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以前から、世界経済は、これから「世界同時デフレ不況」へと向かって進んでいくと予測していたが、このところの「米国株安」と「ドル安」に象徴される米国経済の“変調”に反応した主要メディアも、「米国経済の回復→日本経済の回復」という論調から手のひらを返すように、「世界恐慌」(「週刊朝日」タイトル)という言葉まで使うようになった。
1929年のNY株式市場の大暴落に端を発した「大恐慌」は、第二次世界大戦とその後に確立された世界経済システムによってようやく解決されたと言っていいほど、深刻で長期的な「世界同時不況」であった。
過激な言葉が受けるご時世ではあるが、言葉が内包しているイメージに刺激を感じたり怯えているだけでは、先も見えなければ問題も解決できない。
そういう立場から、今後予測される「世界同時デフレ不況」と1930年代の「大恐慌」がどう違いどれくらい類似的なのかを考えることには意味があるだろう。
■ 20世紀の「大恐慌」と21世紀の差異性
まず、今後起きると予測されている「世界同時不況」は、我々日本人にとって、別に目新しいことではない。
そう、ここ10年続いている「長期不況」、ここ5年近く続いている「長期デフレ不況」が、世界的規模で起きるということである。
不動産バブルに見られた激越なバブル崩壊は、連鎖的な金融破綻を招き、「恐慌」を引き起こすべきものだった。しかし、「恐慌」ではなく、「長期デフレ不況」というかたちで収まった。(参考書き込み:『日本経済は「管理されたダラダラ恐慌」状況』 http://www.asyura.com/2002/hasan9/msg/134.html )
「大恐慌」時代の世界は、第一次世界大戦戦勝国の欧州主要国は世界中に政治的経済支配地域(植民地・資源支配・販売市場権益)を抱え、世界一の経済力を誇る米国、賠償金支払いで苦悩するドイツ、政治的経済支配地域の拡大をめざす日本、革命後一国体制を志向したソ連という構図であった。
各国民経済の金本位制は崩壊していたが(未復帰や未確立そして最悪復帰などあったが)、国際交易は、金為替本位制で取り引きされていた。
国民経済は、金本位制を志向しつつというか、金本位制を引きずった「プレ管理通貨制度」で、国際経済は金為替本位制という構造である。
戦後は、金為替本位制を引きずった「金ドル為替制度」という国際通貨体制に規定された国民経済の「管理通貨制度」が71年まで続き、その後は、国際基軸通貨ドルを国際支払い手段とする「国際的管理通貨制度」に移行した。
そして、世界の構図も、米国を盟主とする先進諸国連合と先進諸国から独立し経済発展をめざす発展途上国そして一国体制で社会主義を志向する共産主義国という段階を経て、米国を盟主とする先進諸国連合と先進諸国から独立し経済発展をめざす発展途上国というかたちに収斂していった。
通貨システムと世界構図のこのような違いは、経済的クラッシュや不況の出現形態をも変える。
「大恐慌」が恐慌という経済現象を伴ったのは、国民経済が、金本位制を志向しつつというか金本位制を引きずった「プレ管理通貨制度」だったからである。
国際交易が縮小を続けるなかで、平価切り下げ競争が展開され、ブロック経済化が強まったのは、国際取引が金為替本位制に基づいていたとともに、欧州主要国が世界中に政治的経済支配地域(植民地・資源支配・販売市場権益)を抱えていたからである。
(前回も書いたように、米国は、世界最高度の“近代的自給自足”条件を備え、南北アメリカの存在を考え合わせれば、英仏と同じようなブロック経済化も可能だった)
金本位制を採ることさえ夢想であり植民地も失ったドイツが、真っ先に恐慌の打撃から回復したのは象徴的である。
金本位的束縛を受けず他に逃げ場もないドイツは、ケインズ主義的政策を先取りすることで、経済を回復したのである。
日本も、政治的経済支配地域を満州まで広げ、中国市場での権益を拡大しようとしたが、この戦争体制がケインズ主義的政策となり、不況から脱出させることになった。
結局、米国さえも、戦時体制に移行することで「長期不況」を克服した。
