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松下電器「リストラ人事会議」内部報告書(週刊現代オンライン版) 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 7 月 18 日 23:37:59:

1万3000人の早期退職や年金カットなど、なりふり構わず血の出るリストラ策を断行している松下電器。入手した内部報告書は、甘くもたれ合う体質が組織を腐らせたと、厳しく指摘する。社員5万人を抱える日本企業の象徴はこの地獄から脱出できるのか。

社内評論家を相手にするな

〈松下神話は本当に崩壊したのだ。松下電器が現実に、こういう風な過程をたどれば潰れるだろうということが思い描ける状況を、私も初めて経験している。正直いって、大変恐ろしい、夜も寝られないくらい恐ろしい状況である……〉
本誌は今回、こんなショッキングな一節が記されたB4判用紙4枚の文書を入手した。冒頭には、「村山副社長のお話 2002年度人事会議」と記されている。
ある経済ジャーナリストが説明する。
「これは、松下電器産業(本社・大阪府門真市)で今年2月6日に行われた『人事会議』の報告書の一部で、村山敦副社長(64歳)の発言を記録した文書です。人事部関係者が録音し、正確に文字に起こしたもので、内容はきわめて衝撃的。何しろ、松下が置かれている厳しい状況を率直に語り、その原因となった松下のシステムや企業風土を、副社長自らボロクソに批判しているんですから……」
エレクトロニクスメーカーの巨艦・松下電器の危機は深刻だ。昨年夏、「終身雇用を守る」方針を一転させ、早期退職制度という名のリストラを開始。今年3月までに、グループ全体で1万3000人の早期退職者を出した。
'02年3月期連結決算では、史上最悪の4310億円という最終赤字を計上。独自の企業年金「福祉年金」も4月から廃止された。これまで年利7.5〜10%という好条件だった年金支払額は一律2%もカットされ、退職者たちは老後の生活不安に悲鳴を上げることになった。
まさに日産のゴーン改革を思わせる徹底したコスト削減だ。しかし、ここまで厳しいことをやらなければ、本来のリストラ、すなわち事業の再構築による再生などできそうにないというのが、松下の現状なのである。
そんな状況をバックに、村山副社長からはキツイ指摘がぽんぽん飛び出す。副社長は文書の冒頭で〈事態はさらに深刻な状況になっている〉と断じてから、こう続ける。
〈公表ベースの見通しですら同業他社に比べて最も悪い。はっきりいって、一人負けの数字である。……大手の電器メーカーでがんばっているのは、ソニー、シャープ、サンヨーの「スリーS」だけである。それ以外は皆ボロボロだが、とりわけ松下電器が一番悪く、非常に深刻な事態にある〉
〈今まで経営トップも含めた社員の大半が、そういう状況を思い描かない、この会社が潰れることなど夢にも考えていない状態のほうが異常であったのだ。あのトヨタですら、組織の中に「このまま放っておけばトヨタは潰れる」という危機感が満ち満ちた状況で、毎日事業をされている。
今までの松下電器は、本当に異常なほど能天気な会社であったと言わざるを得ない。これでやっと当たり前の会社になった〉
村山副社長がこう語った「人事会議」とは、主に部長、部署によっては課長といった全国の職場の人事担当責任者が参加する会議。通常は年に2回行われ、出席者は直接か、通信衛星を通じた「パナサット」で参加する。人事という、エリート幹部や幹部候補生が相手なのだから、副社長の舌鋒が鋭くなるのも無理はない。
1万3000人あまりの従業員をリストラして「やっと当たり前の会社になった」というのだから、昔の松下は本当に恵まれていたのだ。その結果、副社長が「異常なほど能天気」とまで罵倒する、ぬるま湯のような体質になってしまったのである。
この村山副社長は'61年に京都大学法学部卒業後、松下電器入社。'95年取締役に就任し、'97年常務、'98年専務、そして'00年6月から副社長。役員として企画、人事、総務などを担当している。
中村邦夫社長(63歳)の意を受けて、昨年から先頭に立って早期退職制度「特別ライフプラン支援制度」や年金カットを進めてきた。その大リストラを〈賃金体系を変え、今回の年金改革でほぼ一つの峠を越えたと思う〉と自画自賛しつつ、村山副社長は批判に再反論することも忘れない。
〈この特別ライフプラン支援制度については、マスコミやOB、世間のいわゆる松下ファン、さらには仕事をせずに評論ばかりしている社内評論家といった、色々な人たちから言いたい放題言われた。「幸之助ならこんなことはしない」とか「松下の、人を大切にするという伝統は消えてしまった」といった、色々なことを皆さんも言われたと思う〉
〈(特別ライフプラン支援制度は)会社にとっては、過剰雇用が無くなる、多すぎる人員が減るというメリットであり、本人にとっては、支援つきで第二の人生設計に踏み出せるというメリットである〉
〈1万3000人とは、日本最大規模の早期退職である。一部週刊誌や『赤旗』などは色々なことを書いたが、私はこれだけの人が会社を去って、これだけ摩擦やトラブルが極小であったケースは稀まれであると思う。皆さん方は、人を大切にするやり方で、この特別ライフプラン制度をやりきったと、自信を持って胸を張って頂きたい。変な社内評論家、週刊誌や『赤旗』の言うことに惑わされずに……〉
村山副社長は社内の“不満分子”がいたく気に入らないようで、2度も「社内評論家」と呼んで非難している。

