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(回答先: 「デフレと生きる」(20)日本再生させる最も確実な方法−スベンソン氏 (ブルームバーグ)2002年5月14日(火)7時30分 投稿者 招き猫 日時 2002 年 5 月 14 日 09:09:00)
スペンソン教授の提言は、「不良債権処理」を急ぎ「構造改革」を断行しろという提言よりはずっとましだが、論理操作の枠を超えていないと言える。
最初に、物価をめぐる問題から、現状認識のズレを指摘したい。
>過去数年のデフレによって、望ましい物価水準と現実の物価のギャップは大きく開い
>ている。
「望ましい物価水準」という概念を持ち出しているが、為替レートベースで国際比較した日本の物価水準は、ここ数年のデフレを経過してもなお割高である。
一般勤労者も、デフレ率を上回る実質収入の低下に見舞われているので、物価水準が下がったという実態にはなっていない。
物価の問題は水準ではなく変動にあり、経済活動を停滞させるデフレや通貨価値の急落につながるハイパーインフレが問題なのである。
日本経済の現状に照らせば、物価水準そのものが問題ではなく、名目物価水準が下がっていくというデフレ(物価変動)が問題である。
日本経済は、「デフレが不況をもたらし、その不況がデフレを進め、デレフがさらに不況を深める」という“デフレスパイラル”に陥っている。
日本経済については、物価水準は割高なのだから、物価水準を高めるという発想ではなく、「世界の工場」である日本の物価水準が割高になっている要因を見つけることから始めなければならない。
要因としては、為替レートを上げることができる。
物価の国際比較は為替レートに基づくものだから、購買力平価から大きく高めに乖離した為替レートが論理的な要因として指摘できる。
しかし、ここでも、なぜ、購買力平価から大きく高めに乖離した為替レートになっているかというかということを考えなければならない。
これについては、輸出主力品である民生用工業製品が高い国際競争力を持っていることを指摘できる。
94年に経験した1ドル=80円(年平均で99.83円)まで進んだ円高でも、12兆円超の貿易黒字を出し、翌年も10兆円近い貿易黒字を計上している。
平均為替レートが124円だった92年の貿易黒字は13兆円超である。円高になると、ドルベースの金額が下がると、円ベースの金額はさらに輪をかけて下がるので、日本の国際競争力がとてつもなく高いことがわかる。
輸出企業の収益が円高で悪影響を受けたことは間違いないが、GDPは、92年0.9%・93年0.4%・94年1.0%・95年1.6%と円高の悪影響を受けずに推移している。
これは、為替レートの切り上げによる競争力調整機能が日本には働かなかったことを意味する。
このような高い国際競争力の要因としては、輸出民生用製品に競争相手が乏しいことを指摘できる。日本企業の国際競争力により、競争製品を生産する企業が次々となくなっていった。
今でこそ中国製品がシェアを伸ばしてきているが、家電製品の多くが日本からの輸入なしでは世界全体の供給がおぼつかない状況であった。自動車についても、中級クラスや普及クラスでは圧倒的な力を持っている。
国際競争力を支えるもう一つの要因は、国内販売価格が高めに設定されていることである。輸出民生品は、国内販売で多大な利益を稼ぎ、輸出で量の拡大をはかるという構造で推移してきた。
別の言い方をすれば、国際販売で大量の数を売ることでコストが低下し、国内販売でも輸出でも利益が上げられるにしてきたが、円高により輸出で利益が上げられない状況になっても、国内販売で利益を確保できるという構造をつくってきたである。
輸出で利益が出なくても、国内販売での利益を支える生産量の維持に貢献するのなら輸出を続けても問題にならない。
戦後復興期から高度成長期にかけて特徴的だった官民あげての「輸出志向」とその実現政策が今なお続いているのである。
農産物ではなく民生用工業製品が日本で割高なのは、為替レートの問題ではなく、メーカーのこのような販売政策によるものである。
ここ数年のデフレは、不況のために否応なくこのような内外価格差が縮小されてきた過程と言うこともできる。
そして、そのために利益が減少するメーカーは、利益確保を企図して生産拠点を中国などに移し、さらに国内の不況を悪化させている。
民生用工業製品のメーカーが、国内市場と輸出市場を差別せず同じ価格政策で商売していれば、内外価格差部分の“過剰な”国際競争力は削ぎ落とされ、“異常な”円高をもたらすことはまずなかったのである。
そうでありながら、日本で思うように利益を上げられなくなったメーカーが、利益確保のために、生産拠点を低コストの中国などに移す政策を採れば、失業者の増大と価格低下をともに招き、「デフレ不況」をより悪化させることになる。
「デフレ不況」という現状をスムーズに解決する方法は、国民の多数を占める勤労者の可処分所得を増加させるための「低中所得者減税=高額所得者増税」政策の実施であり、メーカーの生産拠点移転抑制(中国向けを中国で生産するのは可)である。
国内需要を回復し、それから、日本製品の内外価格差を徐々に縮小していく路線を採るべきである。
日本市場で利益を上げることを主目標にしなければ、中国企業と製品層の棲み分けがまだできている現段階では、日本で生産しても国際競争力は維持されている。
日本のメーカーは、稼ぎが減っている市場では商品が売れなくなっていくこと、中国は日本企業のためではなく自国の経済成長のために日本企業を招き入れていることを忘れるべきではない。
日本企業と中国企業の棲み分けがなくなれば、中国内の日本企業は邪魔な存在と見られるようになる。その時点で日本経済が疲弊を強めていれば、日本企業は存立基盤を失いかねないのである。