にも重大な悪影響を与えかねない」
どうだろう。金融論の初級教科書を読まされているという感じだろうか。それとも、「そんなことは当り前だ」という反応だろうか。
この文章の出自を答える前に、もう一つ、次の文章を読んでもらいたい。
「商法において、利益の配当をするに当たって一定の配当可能利益の存在を要求している趣旨は、株式会社に対する債権を有する債権者にとっては、会社が保有している財産が唯一の担保であるため、安易な資本の流出を防止することによって債権者の利益を保護する必要性が高いことに基づく」
これまた商法の教科書から引用したような印象を与えてしまうかもしれない。しかし、商法を学んだ者であれば当り前のこの基本知識を理解しているエコノミストは驚くほど少ない。
じつは、この2つの文章、どちらとも出自は同じである。
日本長期信用銀行の粉飾決算事件に関して、元頭取の大野木克信らは証券取引法違反と商法違反の罪に問われてきた。そして9月10日、東京地裁は、大野木被告に懲役3年、執行猶予4年を言い渡した。2つの文章は、そのときの判決文から引用したものだ。
川口宰護裁判長は、「証券市場に対する投資家の信頼を裏切り失墜させたことは明らかである」と断じ、「巨額の違法配当を実施し会社財産を流出させたことは、会社財産及び債権者らの利益を危うくした誠に重大かつ悪質な犯行といわざるを得ない」と判示した。
川口裁判長はこう解説している。
「金融機関においては、一般企業以上に公共性が強く、企業経済活動をはじめとする国民経済の基礎となる重要な役割を担っていることからして、より高度な企業倫理が要請されることに加え、本件当時は、バブル崩壊に伴う景気の減退が続き、その原因が金融機関における多額の不良債権処理の遅れにあると指摘され、その早期処理が喫緊の課題とされていた時期に当たり、それまでの裁量的な行政指導による金融行政から透明性の高い客観的な基準に基づく行政処分による金融行政に転換するに当たって、金融機関の自己責任が強調され、それまで以上に自己責任の強化が求められていた中で、主要金融機関の一角を占め、長期信用銀行として国民の信頼を得ていた長銀の経営者であった被告人らが巨額の不良債権の隠蔽を図ったことは、誠に悪質な犯行と言わざるを得ない」
どうだろう。粉飾決算は立派な犯罪なのだ。わが国のエコノミストは、この点に関する理解が決定的に欠けている。エンロンやワールドコムの粉飾決算を責めるのに、長銀に代表される邦銀の粉飾決算については口を拭っている。極めて場当たりで無責任な評論だ。
資産査定通達違反は粉飾決算
いずれにしても、この判決文を冷静な気持ちで読める銀行頭取はそうおるまい。もっとも、ひょっとすると、「世の中の仕組みを知らない裁判所が暴走しおって……」くらいの受け止め方をしていらっしゃるのかもしれない。
非常に重要な判決なので、その内容を吟味しておこう。争点は、粉飾決算か否かという点に尽きる。
となれば重要なのは会計である。財務諸表の会計処理基準については、商法の規定が適用される。そして金銭債権の評価に関し、商法285条の4第2項は「金銭債権に付取立不能の虞あるときは取立つること能はざる見込額を控除することを要す」と定めている。
そして、いかなる場合が同条項にいう「取立不能の虞あるとき」に当たるのか、また、「取立つること能はざる見込額」をどのように算定するのかについては、商法第32条2項の「商業帳簿の作成に関する規定の解釈に付いては公正なる会計慣行を斟酌すべし」との規定に従うことになる。
この「公正なる会計慣行」に当たるものとして、企業会計原則・同注解が挙げられるが、同様に、金融当局が示している決算経理基準も、「公正なる会計慣行」に当たると解せられる。
さて、平成10年4月から金融機関の健全性確保のために早期是正措置制度が導入され、金融行政当局が、各金融機関の自己資本比率に応じて業務改善計画の提出等の是正措置を発動することになった。これに伴い、自己資本比率算出の前提として、大蔵省大臣官房金融検査部から資産査定通達が発出され、同年3月期末決算から、これらの基準と整合性を有する適正な自己査定基準を策定した上で自ら資産査定を行い、不良債権を含む貸出金等を回収可能性に応じて分類し、その結果に基づいて従来にも増して適切な償却・引当を行うことが求められた。
この資産査定通達は、貸出金等の回収不能見込み等を判断する上で合理的な基準であり、当時これに代わる合理的な基準は存在しなかった。したがって、この通達は「公正なる会計慣行」に相当し、これらの基準に違反する会計処理に基づいて貸借対照表等を作成することは、有価証券報告書上の財務諸表の作成方法に係る規範違反となる。要するに粉飾決算とみなされるわけだ。
早期是正措置制度は、不良債権を早期に処理し、バブル経済の崩壊で低下したわが国の金融システムの機能回復を図るとともに、市場規律に立脚した透明性の高い金融システムを構築することにより、その安定化、健全化を成し遂げるために導入された制度である。その背景に鑑みれば、この早期是正措置制度を有効に機能させるために策定された資産査定通達等の趣旨に反する会計処理は許されるはずがない。
そういう状況下、長銀は、関連親密先は一般先と異なるとして、「経営支援先」「経営支援実績先」「関連ノンバンク」という債務者区分を設けた上、これらの関連親密先は、長銀が支援を続ける限り、経営破綻に陥る可能性は極めて小さいからという理由で、非常に甘い査定を適用していた。それが問題視されたのだ。具体的には、第一ファイナンス、エヌイーディー、日本リース、ビルプロ有楽エンタープライズなどが挙げられ、その内容の杜撰さが詳細に立証されている。