★阿修羅♪ 現在地 HOME > 掲示板
 ★阿修羅♪
次へ 前へ
てんさい(い) 投稿者 武士道とは公共のために忠義を尽くす道であった 日時 2002 年 9 月 01 日 15:31:34:

武士道とは公共のために忠義を尽くす道であった

________Japan On the Globe(256) 国際派日本人養成講座_______
_/_/
_/ 国柄探訪: 武士道 〜 主体的なる献身
_/_/
_/ _/_/_/  国家人民のために尽くすことを職務とする
_/ _/_/ 武士たちの自立的・主体的な生き方。
_______H14.09.01_____39,191 Copies_____553,916 Views________


■1.武士道と企業犯罪■

「武士道とは死ぬことと見つけたり」 山本常朝の「葉隠れ」
のあまりにも有名な一節であるが、これが武士道とは主君のた
めにはいつでもおのれの生命を投げ出す、という時代遅れのフ
ァナティックな生き方、という誤解を招いたようである。この
一節のあとには、すぐこう続く。

武道に自由を得、一生落度なく家職を仕課(しおお)すべ
きなり

 それは生死を超えた自由を得て、一生、落ち度なく家職、す
なわち、奉公の勤めを成し遂げるという、武士としての理想の
「生き方」を述べたものなのである。最近、食品業界やテーマ
パークなどで、上司の命令にやむなく従って企業犯罪に加担し
た、などという事件が相継いでいるが、これなどは武士道から
見れば、もっとも軽蔑すべき生き方だ。武士としての理想の生
き方とは、どういうものか、我が父祖らの考えに耳を傾けてみ
よう。

■2.真の「忠節」とは■

「葉隠れ」は、主君の命令に対する恭順を説いたのち、「さて
気にかなはざることは、いつ迄もいつ迄も訴訟すべし」、すな
わち主君の命令が自己の信念から見て理不尽だと思ったら、ど
こまでも「諫言」して再考を求めるべきである、とする。

 企業犯罪を命ずるような上司には、その理不尽さを訴えなけ
ればならない。そして「主君の御心入を直し、御国家を固め申
すが大忠節」、上司の誤った心構えを正して、組織をまっとう
にすることこそが、大忠節である、という。かつて組織犯罪を
犯した食品会社が解散の憂き目にあって、多くの罪もない従業
員が路頭に迷うことがあったが、そういう事態を未然に防ぐこ
とこそ、組織に対する「大忠節」というのは、よく理解できよ
う。

「直諫は一番槍よりも難し」ということわざがある。敵陣に向
けて一番槍を入れるのは、討ち死にの覚悟がいるが、その高名
はのちのちまで語り伝えられるし、手柄をたてれば子孫に恩賞
を残すことが出来る。

 しかし、主君に向かって直接、諫言を行う「直諫」では、手
討ちにあう危険があり、さらには不忠者、反逆者の汚名を着せ
られて、子々孫々にまで不利益を及ぼす恐れもある。そんな危
険を冒してまで主君に逆らうよりも、大人しくご機嫌取りして
いるほうが身の安全である。しかし、そういう生き方こそが
「不忠者」の生き方だと、武士道では考える。一身の危険、不
利益を顧みずして、藩全体のために「主君の御心入を直」すこ
とこそ、忠節の士のなすべき事なのである。

■3.わが身の災難を顧みず■

 名君と呼ばれた徳川吉宗の享保改革が軌道に乗り始めた頃、
吉宗自身の始めた目安箱(現在の投書箱)に、山下幸内という
浪人者が一通の投書を行った。その上書は、全文、吉宗の改革
の諸政策を徹底的に批判する内容のものであった。

 その倹約政策を「しみったれたもので、天下を治める為政者
のなすことにあらず」と断じ、吉宗の鷹狩り好きに対しては
「いたずらに民を酷使するのみで無益である」と指弾した。

 吉宗が老中以下の主だった役人を集めて、この上書を見せる
と、彼らは「無礼きわまる」と怒りの色をあらわにした。とこ
ろが、吉宗本人は「今の世にもなかなか面白いことを言う者が
おるではないか」と言った。そして、この書を評して、

 この書面のごときは、いかにも無礼の極みではあろうが、
わが身の災難を顧みず、政治の是非得失を直言してくれる
のは、天下の政道のためには貴重なことだ。もしこのよう
な者を無礼であるという理由で処罰するならば、世人はも
はや物を言わなくなってしまうであろう。それこそが、幕
府の政治にとって取り返しのつかない損失となってしまう
のである。

 吉宗はこう述べて、山内幸内に褒美銀を与えて、その直諫の
志を褒め称えたのである。

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、一部のアトラクシ
ョンで、大阪市が許可した以上の火薬量を使用していたことが
問題となった。米国人スタッフがショーの効果を上げるために
火薬の増量を指示したのに対し、日本人の担当責任者は「違法
性は認識していたが、降格もあると思って意見を通せなかっ
た」と述べていた。この例に比べれば、一身の災難を顧みずに
将軍に直諫を行った山内幸内、自らの攻撃を甘受する吉宗の人
間としての器の違いは歴然としている。

