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(回答先: デジタル化1800億円国費投入に反対 投稿者 sankei 日時 2002 年 8 月 30 日 12:18:33)
地上波デジタル放送への国費投入に反対する
代表
池田信夫(経済産業研究所)
奥野正寛(東京大学大学院経済学研究科)
賛同者
池尾和人(慶應義塾大学経済学部)
今井賢一(スタンフォード大学日本センター)
鬼木甫(大阪学院大学経済学部)
公文俊平(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)
田中辰雄(慶應義塾大学経済学部)
中泉拓也(関東学院大学経済学部)
西和彦(尚美学園大学芸術情報学部)
林紘一郎(慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所)
安延申(スタンフォード大学日本センター)
山田肇(東洋大学経済学部)
この7月、全国地上デジタル推進協議会(総務省・NHK・民放で構成)は、地上波デジタル放送のための「アナアナ変換」の経費が全国で1800億円
になると発表し、総務省はこれを全額、国費で負担する方針を表明した。この経費は、これまでの727億円という見積もりを大きく上回り、これで
最後になるという保証もない。放送設備の更新という私企業の業務に政府が資金援助することは、世界にも例のない異常な公金支出であり、このま
ま実施されると、電波行政を歪める危険な前例となる。昨年も、われわれはこのような無原則な国費投入に反対する意見表明を行ったが、あらため
て今回の大幅な増額要求に反対する。理由は以下の通りである:
1.デジタル化計画は非現実的であり、電波の有効利用にはならない
アナアナ変換に国費を支出する根拠として、電波法では2011年に現在の(アナログ)テレビ放送を停止し、その放送が行われている
VHF帯(70MHz)を移動体通信に明け渡すことになっている。しかしBS(放送衛星)デジタル放送の受像機(チューナーを含む)の出
荷状況をみると、放送開始から1年半以上たっても約130万台しか売れておらず、月産6万台程度で頭打ちである。このペースでは、
2011年のデジタル受像機の普及状況は700〜800万台程度にとどまり、1億台以上あるテレビの1割にも満たない。そんな状態で、9
割以上の国民の見るアナログ放送を止めることは大混乱を招き、不可能である。また視聴者がデジタル放送を望んでもいないのに、ア
ナログ放送を打ち切ると威嚇してデジタルへの移行を強制することは、市場経済の原則に反する。
米国では、デジタル化の開始から4年たってもHDTV(高精細度テレビ)の普及率はわずか0.3%で、英国でもデジタル放送局の経営破
綻によって電波が止まるなど、世界の地上波デジタル放送はすべて失敗している。日本でも、UHF帯をふさぐ一方でVHF帯の放送も止
めることができず、結果的にはVHF・UHF両方の帯域(370MHz)を浪費し、かえって非効率な電波利用になるおそれが強い。したがっ
て「電波の有効利用」という国費投入の根拠は成り立たない。
2.法の下の平等に反し、電波再配分の原則を破壊する
携帯電話や無線インターネットの急速な普及によって電波の不足が深刻な問題となり、世界各国の政府が既得権となっていた電波を効
率的に再配分する制度を検討している。総務省の電波有効利用研究会は、無線局免許を停止する場合の補償措置として、無線通信設備
のうち減価償却の終わっていない「残存簿価」だけを補償する方針を打ち出したが、この基準によれば、最短でも10年以上たってい
るアナログ放送設備の補償額はゼロとすべきである。テレビ局だけに代替周波数(4チャンネル分)を与える上に1800億円もの営業
補償を行うことは、憲法に定める法の下の平等に反するばかりでなく、「ごね得」の悪しき前例となって電波の再配分を決定的に困難
にする。
3.放送局のコストを携帯電話の利用者に転嫁することは不公正である
1800億円の財源は、主として携帯電話の利用者が支払う電波利用料でまかなわれる予定だが、これはその年間収入(約500億円)の
3.5年分にのぼり、このままでは電波利用料の会計は破綻する。したがって、アナアナ変換を行うためには値上げは避けられないが、
現在の電波利用料の80%以上は携帯電話の利用者が支払っており、これ以上の負担には通信事業者が強く反対している。また「アナ
ログ放送を止めてVHF帯が空いたら携帯電話に使わせる」という約束も、前述のように実行不可能であり、携帯電話の利用者はテレビ
局の経費を一方的に負担させられるだけで、何のメリットもない。
4.報道機関の独立性を失わせ、表現の自由を脅かす
銀行への公的資金投入を強く批判したテレビ・新聞が、それ以上に大義名分のない今回の公金支出について何も論評しないのは、みず
から政府に補助を求める立場であるためだ。このように政府がNHK・民放に実質的に出資することは、「放送の不偏不党、真実及び自
律を保障することによって放送による表現の自由を確保する」と定めた放送法の精神に反し、民主主義の根幹を揺るがす。これは政府
からの独立を担保する制度として作られたNHKの受信料制度の意味も失わせるものである。
5.アナアナ変換しなくてもデジタル化は可能である
デジタル化するとしても、アナアナ変換は不可欠ではない。現在でもSDTV(通常のテレビ)でデジタル放送を行う周波数(1.5MHz)
は空いているので、SDTVによってデータ放送やモバイル放送を主体にしてデジタル化を行えば、アナアナ変換は必要ない。HDTV放
送を全国一律に行う必要はなく、オプションと考えて周波数に余裕のある都市部から徐々に行えばよいのである。またVHF帯を利用し
てデジタル放送を行うことも、技術的には可能である(付属文書参照)。国民負担を求める前にもう一度、代替案を真剣に検討すべき
である。
無線LANは急速に普及し、その端末の数は今年中に全世界で3000万台を超え、デジタルテレビをはるかに超えると推定される。次世代の無線LANで
は、最大54Mbps(テレビ10チャンネル以上)のブロードバンド伝送も可能である。数万円の基地局でテレビ番組を流せる時代に、1兆円以上の経
費をかけて行われる地上波のデジタル化は時代錯誤であり、民放連の氏家斉一郎会長も認めるように、事業としても採算は取れない。ここで既成事
実を認めると、今後はデジタル放送設備への公的資金(財政投融資を含む)投入の要求が出て、さらに国民負担がふくらむおそれが強い。今回の国
費投入は、実質的には零細な地方民放の救済措置だが、「マスメディア集中排除原則」を緩和し、放送局の買収・再編を進めて経営基盤を強化すれ
ば、自力でデジタル化を行うことは不可能ではない。自己責任で事業化できないなら、地上波デジタル放送はやめるべきである。
電波はテレビ局の私有財産ではなく、国民の貴重な共有財産である。地上波デジタル放送に使われる予定のUHF帯の周波数(300MHz)は、7000万人
の使う携帯電話の周波数(220MHz)を上回り、その資産価値は数兆円にのぼると推定されるが、デジタル化が挫折したため半分近くが余っている。
他方、周波数の不足がブロードバンドの発展を阻害しており、電波資源を有効利用することは日本経済を活性化する上で緊急の課題である。政府
は、アナアナ変換を凍結して現在のデジタル化計画を白紙に戻し、インターネット時代にふさわしい放送システムを検討すべきである。
http://www.telecon.co.jp/ITME/Signature/0808.html