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2002年9月9日
スタンダード&プアーズはこのたび、日本の大手相互生保7社と主要銀行7グループ間における資本持ち合いの状況について幅広い調査を行なった。その結果、2002年3月末時点で、大手生保は主要銀行グループから約1.8兆円の資本提供を受ける一方、主要銀行グループの普通株式・優先株式・優先証券を約1.9兆円(普通株式は3月末時価ベース)保有し、劣後ローン・劣後債を約3.5兆円提供していることが判明した。このことは、日本の大手生保・銀行が、現在の資本水準を維持するため、互いの資本提供に大きく依存しており、いわゆるダブルギアリングの状態にあることを示している。
さらに、資本のダブルギアリングの相手先は、昨今の金融業界再編を反映し、特定の親密生保・銀行に偏る傾向が見られ、エクスポージャーに極めて高い集中リスクが生じている機関もあるなど、日本の金融業界におけるシステミック・リスクの高まりを助長している。実際、いくつかの大手生保では、特定の親密先銀行へのエクスポージャーが、修正自己資本の半分を大幅に超過するケースもみられた。このような単一銀行に対する過度のエクスポージャーは、極めて高い集中リスクを投資家たる生保にもたらしている。このような場合、ダブルギアリングによって親密先銀行から生保が調達した資本の実質的価値は、その見返りとして当該銀行へ提供した資本(生保にとっては投資)に対する資産リスク・集中リスクの増大によって、相当程度減じられる。
スタンダード&プアーズは、資本のダブルギアリングがもたらす集中リスクによって、いくつかの金融機関では、既に圧迫されていた自己資本と財務の柔軟性のさらなる弱体化が進んでいると考えている。長引く景気低迷と厳しい事業環境の中、ダブルギアリングによるさらなる資本調達の実質的効果が既に限界的水準に近づいている、体力の弱まった金融機関間においてシステミック・リスクが高まっている。
ダブルギアリング資本への高い依存
大手相互生保の自己資本は、従来その多くを株式含み益に依存するなど、その質は元々脆弱なものであったが、バブルが崩壊した1990年代初頭以降、常に大幅な圧迫を受けてきた。こうした自己資本への圧迫は、国内株式市場の下落、超低金利下における逆鞘、保険営業成績の低迷などによってもたらされてきた。相互会社ゆえに資本市場からの自己資本調達に制約のある大手生保各社は、必然的に主要銀行グループに自己資本の提供を恒常的に仰ぐことで、自己資本の一方的低下を防いできた。直近の例でみても、三井生命が2002年3月に三井住友銀行を中心とする三井グループ企業から基金1,000億円を調達したほか、朝日生命も同時期に、既存の劣後ローンからの振替ではあるが、実質純資産を増加させるために、旧第一勧業銀行(現みずほフィナンシャル・グループ)、大和銀行、あさひ銀行の3行から基金1,500億円を調達している。
一方、主要銀行グループも、不良債権コストや持ち合い株式の損失増大などにより悪化した自己資本を支えるため、大手生保各社を常に資本のメイン調達先として頼ってきた。このような相互依存関係は、大手生保、主要銀行グループの中でも、財務力が見劣りする機関において特に顕著な傾向として現れている。
ダブルギアリング資本に対する評価
ダブルギアリングによって調達された自己資本は、その見返りとして相手側に提供した自己資本(投資)に対する資産リスクを反映することによってその実質的価値を評価する。そのため、特に財務力の悪化している金融機関間で相互資本調達が行なわれた場合、調達した自己資本の実質的価値は、資産リスクの大幅増大によって相当程度減じられることとなる。また、このような場合、資本調達の甲斐なくどちらか片方が破綻に陥った場合、残りの一方も投資損失を被ることとなり、その影響で連鎖破綻を余儀なくされる場合もあり得る。
資産リスク
生保会社がダブルギアリングによって銀行から調達した自己資本の実質的効果を評価するに際しては、相手側である銀行に提供した自己資本(生保にとっては投資)に対する資産リスクを反映する必要がある。例えば、銀行株式の保有は、2001年度決算において当該大手生保各社が計上した約2.2兆円に及ぶ有価証券評価関連損失の少なからぬ部分を銀行株式が占めていたことからも明らかなように、大手生保各社を多大な価格変動リスクに晒してきた。また、最近の不安定な株式市場は、大手生保各社が再び銀行株を中心とした株式損失の計上を余儀なくされる可能性が高まっていることを示している。一方、銀行向けの劣後ローン・劣後債についても、本邦銀行の信用力が日に日に悪化していくにつれ、その弁済時における劣後性も相まって、大手生保各社が抱える資産リスクはより深刻化の傾向にある。加えて、仮に主要銀行グループが破綻に追い込まれた際に、大手生保が当該銀行に拠出した劣後債務まで、国が果たして保護するか否かについては、大きな不確実性があると考えている。
集中リスク
特定の銀行に対するエクスポージャーが、生保の修正自己資本の一定割合を超過するような場合、その銀行に対するエクスポージャーには上述したリスクの他に特定銀行に対する集中リスクがあると考えられる。こうした特定銀行向け集中リスクは、エクスポージャーが修正自己資本に占める割合が多ければ多いほど、高いと判断される(下図参照)。
集中リスクは、特定銀行レベルだけではなく、全銀行レベルでも評価・分析の対象となる。これは、生保・銀行がともに典型的な規制業種であり、それぞれの業界が抱えるリスク・問題にはかなりの共通点が見られるからである。それらには、現在および将来にわたる国内株式市場の変動によるリスクや、不動産市場(生保の場合は投資、銀行の場合は担保として)の変動によるリスク、さらには共に大量なエクスポージャーを抱える日本国債の将来の価格下落リスクが含まれる。これまでのところ、生保の銀行向けエクスポージャーに伴う集中リスクが、銀行の生保向けエクスポージャーに伴う集中リスクを全般的に大幅に上回っているが、幾つかの主要銀行グループの中には、大手生保各社に拠出した基金・劣後ローンの合計額が、Tier1自己資本の20%前後に及ぶケースも見られる。
スタンダード&プアーズは、ダブルギアリング資本によってもたらされている過度の集中リスクは、日本の金融機関(特に大手生保各社)の弱まった自己資本と財務の柔軟性を、調達した自己資本の有効性低下を通じて、さらに弱めることになると考えている。また、こうした集中リスクは、資本調達ソースの多様化が比較的困難な日本の金融機関にとって、システミック・リスクを助長することとなろう。スタンダード&プアーズは、既に非常に高い集中リスクを負っている幾つかの大手生保会社については、ダブルギアリングの形態でさらなる自己資本を将来調達しても、自己資本の強化にならないばかりか、むしろ集中リスクなど資産リスクを増加させるだけとなる場合もある、と考えている。
銀行への影響
一方、スタンダード&プアーズは、ダブルギアリング資本の影響で本邦銀行の格付けを見直す必要は現時点ではないと考えている。各銀行の資産健全性の評価に、各生保会社へのエクスポージャーに対する与信リスクは既に反映済みであり、特定生保への集中リスクも深刻な懸念材料となりつつあるが、生保会社の抱える集中リスクに比較すればまだ比較的小さいからである。また、銀行の自己資本の評価にあたっては、劣後ローン・劣後債は除外しており、優先株も一定の上限を設けて資本としてカウントしている。その結果、生保会社が銀行に現在提供している劣後ローン、優先株などのハイブリッド資本は、銀行の自己資本に対するスタンダード&プアーズの評価をそもそも大きく引き上げてはいない。
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