■4.主君「押込」の義■

 しかし諫言しても、主君が聞き入れない場合は、どうなるの
か? 現代のサラリーマンでは、諫言が最高度の抵抗であろう
が、武士道ではもっと過激な手段があった。藩主が放蕩や暴虐
だった場合、あるいは過激な改革で藩政を混乱させた場合など
に、家臣団が合意をして、主君を「押込(おしこめ)」と称し
て拘禁し、時には隠居させてしまうのである。

 押込の手順も概ね、決まっていた。まず藩主に対して、家臣
が諫言を行い、それが聞き入れられない場合に、家老や重臣を
中心に「押込」が議される。そして一同、藩主の前に列座して、
「お身持ち良ろしからず、暫くお慎みあるべし」といった定型
の文言を発して、「押込」の執行を宣言する。それとともに、
家老の指揮のもとに、目付や物頭など中堅の武士が藩主の刀を
取り上げて、藩主を座敷牢などに監禁する。

 興味深いことに、藩主は数ヶ月監禁されている間に、家臣側
との面談が断続的に行われ、改心の程度がチェックされる。十
分改心して、旧来の悪政を改めるだろうという見通しがついた
ら、藩主は解放されて、もとの地位に戻る。その際に、行状を
改めて善政を行うこと、そして「押込」を執行した家臣団に報
復を行わない事を誓う誓詞を提出する事が義務づけられていた。

 もし藩主に改心の情が見られない時には、そのまま強制的に
隠居させられ、代わりに嫡子が藩主の地位につく。

■5.公共のための忠義■

 諫言や押込は、武士の忠義の対象が藩主個人ではなく、藩と
いうより「公」的な共同体に向かっていたことを示している。
そして一身の危険、災難という私的な利害を顧みずに、公のた
めに尽くす、というのが立派な武士のあり方であった。

 その背景には、江戸時代を通じて発展した公共性の理念があ
った。徳川幕府に抱えられて、家康から4代家綱まで仕えて、
儒書や史書を講じた林羅山(1583―1657)は、「天下は一人の
天下にあらず。天下は天下の天下なり」と唱えた。

 熊沢蕃山(1619―91)は、武士は藩主から人馬を預かり、藩
主は領国を将軍から預かり、将軍は天下を天から預かったもの
ゆえに、主君の天職は「仁政を行ふ」ことであり、臣下の天職
は「君を助けて仁政を行はしむる」ことであるとした。

 山鹿素行(1622―85)は、人君は天下万民の平和と幸福を保
障するための政治的機関であり、「忠」とは主君個人に尽くす
ことではなく、「国家天下のために」心を尽くすことである、
とした。

 荻生徂徠(1666―1728)は「御政務の事柄というものは上
(君主、藩主)の私事にあらず、天より仰せ付けられた御職分
なのである。下(家臣)たる人にても御政務の事柄に関係する
ことに携わる限りは、その時だけは上(君主、藩主)と同役な
のである。家臣として藩主に少しも遠慮する必要はないのであ
る。」とした。

 ここまでくると、藩主も家臣も、武士はすべて治国安民を使
命とする統治機構の一員であって、身分の上下は単に職制上の
上下に過ぎない事になる。したがって暗愚な藩主が悪政を行っ
ていたら、諫言、押込によってそれを正すことこそ、武士の責
務である、ということになる。すなわち、武士道とは公共のた
めに忠義を尽くす道であった。

■6.改革の抵抗勢力■

 しかし、主君への諫言といい、押込と言っても、それはあく
まで政治的意見の対立であり、主君と家来のどちらが正しいの
かは分からない。価値観の違いであったり、権力争いに過ぎな
いかもしれない。その場合は、どちらが正しいか、どう決めた
らよいのだろうか? そこに出てくるのが、衆議公論である。

 上杉鷹山は米沢藩の藩主として、見事な藩政改革を行い、天
明の大飢饉の際にも、一人も餓死者を出さなかったという業績
を残しているが、その鷹山が二十歳過ぎで改革を始めたばかり
の頃、上杉家の重臣7名が打ち揃って、諫言の書状を呈示して
鷹山に迫ったことがあった。書状は鷹山の改革政治を批判し、
改革の旗振り役だった執政・竹俣当綱一党の悪行・罪状を数え
上げ、家中・領民の大半は困窮してお上の政治を恨んでいると
弾劾していた。

 押し問答4時間の末、若き鷹山はからくも前藩主・重定のも
とに逃れ、事態を訴えると、重定は声を荒げて7重臣を退出さ
せた。それ以降、重臣たちは病気と称して、自邸に引きこもっ
てしまい、政務は停滞状態となった。ストライキである。重定
は主君を蔑ろにする不忠者はことごとく切腹に処すべきと怒っ
たが、鷹山はこれを抑えて、広く衆の意見を徴した上で処置を
決定すべきであるとした。

