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(回答先: 政府紙幣は開けてはならないパンドラの箱か 投稿者 せいがく 日時 2002 年 11 月 15 日 16:24:19)
せいがくさん、レスありがとうございます。
「政府紙幣」発行問題を為替レートの視点から提起していただいたので、それに絞って考えてみます。
● 金本位制の「通貨切り下げ競争」効果
国際取引が金本位制で行われていれば、「通貨切り下げ競争」はそれなりの合理性があります。
たとえば、金1g=1円=1ドルの状態を前提として、1円を金0.8gにすれば、円とドルのレートは、1ドル=1.25円になります。
日本が供給活動を自足できると想定すれば輸入はゼロですから、為替レートが安くなっても日本で生産する財の価格は変動しないで済みます。
日本で10円で出荷できる自転車は、1ドル=1円のときは10ドルの価格ですが、1ドル=1.25円になれば8ドルの価格になります。
輸出競争力が高まったことになるので、自由貿易であれば対米輸出は増加します。
しかし、日本が原材料や生産財などを輸入に依存しているとしたら、円安の効果は、輸入財の価格上昇で国内財価格が上昇するのでその分打ち消されることになります。
自転車の出荷価格が12円になればドル建て価格は9.6ドルになりぎりぎり競争力上昇が実現でき、13円になれば10.4ドルになるので、逆に競争力を低下させることになります。
現在でも経済論理ではなく意図的な円安政策が求められたりしていますが、円安=国際競争力上昇という考えは虚妄です。
● 変動相場制で「通貨切り下げ競争」はない
変動相場制ではどうでしょう。
「政府紙幣」をどんどん発行してインフレになれば、財の価格が上昇します。
変動相場制で1ドル=1円だと仮定します。
米国はインフレ率が0だとします。
日本は「政府紙幣」発行により、10円の自転車が15円になったとします。
このとき、円ドルレートが変わらなければ自転車の輸出価格は15ドルになり、対米輸出は絶望的になります。
他の財も同じような価格上昇ですから、驚異的な価格競争力を持っている財だけが輸出されることになります。
逆に、アメリカで10ドルで出荷できる自転車は、日本向けに10円で輸出できるので対日輸出が驚異的に増加します。競争関係にある他の財も同じような傾向を示します。
この過程を経て、為替レートは1ドル=1.5円に調整されるはずです。(金融取引や投機はないとしてですが、あったとしても中長期的にはこの水準に収斂します)
※ 金本位制における平価切り下げのような即効性もありません。
変動相場制では国内の財価格変動が為替レートで調整されるので、意図的に為替レートを変動させない限り“効果”はありません。
「政府紙幣」の発行でインフレを起こしても、それに連れて為替レートが安くなるだけですから、国際競争力が高まるわけではありません。
それどころか、原材料・生産財・最終消費財の輸入価格が上昇するので、さらに財の価格が上昇する悪性インフレになることが考えられます。
日本の「円安信仰」は愚かな迷信です。
国際競争力は、他の国より高い生産性の上昇が源泉です。そして、他の国では生産できない財を生産できることが何よりの国際競争力です。
経済論理ではなく、意図的な円安は国際競争力の上昇に貢献することもありますが、アジア諸国とのあいだで水平分業が進んだ現状においては、輸入財の価格上昇で打ち消されてしまいます。(「円安信仰」は、原材料のみを輸入していて時期にのみ通用するものです)
米国は国際金融資本のために、意図的な「ドル高政策」をとったことで産業をずたずたにしてしまいました。
● ブロック化は経済論理ではなく政治問題
為替レートはこのように意味がないものですが、ブロック化には意味があります。
関税障壁と産業連関(分業構造)が、ブロック外の国民経済に対する競争力を保つことになります。
ブロック化を打ち破る決定的な力は、他の国では生産できない財を生産できる技術力の維持です。
このようなことから、
「諸外国から見たら、自国通貨の切り下げ手段なわけですね(しかもルール無視の)。世界恐慌の後、各国が競って自国通貨の切り下げ競争に走り、その動きから経済を防衛するためにブロック経済体制に向かい、行くつく先は第二次世界大戦でした。
この反省からU.N.を始めGATT, IMF, ブレトンウッズ体制などが生み出されたのは世界史の教えるところです。
つまり、日本の政府紙幣発行が検討だにされないのは、諸外国の反発を招くことが明らかで、世界の孤児になる可能性すらあることが強く意識されているからではないでしょうか。WTOから除名されるかも知れません。そうするともう輸出も輸入実質的にはできなくなり、国家としては死んだも同然になります。
経済支配層の反発というよりも、円切り下げのための最強のツールを世界のルールを無視して使用されては困る、そんな手法は諸外国から認められない、ということで選択肢にも登っていないのだと思います」というお考えには同意できません。
「抜く時は、国連脱退も辞さず、という覚悟ですかね」には同意します。