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http://www.mainichi.co.jp/life/family/syuppan/economist/0208/13.html
日米連鎖不況が始まった
第1部 V字回復の危機
米国は「失われた10年」に突入し、日本は「失われた20年」が始まる
海外からの資金流入に依存する米国経済の減速は、もはや自明のものとなった。ドル安・株安は日本の製造業、金融機関を直撃し、いよいよ日米同時不況が現実のものとなる。
斎藤 精一郎(立教大学社会学部教授)
政府は今年5月に景気底入れを宣言したが、日本経済はいま、薄氷を踏んでいる状態にある。うまく渡れば向こう側(自律的な景気回復軌道)にたどり着くことができるが、下手をすると底割れする可能性を持っている。マクドナルドのハンバーガー再値下げ(80円から59円)に象徴されるように、個人消費は依然として弱い。にもかかわらず、小泉政権は来年度からの医療費の自己負担増(2割から3割)や配偶者特別控除の見直し、外形課税の導入などを予定している。消費が低迷しているいま、国民負担増につながる税制改正などを行った場合―例えば―消費税率引き上げや特別減税打ち切り、医療費の自己負担増で個人消費が萎縮する。そうなると、拓銀や山一証券が破綻に追い込まれた1997年の橋本政権の二の舞いになってしまうだろう。
国内要因とは別に、米国発のドル安・株安という外から飛んでくる石で薄氷が割れるおそれも強い。ドル安による円高は、輸出主導で経済回復を図るという製造業の回復シナリオを破綻に追い込む。日経平均が米株価の「変調」で、もし9000円台を割った場合、9月の中間決算、あるいは来年3月の本決算が大荒れになり、金融危機や生保危機が再燃するのは必至だ。
21世紀世界モデルの崩壊
90年代に米国が提示した「ニューエコノミー・モデル」とは、IT革命と株主重視(株価至上主義)をベースとするコーポレート・ガバナンス(企業統治)を二本柱としている。この新しいモデルが21世紀をリードすると見られていた。しかし、エンロンやワールドコムの不正会計にみられるように、企業ぐるみでの株価至上主義が、株の下落につながる債務や損失を隠蔽しようとする作用が働くことが明らかになった。もう一つの柱であるIT革命も、過剰な設備投資に裏付けられた成長によるものが多く、90年代の過剰投資の調整もこれからようやく本格化する。
米国主導のグローバリゼーションに対する反発も強まっている。最初の動きが99年11月のシアトルWTO(世界貿易機関)会議における街頭暴動、最近では01年6月のジェノバ・サミットの大暴動、そして9・11テロだ。
グローバリゼーションは国境を越えた資本移動、貿易、移民を特徴とするが、大量の資本移動は97年のアジア危機や98年の米ヘッジファンド危機など、国際的な通貨危機を引き起こす危険性をはらんでいる。世界の工場、中国の台頭に代表されるように、新興市場、途上国間にも経済格差による不公平感を生む。つまり、米国主導のグローバリゼーションは「北対南」、「アメリカニズム対他の諸国」という対立軸を内在化しており、これがいま反米、嫌米的、民族主義的イデオロギーを伴いながら、見直しや再検討を迫っているのだ。
国際金融体制の脆弱性という構造的な問題もある。米国は恒常的な経常赤字国であり、世界最大の債務国にもかかわらず、その国の通貨が世界通貨になっている。そこに一つの矛盾がある。つまりアメリカの弱いドルを純債務大国の日本の円が裏付けている構造にあった。85年に米国が世界最大の債務大国、日本が世界最大の債権大国に転換して以来、米国の金融市場は外国資本、とりわけ資本供給国に転じた日本からの資本流入なくして安定化できない立場に追い込まれてしまった。米国経済の停滞が長期の調整局面に入ることが確認された場合、この体制が一気に崩れる可能性がある。
米国を支えていたグローバルパワーがいま転換点を迎えつつある。行き過ぎたドル高、株高のゆり戻しが起きている。むろん米株価は、つるべ落としのように直線的下降には転じず、一高一低を繰り広げる。だが、基調としては2000年春のITバブル崩壊(ナスダック株価のピークアウト)後の「余熱」が冷め、軟調に入ったことはほぼ確実だ。こうして米国はこれから「失われた10年」、日本は「失われた20年」に突入する可能性は排除できない。
日本は土地本位制、米国は株式本位制に依存する経済体質を持つゆえに、異常な資産価格の変動は経済に直接影響する。つまり、日米経済には「同根のメカニズム」がある。資産の種類は土地と株式で異なるが、狂気に近い異常な期待が資産価格の高騰を演出し「資産インフレ」を生み出す。だが、そのバブルが崩壊すれば「資産デフレ」のメカニズムが作動する。
FRB(米連邦準備制度理事会)は01年初めから01年12月までの短期間で政策金利(FFレート)を6%から1・75%まで引き下げた。日本も90年代初めの公定歩合は6%だったが、01年9月には0・1%、短期誘導金利はほぼゼロ金利、そして財政状態は大幅に悪化している。
米国はいま、日本経済が90年代にたどった「いつか来た道」を歩みだしているようにみえる。年末から来春には、米国の公定歩合は現在の1・25%から1%台を割り込み、0・75%と「ゼロ金利水準」に落ち込む可能性がある。金融政策の効果がなくなる「日本の90年代後半」と同じ状況に、米国も直面することになるのだ。
「有事経済法」で日米合作不況を防げ