ソニーと比較して自社批判を

あれだけの大リストラや年金カットを強行しておいて、「人を大切にするやり方」だと言うのだから、ずいぶん腹が据わっている。もっとも、さすがに後ろめたくもあったのか、次のように本音も漏らしている。
〈なぜこの特別ライフプラン支援制度をやらなければならなかったのか。お金をかけ、ある意味で暴力的な仕掛けを用いて、急激にドラスティックに人を減らさなければならなかったのか〉
先頭に立ってリストラを推し進めた村山副社長本人が「暴力的な仕掛けを用いて人を減らした」と断言するのだから、その実態はきわめて厳しいものだったようだ。松下電器の中堅社員が言う。
「昨年、早期退職制度が行われたときも、会社は辞めさせたい社員に、かなり強く退職を迫っていました。『英語もパソコンもできない君がもうやれる仕事はない』『いま辞めないと、退職金の上乗せなどの優遇措置はなくなるよ』などというのはいいほうで、『年寄りは要らないんだよ』『君の給料で優秀な若い奴が3人雇えるかな』などと言ったケースもあるそうです。
それでも退職を拒むと、研修所のようなところに閉じ込められて、草むしりをやらされたりした。こうなると、場合によっては、まさに“暴力的”という印象を受けます」
そんな声などどこ吹く風。村山副社長は返す刀で、「あの大リストラをやっても、松下の甘い体質は変わらなかった」とでも言いたげに語る。
〈特別ライフプランが導入をされて、人が職場から去っても、現場の状況はほとんど変わらない。稼動しないままぶらぶらしていると聞いている。……生産力、現場の力は、まさに立ち腐れ状態に陥っていると思う。
多発する品質問題、増加するケガ、提案の減少、改善意欲の低下。色々な状況が、この10年で松下の日本における現場力が限りなく低下の一途を辿っていることを示している〉
〈古い松下の原価計算で計算して、理論的にだめだと「これは挑戦してもあかん。これはもう海外生産や。日本では作っても損やから、遊んでおけ」となってしまう〉
こうして松下の現状を嘆く一方、良いほうの例に挙げるのは、ライバルのソニー。松下電器は今年3月期の連結決算で、売上高が前期比10.5%減の6兆8767億円となり、過去最高の7兆5783億円を記録したソニーに逆転されてしまった。村山副社長の言葉には、その悔しさがにじみ出ているかのようだ。
〈ソニーは(国内の事業で)何とか利益を確保できる見通しである。ソニーの国内工場は、フル稼動している。ソニーの国内生産台数の、昨年上期第一位はプレステ2である。プレステ1は中国に移したが、プレステ2は日本で作っている。あんなに安い値段で売っているプレイステーション2もバイオも日本国内で生産しているのである〉
〈ソニーでも、計算すれば中国に持っていく方が安いのはわかっている。しかしソニーは「国内工場をフル稼動させなければ、利益はもたない」ということにはっきり気づいて、フル稼動させるような施策を取っているのである。
それに引きかえ、日本のそれぞれの事業部が、採算が合わないという理由で日本の工場を縮小し、それに替わる海外の拡張もせずに、毎年毎年事業を縮小してきたのが松下である〉
そして、このまま国内の事業が縮小すれば、
〈国内の赤字がさらに進み、事業の足を引っ張る。そしてまた、特別ライフプラン。そんなことを繰り返し、縮小する市場に工場を合わせていったとすれば、挙句の果てにたどるのは、倒産の道である〉
と、恐るべきシナリオを示しているのだ。