■7.衆議公論の尊重■

 鷹山はまず監察職の大目付らを呼び出して、7重臣の書状を
示して、その理非曲直を問うた。大目付らは、竹俣一党の罪状
はおよそ事実を歪曲したものであり、また家中・領民とも改革
を支持していると述べた。さらに組頭、物頭など、緒組の頭た
ちを召し出し、同じ質問をした所、彼らも同様の回答をした。

 こうして鷹山は家中の総意を確認した上で、7重臣を呼びだ
し、首謀者2名を切腹・家名断絶、残り5名を知行一部召し上
げ、隠居という処罰を下した。鷹山が周到に衆議の尽くしてい
ため、その処置には誰一人逆らうものがなかった。この事件を
機に、家中の結束は強固となり、鷹山の改革政治は順調に進展
していく。ちなみに後年、断絶とされた2家は後に再興され、
5家も閉門解除の上、嫡子への家督相続、知行回復が許されて
いる。

 鷹山は山鹿素行の影響を受けたと言われ、家督を譲るにあた
って次代藩主に訓戒として与えた「国家人民の為に立たる君に
て、君の為に立たる国家人民にはこれなく候」などからなる
「伝国の詞」は、同時代の西洋で発達しつつあったデモクラシ
ーに迫る近代的公共思想である。さらに鷹山の公を尊ぶ理念の
基盤が、衆議公論にあった点も近代デモクラシーと似通ってい
る。

■8.終身雇用制は武士の自立を助けた■

 戦国時代の武士は、今日の欧米のビジネスマンのようにたび
たび主君を変え、少しでも自分を高く売ろうとしていた。それ
が17世紀の終わり頃、元禄の半ばを過ぎる頃から、多くの武
士が一つの藩で一生を過ごす終身雇用制が定着していく。

 この終身雇用制は藩、すなわち共同体への忠誠心を育むと同
時に、武士の藩の一員としての権利を保障し、藩主が勝手気ま
まに解雇することはできない仕組みを提供した。

 今日のように終身雇用制が崩壊して、いつリストラの憂き目
に会うか分からない状態となると、社員も下手な物言いは解雇
の危険につながるので、みな口をつぐんで、上司に対して言う
べき事も言えなくなる。終身雇用制は、藩主の独裁権力を制約
し、武士の自立性を高めて、一人一人が信ずる所を堂々と主張
する権利を守るという効果をもたらした。

 同時に自分が一生勤める藩に対して忠誠心をはぐくみ、藩主
個人よりも、藩という共同体全体に対して、忠義を尽くすとい
う姿勢を涵養した。自立した武士が、自らの主体性のもとに、
藩に献身するという武士道の姿勢は、終身雇用制によって護ら
れていたのである。

■9.年功序列制による実力主義■

 終身雇用制と同様、藩という組織の中で定着していったのが、
年功序列制であった。それはどういう家柄に生まれたか、とい
う身分を超えて、下級身分の者でも、長年の経験と功績の積み
重ねによって、出世できるという能力主義の原理を織り込んだ
ものであった。

 吉宗が導入した足高(たしだか)制は、たとえば勘定奉行は
3千石という基準を設け、その基準に満たない下級武士が勘定
奉行に抜擢された場合は、差額分が支給されるというものであ
った。500石の武士なら、在任中は2千5百石が追加支給さ
れる。56人の勘定奉行のうち、千石以下の下級武士が49人、
90%を占めるという人材登用効果を発揮した。

 この年功序列制は、能力ある下級武士にも活躍の場を与える
だけでなく、その能力評価を長年の精勤と功績に基づく客観的
なものにするという特徴があった。ここでも上司の恣意的な抜
擢や左遷を防ぎ、武士の自立性、主体性を高める役割を果たし
た。

 こうして江戸時代の武士は、国家公共への奉仕を使命とする
公共性理念に導かれ、同時に終身雇用制や年功序列制により主
君の恣意的な支配を離れて、自立・自尊の立場に立って主体的
に献身を行う生き方を理想とした。その理想は、明治時代の官
僚に引き継がれ、戦後は企業社会にも広まっていった。

 バブル崩壊とともに、押し寄せたグローバリゼーションの大
波に、終身雇用制も年功序列制も押し流され、公共性の理念も
失った官僚や企業人が一斉に汚職や組織犯罪に手を染めるよう
になったのも、当然と言えようか。
(文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(130) 上杉鷹山〜ケネディ大統領が尊敬した政治家〜
 自助、互助、扶助の「三助」の方針が、物質的にも精神的に
も美しく豊かな共同体を作り出した
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h12/jog130.html
b. JOG(144) 細井平洲〜「人づくり」と「国づくり」
 ケネディ大統領が絶賛した上杉鷹山の「国づくり」は、細井
平洲の「人づくり」の学問が生みだした
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h12/jog144.html

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 笠谷和比古、「武士道と現代」★★★、産経新聞社、H14

============================================================
購読申込・既刊閲覧: http://come.to/jog お便り: jog@y7.net
購読解除: http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/quit_jog.htm
JOGのアップデイトに姉妹誌JOG Wing: http://come.to/jogwing
============================================================
mag2:25731 pubzine:7254 melma!:2605 kapu:1519 macky!:2082

 次へ  前へ



フォローアップ:



 

 

 

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。