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(回答先: 論考:デフレ終焉後の動向(財務省) 投稿者 kane 日時 2002 年 7 月 07 日 16:41:40)
強い期待を抱いて読んだが、国家統治機構に属する研究者のレベルの低さに愕然とした。
「デフレ不況」下で「デフレ後」を検討することは統治者として重要(当然)なことであるが、総じて甘い分析だと言わざるを得ない。
1)デフレがどのような過程を通じて終焉を迎えるかについて説明がない
他の論文では提示しているのかどうかはわからないが...。
「労働価値」(労働成果財の生産)の裏付けのある紙幣量の労働成果財取引での増加を通じてデフレが終焉を迎えるのか、裏付けのない紙幣量が労働成果財取引で増加することでデフレが終焉を迎えるかで、その後のインフレは様相を異にする。
2)「大恐慌」や「昭和恐慌」との安易な比較
彼ら自身も、「大恐慌」の経験が現在の日本経済に適用できるとは限らないと予防線を張っているが、“適用できるとは限らない”理由を探り出すことが重要である。
金本位制の残滓を引きずっていた(もしくは国家総動員の戦争体制に移行した)1930年代と長期にわたって「管理通貨制」にある現在(非戦争体制でもある)とは、物価変動論理がまったく異なる。
3)「不良債権の動向」
インフレが景気を上向きにし不良債権の減少をもたらすという認識は正しい。
しかし、不良債権の減少は、債権価値が減少することで実現されると言う視点が抜けている。(最後のところでそれなりの説明はされているが)
4)「金利の動向」
フィッシャー効果(金利には期待物価上昇率が加算される)が90年代に弱くなったことを上げているが、「恐慌噴出防止策」が採られ続けてきた90年代を根拠に持ち出すことは不的確である。
実質金利の下落は、銀行がそれを志向し借り手がそれを認めていることで現実妥当性を持つフィッシャー効果ではなく、実質金利を下落されるという意志に基づく名目金利と通貨供給量の制御という金融政策で実現されるものである。
5)「物価の動向」
物価は制御できるというスローの理論を持ち出しているが、「労働価値」と紙幣の量の上昇率の関数で物価は決まるから経済論理としては正しいものである。
しかし、それがわかっていながら、ロシアやラテンアメリカでなぜハイパーインフレが起きたのかがまじめに検討されていない。
「労働価値」は政治力では上昇させられないが、「紙幣量」の増加は政治力で可能である。
VARモデルを使って説明を補足しているが、それは、経済を客体的な事象として眺めたり、過去の事象を説明することでは有効だが、「紙幣量」(彼らの言うマネタリーベース)が主体的(政治的)に制御できる変数であることをないがしろにした論理的説明である。
彼らは、結論的に、「マネタリーベースの伸びを制御することで、物価の上昇を在る程度制御できる」としているが、マネタリーベースの伸びを制御する主体(日銀)を制御する政治力(政治状況)を考慮だにしていない。
政治を排除して経済論理に徹するとしても、マネタリーベースを増大させても、デフレから脱却できないここ数年の経済的現実を説明できない理論であり、破綻している。
6)金融資産保有主体の損失問題
ハイパーではない“正常な”インフレという想定なので、書かれている内容は概ね妥当性を持っている。
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彼らに突きつけられているのは、“正常な”インフレに移行できる条件が何かを探ることであり、それがいつ頃まで続くかという条件存続期間を見極めることであり、その条件下で「デフレ不況」から脱却する政策が何かを提示することである。
彼からがいくらの給与をもらって何日(何ヶ月)でまとめた論文かはわからないが、緊迫感も見えないこのレベルの論文を書いているようでは失業するのもやむを得ないと考える。