上司に逆らう社員がいない

いったいなぜ、松下電器はこんな状況に陥ったのか。村山副社長は〈新しい商品や新しいサービスが、開発されていないからである〉と、急所をグサリと突く。そして、さらにその理由はなぜかと疑問を投げかけてから、自分で二つの答えを挙げてみせる。
〈一つは、松下電器は個人が生き生きしていないからである。……上に従う指示待ち族が溢れている。食らいついて諦めない、執念と根性を持って上司に逆らっても何かをやり遂げたいという若者は、松下電器では非常に少ない〉
〈第二点は、松下電器はどんな商品、どんなサービスを作ったらいいのかがわかっていないのである。なぜわからないのか。松下電器のおそらく80%くらいの人は、お客様に会ったことがない。80%くらいの人は、社内の「松下ワールド」の中だけで、職業生活を始めて終えてしまう〉
メーカーであれば、本当は製品を買ってくれる客のことをいちばん考えなければならないはずだが、松下電器では、誰もが組織内部の利害調整ばかりを気にしていて、それがうまい人が「できる人」という評価を受けることになっている――というのだ。
〈松下電器で「この人は素晴らしい」と、どんどん昇進させている人は、内部ネゴに長けた人なのであって、お客様のことをいかに考えているかという基準では、選抜していないのである。ここに、松下電器の最大の問題がある〉
〈このような本当の突き詰めたネゴのない社会では、官僚化が進む。色々なことが儀式化する。いわば繁文縟礼はんぶんじょくれいというような、色々な習わしごとができる。……こんなものは、お客様に何の付加価値も生んでいない〉
村山副社長は、松下電器社員のこういう視野の狭さがよっぽど腹立たしいらしく、さらにこう付け加える。
〈(社員は)自分のタコ壺であり、「世界」であるプロフィットセンターと、せいぜい「宇宙」である松下グループのことしか考えていない。その外にあるお客様は、虚無である。お客様のことを誰も考えていない〉
そういう問題点を受けて、真のV字型回復のためには、すべての社員がお客様と直に接することができる組織作りをしなければならない――と村山副社長は訴える。その具体的な方策としては、次のような3点が挙がっている。
(1)全社の事業を14のドメイン(領域)に再編成し、一つ一つのドメインができるだけお客様に直面するようにする。
(2)経営品質革新本部を発足させ、松下電器のオペレーション全体が、この本部を中心に顧客対応で動くような仕組みを作る。
(3)営業や開発だけでなく、品質や製造など、いろいろな職能の人がお客様と直接触れ合えるようにする。そして、内部ネゴに長けた人ではなく、お客様との接触の中から付加価値を生み出している人を評価するシステムを作る――。
最後に村山副社長は、改めていまの松下電器について、“全否定”に近い発言をする。
〈松下電器は、本当に独りよがりな会社である。悪しき経験主義が、松下の中をのさばっている。松下幸之助の時代は、松下のやり方が日本の再販の仕組みとなり、日本のビジネスモデルを作っていた。その時代は、会社の仕事を一生懸命やってさえいればよかった。
しかし、そんなビジネスモデルが過去のものになってしまった今……成功している他社や理論を学ばなくてどうするのか。松下には、そんな学びの姿勢が本当にない〉
つまり、「社員は宝物」と言った“経営の神様”松下幸之助の時代は遠く過ぎ去り、企業も個人も、厳しい自己責任と生き残りの時代の真っ直中にいる、ということだ。
そして、締めくくりには、
〈人事職能としての大きな破壊もまずは終わった。これからは創造である。……2002年は創造に向かって、前向きに皆さんのエネルギーをぜひ発揮して頂きたいと思う〉
と話を結んでいる。

