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野田峯雄「今日の排外主義台頭の光景 拉致議連発足などをふまえて」・抄(『アプロ21』2002年5月) 投稿者 YM 日時 2002 年 9 月 29 日 22:28:39:

(回答先: ジン・ネット高世仁氏の抗議(『動向』2001/3)・抄 投稿者 YM 日時 2002 年 9 月 29 日 00:18:36)

*このジャーナリストの方が和田氏よりだいぶレベルが上か。ちゃんと足で書いてるからね。

『アプロ21』2002年5月号
野田峯雄(ジャーナリスト)
今日の排外主義台頭の光景
拉致議連発足などをふまえて


北朝鮮に拉致された日本人を救出する全国協議会(佐藤勝巳会長)などの主催する『国民大集会』を取材していて衝撃的なのは、会場の前列中央で日の丸の旗が大きく振られ、とともに「朝鮮人は出ていけ」などの罵声が飛び、主催者も参加者もこれを当然のごとく受けとめている光景である。
主催者たちは「横田めぐみさん」を頭上にかざして涙を誘い、憎悪をあおり、自ら提示した排外主義に酔い、その会場は、たとえば「戦争」の二文字を投げ入れるとポッと燃えあがるような気配に満ちている。異様だ。実際、彼らの関係するインターネットのホームページには軍艦マーチが織り込まれてもいた。彼らはすでに個々の行方不明事件(たとえば八件十一人)を解明しようとする意思や意欲を欠落させ、とりわけ事件に巻き込まれた当人やその家族にとってもっともたいせつな客観的な検証作業を嫌がり、ただひたすら事件を「北朝鮮」でくるもうとする。
それにしても「日本人救出」を叫ぶ者たちの怠惰な姿勢はいったいどうしたことか。あらためて強調すると、彼らは、じつに奇妙なことだが、事件被害者を脇へ押しやり、事件解明に目もくれず「叫ぶこと」に熱中している。つまり、「横田めぐみさんたち」は、悲惨なことに、彼らの憎悪ビジネスの材料になっているとみられなくもないのである。
さて、こうした流れを政治の舞台で展開しようと、去る四月二十五日、自民党や民主党の約三十人の国会議員が「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟」を発足させた。会長は石破茂氏(自民党)、会長代行は吉田公一氏(民主党)、事務局長は平沢勝栄氏(自民党)である。新議連は、北朝鮮への送金禁止、北朝鮮船舶の日本寄港禁止、朝銀問題の究明と公的資金投入の阻止、不審船の早期引き揚げなどをかかげる。さらに、一時帰国した在日朝鮮人の再入国を認めない法改正を要求していくという。あまつさえ石破氏たちは同活動から社民・共産両党の議員を除くと宣言している。すなわち、石破氏たちを彩っているものもまた問答無用の排外主義と憎悪のセットである。周知のごとく排外主義や外国(および外国人)憎悪は容易に国内統制へ転化する。
そもそも、石破氏はどのような人物なのか。インターネットのhttp://www.ishiba.com/">彼のホームページを開く。すると、こんな一節があった。
「『政治の使命とは、国民が欲していないことで国家の将来にとってどうしても必要なことを明示し、説得し、それでもだめなら強制することである』との清水幾太郎氏の言葉はまさしく至言」
この強制の指摘を念頭に置き、憲法改正を主張する彼の、次の発言に耳を傾けていただきたい。
(中略)


北朝鮮増悪と戦争体系づくり

(中略)
排外主義や憎悪はどこから生まれてくるのか。この疑問へ入る前にちょっとみておきたいのは、拉致現場の取材過程でしだいに浮上してきた「日本人拉致」の実相だ。
一九九七年二月。いわゆる横田めぐみさん騒動が始まった。彼女は北朝鮮の工作員によって拉致されたという(七七年十一月)。この情報源は韓国国家安全企画部(現・国家情報院)の関係者である。ほどなく、その報道を追う形で、ソウルに住む元北朝鮮工作員の安明進氏が登場する。のちに彼は日本へ招待され北朝鮮で直に見聞きしたという「事実」を饒舌に語ってもいる。いずれにしろ、彼の証言はめまぐるしく変化した。とりわけ問題なのは彼の話す拉致現場の様子などが実状とかなり異なっている点である(拙著http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4807498207/qid=1033304875/sr=1-8/ref=sr_1_0_8/250-1972364-4985859">『周辺事態』第三書館刊)。
彼は、対象が北朝鮮という検証不可能なところゆえ、いわば思いっきり架空譚を披露したといえなくもないのだが、ところで、証言のめまぐるしい変化と架空譚の色合いは「李恩恵」について話す金賢姫の大きな特徴でもあった。日本の警察が「李恩恵」だと指摘する、七八年に東京の池袋から失踪した女性Tさんの足取りを綿密に追う。と、判明するのは、日本の警察が金賢姫の言葉を立証することなく鵜呑みにして、Tさんと「李恩恵」を強引に、あまりにも強引に重ね合わせている驚愕すべき図である。また、証言変転ということなら、八三年にヨーロッパで消息を断った有本恵子さんの一件について語る八尾恵さんの強い政治性と過去の証言パターンが気になる。
八〇年に宮崎市の青島海岸付近で発生したといわれる原敕晃さんの一件にも言及しておく。それに関してはジャーナリストの石高健次氏が拉致の様子(格闘など)を微細にレポートした。しかし当時、現場にいたといわれる者は全員、沈黙している。石高氏はいったい何を手がかりに拉致現場を細かく再現しえたのか。彼は、不思議なことに、いっかなそれ(根拠)を明示しようとしない。
さらに、三組のアベック事件(七八年)がある。取材結果から言うと、これらのいずれも、きわめて残念なことに犯罪実行者を推定することができない。捜査当局が「推定」のずっと手前で足踏みをしているのだ。
にもかかわらず、たとえば以上のような元々個別の事件を力まかせに「北朝鮮」でくくったとき、すべてが明白になったような錯覚に陥ってしまったのだった。この錯覚の上に危機幻想劇(戦争体系)が組み立てられつつある状況を、いまこそ目をカッと見開いて直視すべきではないか。

(中略)
むろん拉致問題と戦争責任問題は論じるテーブルが異なる。しかし、今日の強烈な排外主義と憎悪に彩られた危機(被害)幻想が有事法制や日本国憲法の滅却など新しい戦争体系の構築のための重要な手がかりになっている実態を正確に踏まえると、権力掌握者たちの出自はさておくとしても、両者はいまや「接続」した問題だと、明確に一体的だと捉えなければならない。
(後略)

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