しかし、日本もドイツも、近代経済に必要な資源に恵まれているわけではなく(石炭くらい)、ブロック経済化した世界で回復した経済をさらに発展させるためには、資源と販売市場の確保を目指すしかなかった。
これが、「人道主義」や「陰謀論的」な視点を排した第二次世界大戦発生の論理である。
現在の世界は、国内経済取引・国際経済取引とも金本位制に縛られることはなく、植民地に塀を築くブロック経済という逃げ場もなくなっている。
(EUやNAFTAというブロック経済を基礎としたブロック経済間対立はあり得るが、国際産業連関(国際分業)構造から、閉鎖ブロック経済は自殺行為になる)
これは、経済論理的に、不況への転化が恐慌という経済現象を引き起こす必然性もなく、米国の圧倒的な軍事力という政治的背景もあるが、先進諸国が戦争という解決策を模索する理由もないことを意味する。
しかし、「世界同時デフレ不況」が世界中の人々に深刻でかつ長期にわたる経済的災厄をもたらすことは、「世界恐慌」とまったく同じである。
逆に、構造的な相違から、これから始まろうとしている「世界同時不況」は、「世界恐慌」以上にだらだらと長期的なものになる可能性が高い。
■ アジアから世界への「デフレ不況」の“輸出”
日本だけがデフレ不況に悩んでいるわけではなく、少し前からは台湾と香港がデフレ不況に悩み、昨年秋からは中国もデフレに悩むようになった。
(韓国は、IMF管理下で政策転換し、今は不動産と株式のミニバブルが形成されている)
高度成長を自他共に認めている中国がデフレに陥っているのは示唆に富んでいる。
(そして、米国経済が昨年からデフレに転化したことも重要である)
中国経済については、『【世界経済のゆくえ】中国は自滅の道を進むのか孤立に追い込まれるのか』( http://www.asyura.com/2002/hasan11/msg/199.html )を参考して欲しいが、デフレに陥った理由を簡単にまとめると、
● 生産性の急上昇
5千万人もの失業者を出しながらGDPが伸びているのは、生産性の急上昇が達成されていることを意味する。そして、生産性の上昇で供給力が増大しているのに、5千万人もの購買力が劣化しているのだから、物価下落圧力が強まるのは当然である。
● 外資依存の輸出拡大
輸出拡大で得た利益が国外に流出し、高度成長期の日本のように国内の需要拡大にする割合が小さい。これも、需要縮小要因である。
● 人民元の対ドルレート安値固定化
輸出拡大を経済成長の原動力と考えている中国当局は、生産性が上昇したにも関わらず、人民元レートを安値のまま固定している。
これは、中国で生産された商品を外国に安売りする行動を継続させることを意味する。 13億元で1億ドル稼ぐのか、10億元で1億ドルを稼ぐかの違いであり、人民元を変えないのなら、勤労者の給与を引き上げなければ、国内はデフレ圧力に晒される。
となる。
デフレに悩むアジアであるが、国際収支構造を見ると、アジアが世界経済を支えていることがわかる。
主要国国際収支:2000年ベース (億ドル単位:韓国とスイスは99年ベース)
経常収支 経常収支内訳 資本収支
貿易サービス 所得
=====================================================================
米国 −4,446 −3,757 −147 4,442
日本 1,168 690 576 −313
中国 205 288 −146 19
韓国 244 277 −51 123
アジア 1,618 1,256 378 −171
3国
英国 −244 −269 81 341
ドイツ −187 71 −9 270
フランス 204 202 135 −288
イタリア −56 106 −120 103
オランダ 163 201 23 −59
スペイン −172 −105 −83 218
ユーロ圏 −317 339 −189 49
スイス 291 121 211 −379
この表のポイントは、米国とユーロ圏が経常収支赤字で資本収支黒字であり、アジア3国が経常収支黒字で資本収支赤字であることである。
