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(回答先: Re: スベンソン教授の提言:実質為替相場と名目為替相場 投稿者 あっしら 日時 2002 年 5 月 14 日 23:38:32)
スベンソン教授提言の核心は、「円安での為替ペッグ制」の実施である。
「デフレ不況」からの脱却に効果があるとしても、日本が「円安での為替ペッグ制」を実施できるかどうかは、米国や中国・韓国をはじめとするアジア諸国など諸外国がそれを認めるかどうかという政治的問題をクリアしなければならないが、それは後述する。
● 強い通貨の安値での為替ペッグ制
スベンソン教授が言う
>「たとえば、日銀は今日から同160円にすると宣言し、その水準で無制限に円を売買
>すると約束する。弱い通貨をペッグしようと思えば、中央銀行は限られた外貨準備で
>自国通貨を買い支えなければならないが、強い通貨が上昇するのを防ぎ、ペッグを維
>持しようと思えば、中央銀行は通貨をもっと多く発行するだけで良い。これはしばし
>ばインフレに結び付くが、日本にとって必要なのは、まさにインフレだ」
「円安での為替ペッグ制」を実施すれば、日本製品が割安になるので輸出が増加し、外国投資家は日本向け投資を有利と考えるようになる。
逆に言えば、輸入商品は割高になるので競合製品の輸入は抑えられ、日本の投資家は海外投資を不利と考えるようになる。
例えば、100億円の不動産の購入を考えると、1ドル=125円であれば8千万ドル必要だが、1ドル=160円であれば6千2百5十万ドルで済むようになる。
そして、将来については、為替レートが変動制に変わって円高に戻るか、インフレの進行で同じ程度のレートにとどまるかだろうと考える。
将来1ドル=130円になれば、100億円で買った不動産をそのまま100億円で売っても、ドル換算すると7千7百万ドルになる。差し引きで1千4百5十万ドルの利益が手にできる。
将来為替レートが同じであっても、そうなったのは相対的な高インフレ率のせいだから、不動産は23%ほど高くなって123億円で売却できるはずである。
(日本投資家の海外投資が不利になると考えるのは、これとまったく逆の結果(損失)を手にするからである)
このようなことから、日本は過剰な外貨=ドルを手にすることになる。
そして、将来は円高に戻るか日本でインフレが進むと考えるので、ドルを手に入れた経済主体は、ほとんどが円に転換するはずである。(ドルを持つ経済主体は海外の投資家と同じ基準で損得を考える。日本で高インフレが進むとなれば、日本でモノに投資すると有利)
ドルから円への転換は、日銀券の流通量が拡大することを意味するから、スベンソン教授が言っているようにインフレの芽が生まれたことになる。
現在、日銀の当座預金残高が25兆円を超えているように、日銀券の流通量は拡大している。「円安での為替ペッグ制」と現在の金融政策の違いは、輸出企業を中心とした非銀行業の経済主体が日銀券の保有を拡大するのか、日銀と商業銀行の間に巨大な通貨プールを築くかということである。
インフレの芽ということで言えば、「円安での為替ペッグ制」で生まれる非銀行業の経済主体の日銀券保有増大のほうが、“通貨プール”に貯まっている状態よりインフレの実現をもたらしやすい。
しかし、インフレの芽が現実のインフレとして開花するためには、需要が供給を上回る実需が実物経済で生まれなければならない。
86年から89年までの「バブル形成期」の特徴は、株式や土地の価格は急上昇したが、消費者物価は、86年が0.7%、87年0.0%、88年0.7%、89年2.4%と穏やかなものだった。その要因としては、円高で輸入物価が下がったことをあげることもできるが、GDPに占める輸入額の割合は6〜7%(現在は8%ほど)であり、円高を第一要因とすることはできない。
“過剰流動性”で生じた「バブル形成期」における消費者物価の穏やかなインフレは、まさにバブルの形成の“おかげ”である。
過剰な日銀券やマネーサプライが、株式や不動産そして海外投資に向かったことで、消費者物価の上昇は抑えられた。
別の言い方をすると、「円高不況」を煽ることで勤労者への分配分を抑え込み、そのおかげで増大した余剰資金を投機に注ぎ込んだのが「バブル形成期」である。
(税制変更や企業の賃金政策で「バブル形成期」に勤労者への分配を増やしても、日本の供給力は十分にあったのでハイパーインフレを招来することはなく、インフレ率は歴史の値よりも高まっても、実質所得が高まるという好循環をもたらしたはずである。バブルの形成と崩壊がなかったことを考え合わせると、そのような政策の合理性は明らかである)
このようなことから、日銀券の流通が拡大したからといっても、実物経済の実需が増大し、物価が上昇するということには直接結びつかないのである。
実需が増大しなければ企業の設備投資も抑えられ、実業での使い道がない過剰資金は、投機的な商品(株式や不動産)に向かうことになる。
スベンソン氏は、「インフレターゲット」政策のような“狼が来るぞ”というレベルではなく、「円安での為替ペッグ制」を実施することで否応なくインフレ期待が発生すると考えているが、どのような商品にインフレが発生するかは、所得分配や税制によって大きな影響を受けるのである。
「円安での為替ペッグ制」は、書いてきたように、日本の経済主体に大きな利益を与えるとともに、ドルの円転換を促す政策なので米国へのドル還流を大きく阻害する。
中国・韓国をはじめとするアジア諸国も国際競争力の相対的低下を招くことなので反対するが、「円安での為替ペッグ制」にもっと強硬に反対するのは、ドル還流の停滞で大きな“被害”を被る米国であろう。
また、中国が実質的に「元安にした為替ペッグ制」であることも考えるべきである。
ここ数年の生産性上昇・貿易収支黒字そしてデフレ傾向のため、中国元は割安になっている。
中国政府は、輸出競争力を保つために、「元安誘導はしない」というトンチンカンな発言で、現在の元安状況を維持しようとしている。
中国経済の実状は、統計的な不備や経済システムの異質性から読みとれない部分が多いが、強い通貨を安い評価で為替ペッグ制を実施しても、デフレの解消にはならないという一つの生きた実例にはなるだろう。(中国は、年率1%ほどのデフレ状況にある)