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(回答先: 黒字絶望10高速道〜民営化委試算〔東京新聞〕 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 8 月 11 日 15:19:25)
6月29日朝、日本経済新聞の一面をめくると「バランスシート出せ」という見出しが目に飛び込んできた。「道路関係四公団民営化推進委員会」での会合で、猪瀬直樹氏やJR東日本の松田昌士氏らが道路公団の経営資料の開示を求めたものである。しかし、出てきた資料では全く足りず、「民間企業と同じ基準で作ったバランスシート(貸借対照表)を出してほしい」という要望につながったというのである。
見出しどおりに受け取ると、四公団はバランスシートを作っていないようにも受け取れる。しかし、実際は各ホームページを覗いていただければわかるように、四公団ともバランスシートを作成し公表している。
では、何が問題かというと「民間企業と同じ基準」によって作成されてない点であろう。ところが、各公団のホームページでは「一般に公正妥当と認められている企業会計基準に準じた会計処理」を行っていると記述している。ただし、経理処理の特徴として、減価償却を実施せず※償還準備金積立方式の採用をあげている。その理由としては、民間企業の事業と公団事業の本質的性格の相異だと説明している。
※償還準備金積立方式とは、減価償却や除却は行わず、毎年の収支差額(民間で言う利益)を償還準備金として負債の部に積み立てておき、建設のための借入金の返済(償還)に当てるというものである。計画どおりに需要や収支が推移すれば、準備金が積み立てられ借入金の返済に当てられる。
ということは、推進委員会はこの償還準備金積立方式を否定していることになる。この方式の是非についての議論はここではしないが、少なくとも民間企業が採用する減価償却計算をすれば「民間企業と同じ基準」で作成しているといえるのであろうか。日本の多くの地方公共団体が作成するバランスシートは減価償却計算を採用している。では、地方公共団体のバランスシートは「民間企業と同じ基準」で作成されているといえるのであろうか。
推進委員会メンバーがどう判断するのかはわからないが、筆者は「否」と考える。多くの地方自治体のバランスシートは過年度の行政目的別の決算合計額に対して減価償却計算しているのである。つまり、ある年度の総務費が10億円であれば、これを耐用年数で割って残存年数分をバランスシートに計上する。
とにかく資産の合計を見たいという意識レベルでバランスシートを作るのであれば、第一段階のバランスシートとしての作成目的は達成できるかもしれない。
一方、民間企業の場合は、個々の資産を登録・管理している固定資産台帳の資産合計額とバランスシートの資産合計額が一致しなければならない。つまり、バランスシート上の固定資産額は資産台帳に登録されている一つ一つの資産にまで分解することが可能な仕組みになっているのである。固定資産に関していえば、少なくともこのレベルで作成しなければ、「民間企業と同じ基準」で作成しているとは言えないのではないか。
そして、このような基準で作成するからこそ、例えば「バランスシートの資産を圧縮し財務体質を改善する」というマネジメント命題に対し、資産台帳から遊休資産を捜し出し処分したり、所有資産による運用をリースや賃貸に変更したりすることが、バランスシートにどれだけ影響するのか的確に把握することができる。また、実際に投資した設備とそれから生み出された収益を比較して投資対効果分析を行うことも可能となり、効果が低ければ資産の有効活用策を講じることにもつながる。
ところが、現在地方公共団体の多くが採用する作成方法は、個々の資産とバランスシートの資産がつながってないため、例えば実務担当者がいくらがんばって遊休資産を処分したとしてもバランスシートへの影響はゼロとなってしまう。
このような視点で比較すれば、先の償還準備金積立方式だろうと地方自治体方式の減価償却計算だろうと、いずれも資産の管理に使えない点では大差ない。
穿った見方をすれば、推進委員会にとっていずれの方式がよいかどうかとか、バランスシートが民間企業と同じ基準かどうかとか、もっと言えばバランスシートを作っているかどうか等どうでもよいことであり、「個々の資産管理までできるマネジメント体制を整えていますか?」ということを問いただしたかったのだと思う。マネジメント体制の象徴の1つがバランスシートであり、民間企業だったらこれは最低限の経営インフラ基盤である。
地方自治体でバランスシートを作ってはみたが、役に立たないという声を聞くことがある。そもそもマネジメントに利用する目的で作ってないものは、マネジメントに使えなくて当たり前ではないか。ましてや、バランスシートは、作りさえすれば経営が効率化するという万能薬であるはずもない。もしそうであれば、民間企業はどこもつぶれないことになる・・・
ここでは固定資産にしか言及しなかったが、他の科目、流動資産や負債などについても、公団が企業会計基準に準じているとは記載しているものの、具体的にどれぐらいマネジメントに活用できるものなのかはわからない。
民間企業の経営理念や経営ツールを行政機関のマネジメントにも導入しようというNPM(New Public Management)の流れがある。この流れの中で、民間企業がバランスシートを利用して経営の効率化を図っているノウハウがあるのであれば、過去からの資産・負債と将来への資産・負債を効率的にマネジメントするために、パブリックセクターとしての「バランスシート」を確立しこれを活用してはどうだろうか。