問題を先送りしてきた人災だ

村山副社長の改革への意志は火のように激しいが、今後、V字型回復は成功するのか。まずは目の前の大問題、年金カットに対して元社員たちが猛烈に抗議しているという事態を、切り抜けられるのか。
「6月末から7月20日にかけて、松下電器は全国約60ヵ所でOBへの説明会を行い、2%カットに同意するよう説得しているのですが、なかなかまとまりません。OBの怒りの声が渦巻いて、収拾がつかなくなりそうな説明会もあると聞いています」(松下電器50代社員)
実際、説明に出てきた人事担当者や役員に対し、
「なぜ中村社長や村山副社長が来ないんだ。社長が土下座しろ。手紙を一本よこしただけで済ませるのか」
「年金を削減して20億円が浮くというが、それを何に使うのか具体的に説明しろ」
「V字回復はいつになるのか、責任をもって約束しろ」
「年金をカットするのなら、そのかわりに経営責任を取って経営陣は総退陣せよ。なぜ役員が一人も辞めないんだ」
などと怒号のような質問が飛び、役員たちがしどろもどろになっているケースも多いという。
また、経済誌『エコノミスト』7月2日号で、村山副社長が「私利私欲で言うてる人が、私利私欲でやってない我々のことをあんまり言わないでほしい」「あれだけ感情的に反発する人がおるとは情けない」と、年金カットに同意しないOBを正面から非難。彼らの怒りの火に油を注いだ形になり、各地の説明会では、
「老後の計画が大幅に狂いそうだから必死になっているのに、私利私欲とは何事だ」
「われわれの質問にろくに答えられないのに、感情的に反発するなとは無責任」
といった声も聞かれる。
松下電器側は、受給者1万6500人全員を7月中に年金カットに同意させたい意向だが、OBの一部には、弁護士と相談して訴訟を起こそうという動きもある。
社員の給与も10〜15%カットされる。春闘の結果はベースアップがゼロで、定期昇給も9月まで凍結。「ボーナスは、松下の組合員の平均で約40万円のダウンになる」(電機連合関係者)という。
「これまで松下には、10年、20年、30年と永年勤続表彰制度がありましたが、今年はやらなくなった。とくに30年勤続表彰は、30万円相当の旅行券、10万円の現金、特別休暇の三つが柱です。これを当てに、夫婦でヨーロッパ旅行を計画していた人もいましたが、中止になって奥さんが泣いていたそうです」
松下電器の事情に詳しい経営評論家・塚本潔氏は言う。
「普通の企業が3〜5年前に取り組んでいたリストラを、松下電器はいまようやく始めたところです。ソニーは'99年にリストラに手をつけたんですが、そのときでさえ、出井伸之会長は『本当はもっと早くやらなければならなかった』と言っていた。
まして松下電器は、完全に追い込まれてから始めたわけですから、リストラはそれだけ苛酷なものになる。トップが問題を先送りしてきた人災です。1万3000人が辞めましたが、まだ相当の余剰人員がいるという見方も有力。売れる商品を作れなければ、本当に行き詰まるでしょう」
村山副社長に、人事会議での“激辛発言”の真意を聞こうと自宅を直撃すると、
「本当にピンチなんやからね、あちらこちらの会議でそんな(厳しい)話はいつもしてますよ。だから、いつどこで言ったかなんてわからんよ。あんだけの大赤字を出したんだもの、社長をはじめとしてマネジメントに携わっている人は、みんな現状をそのように(深刻に)考えていますよ」
という返事だった。
松下電器は“第二のゴーン日産”になれるのだろうか。

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