雑ぱくに言えば、アジアが国際商品を生産し欧米に輸出してドルを稼ぎ、稼いだドルをアジアが欧米に投資することで、世界経済が維持されているのである。
今回の米国経済の“変調”は、ドル資金の流れを変えることで、この構造に大きな影響を与えることになる。
米国に還流するドルが減少すれば、それにつれて米国経済の購買力は減退する。
米国経済に対する供給力が一定であれば、購買力(需要)の減少で、財の価格に対する下落圧力が加わる。
日本や中国など米国への輸出を支えにしている国民経済は、販売量を確保するためだけでも価格を下げざるを得なくなる。中国のようにそれが国民経済の成長推進力と考えていれば、量をさらに増やすために価格競争力をより高めようと輸出価格を下げてゆく。
そして、米国のみならず、欧州やその他の地域にも輸出量を拡大しようとする。
需要が減少しているなかで輸入というかたちで供給が増えるということは、日中の輸入対象国の国内供給力が減少せざるを得なくなるということである。販売価格の下落は、経済論理的には供給の減少である。そして、それに耐えられない企業は倒産することになる。
何とか価格競争力を維持したいと考える企業は、より低いコストで生産できる場所に生産拠点を移そうとする。
日本企業がそうしてきたように、中国を中心としたアジアに移すことになるだろう。
そして、それまで国内で生産していた物を外国で生産するようになったのだから、その分失業者が発生し、国内需要を減少させることになる。
わかるように、「国内需要減少→物価下落→価格競争力維持のための生産拠点外国移転→失業者増加による国内需要減少→物価下落」という悪夢のようなデフレスパイラルに陥るのである。
これが、日本が先鞭を付け、アジアで先行的に広がり、昨年からは米国に伝わり、これから世界中に広まろうとして「世界同時デフレ不況」の論理である。
ボーダレス経済とまで言われるような各国民経済間の密接で有機的な連関が、デフレスパイラルを否応なく世界中に広めることになる。
そして、これは、企業が、どこに本社を移そうが、どこに生産拠点を移そうが、「世界同時デフレ不況」の災厄から逃れられないことを意味する。
このデフレ悪循環を断ち切る政策は、世界の主要国が、『【世界経済のゆくえ】楽観的な日本経済のゆくえ 』( http://www.asyura.com/2002/hasan11/msg/199.html )で書いた政策を“同時的に”採るしかない。
各国政府がそのような政策を採らない限り、個別経済主体(企業)は自分の生き残りのために、結果としては身の破滅になるかも知れない「世界同時デフレ不況」への道を突き進むしかないのである。(参考書き込み:『政府が政策変更しない限り、個別企業は“破滅”への道を突き進むしかない!』 http://www.asyura.com/2002/hasan11/msg/271.html )
政府・企業・金持ちが誤った経済理論や刹那的な利益に執着する限り、「世界同時デフレ不況」を阻止することはできないのである。
日本経済が経験してきたように、対応が遅れれば遅れるほど傷は深くなり、解消に要する時間が長くなる。
最後に、希望とも悲劇とも解釈できるのだが、「日本経済は、世界で最高度の近代国民経済であり、日本がデフレ不況を解消できないのであれば、他の国民経済はより酷い状況に陥る」とまとめたい。
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※ 日本政府が現在志向している経済政策は、「デフレ不況」をさらに悪化させるものばかりである。
それに関しては、下記の書き込みを参照して欲しい。
『【世界経済のゆくえ】日本経済が突きつけたマネタリズムへの“最後通牒”』
( http://www.asyura.com/2002/hasan11/msg/271.html )
『【国債問題への定量的アプローチ】その5:「構造改革」的税制変更は税収増大をもたらすか?』
( http://www.asyura.com/2002/hasan10/msg/584.html )