80年代後半には「日本の繁栄」と「米国の停滞」が相互に打ち消しあったため、世界経済に「負の共振運動」は生じなかった。90年代には「米国の繁栄」が世界経済に安定化効果をもたらした。しかし、20世紀末から21世紀初めにかけて、日米経済は同一方向に動きだしてきた。相変わらずの「日本の停滞」に今度は「米国の停滞」が重なり合ってきた。この「負の共振作用」いわば「日米合作不況」を防ぐには、日本経済のプラス効果でアメリカ経済のマイナス効果を封じ込めるしかない。そのためには、構造改革の入り口に立ちはだかる不良債権の最終処理を2〜3年のうちに終わらせる必要がある。小泉政権が掲げる道路公団の民営化や郵貯の民営化は実施すべきではあるが、直接、経済再生につながるものではない。財政出動策もいまの日本経済には役に立たない。
日本の個人金融資産は1400兆円もありながら、個人消費が動かない。最大の理由は、金融資産の8割以上を保有する50代以上のお金を持っている人々が、財政破綻の亡霊(年金の崩壊、消費税の大幅引き上げ)などにおびえているからだ。景気のために財政を出動すると、将来にツケが回ってくるということを国民はみなわかっている。日本のいまの状態で財政を出動すれば、消費にプラスでなく、マイナスになるという皮肉な結果を生む。消費が動かなければモノが売れず、設備投資が起こらない。そうすると自力的な経済エンジンが作動せず、頼るのは他力的な財政しかない。しかし、財政が出れば出るほど消費は萎縮するという悪循環だ。
日本はバブル崩壊から10年以上経過したいまも不良債権(推定50兆〜100兆円)を清算できていない。過剰な企業の整理もついていない。これらの過剰企業が安売り競争に突入し、デフレ経済をさらに悪化させている。
過剰企業が整理されないということは古いものがつぶれ、新しいものが生まれるという経済の新陳代謝機能が働かないということを意味する。銀行はいまも不良債権の処理に喘ぎ、株価下落によるバランスシートの悪化で、新しい産業や企業にリスクを取って貸し出すことができない。日本経済の先行きを不透明にしている元凶が、巨額な不良債権なのだ。しかし、根雪のように固まっている不良債権は、株価の長期低迷や11年も続く地価の下落でさらに積もっている。これを解決するために、「有事経済法」を真剣に検討すべきではないか。
来年4月のペイオフ全面解禁は事実上、見送られることとなったが、それと同時に、すべての金融機関を2年間程度、04年3月末まで国が管理し、その間に再生の見込みがない金融機関や過剰な企業は強制的に処理し、同時に特別失業保障制度の創設や職業訓練など雇用セーフティーネットの拡充を図る(2〜3年の時限立法で実施する)。これは不良債権の処理に伴って生まれる失業者に対して、年間200万円の支給を100万人に準備するというもの。3年間でわずか6兆円程度だ。これまでの銀行への公的資金枠は総額70兆円だが、この10分の1程度で済む。
これが世界不況につながる「日米合作不況」を未然に封印する唯一の道ではないか。
いつか来た道 小泉改革は橋本改革の轍を踏む
高木 勝(明治大学政治経済学部教授)
2001年4月に発足した小泉政権の経済実績は、01年度の実質成長率1.3%減、鉱工業生産10.2%減と、いずれも戦後最大の落ち込み。同年度の完全失業率も5.2%と、統計開始以来、最悪の数字。デフレを止められぬばかりか、この1年、事態をさらに悪化させてしまった。
肝心の構造改革も掛け声だけで、目立った成果はみられない。経済に関するこの1年の勤務評定は、不合格といわざるを得ない。政府は今年5月に景気底入れを宣言したが、景気の先行きを楽観的に見ることは禁物だ。米国経済やマーケット動向次第では、景気が再び失速し、“日米連鎖不況”に陥る可能性もある。
米株価の急落は、企業会計疑惑とハイテク分野を中心とする企業業績の不振が主な要因だが、今後も冴えない展開が続きそうだ。なぜなら、企業会計疑惑は一過性の問題ではないからだ。為替もドルの全面安が進展、一方で米長期金利は大きく低下。マクロ経済状況でも、設備投資の低迷は今後も続き、好調だった個人消費にも変調の兆しが現れている。
米経済の減速は日本の輸出に影響する。日本経済の現況は“米国頼み”であるだけに、景気が一気に失速するリスクも高まっている。日経平均も1万円の大台を割り込み、経済や金融システムの行方に懸念を投げかけている。ドル安による円高デフレ圧力も今後、顕在化するはずだ。
日本経済の先行きが楽観を許さぬなか、小泉政権は依然、“改革断行”の旗を振りつづけ、来年度も緊縮財政一辺倒のスタンス。公共投資を毎年10%以上削減し、一般歳出も大きく切り込むことに全力を注いでいる。
一方、国民の負担はこれから一段と高まる。健康保険法改正で、来年度のサラリーマンの医療費自己負担は2割から3割に増加、老人医療費などの負担も増える予定だ。雇用保険料のアップや公的年金の物価スライド制実施、配偶者特別控除と特定扶養控除の見直し、酒・タバコ税引き上げなども予定され、国民負担の増加はまさに目白押しの状態。
ここまで見てくると、小泉改革の現況は、橋本政権時代と酷似していることに気づく。当時、橋本政権は、財政デフレ4点セット(公共投資の削減・消費税率引き上げ・特別減税打ち切り・医療費の自己負担の増大)を実施した。この結果、日本経済は後退局面へ突入し、金融システムにも混乱が生じた。今回も、このまま推移すれば、経済の悪化、デフレの深刻化、そして構造改革の挫折は必至。これでは小泉改革は橋本改革の二の舞いになってしまう。