『日経』2月8日夕刊@データベースより
「世界がもし100人の村だったら」、学級通信のメール発端、送った先生と対面。
掲載日:2002/02/08 媒体:日本経済新聞 夕刊 ページ: 16 文字数:1193
本まとめた池田さん、送った先生と対面
メールで広まった話をベースに貧富の差や人種の違いを説明した「世界がもし100人の村だったら」=写真下=がベストセラーになっているが、本が生まれた背景に、千葉県市原市の中学校の先生が教え子や保護者にあてた電子メール版学級通信があった。
本をまとめた翻訳家の池田香代子さんはこのほど中学を訪ね、先生や生徒たちと対面を果たした。
「世界がもし100人の村だったら」(マガジンハウス刊)は、世界人口を百人に換算し、「すべての富のうち 六人が五九%をもっていて みんなアメリカ合衆国の人です」「一人が大学の教育を受け 二人がコンピューターをもっています。けれど、十四人は文字が読めません」などと国際社会の現状を描いている。
池田さんによると、オリジナルは米国の環境学者ドネラ・エボウズさんのエッセー。
共感した人たちがメールで転送を重ねるうちに書き加えられ、日本でも広まったものに、伝承文学の研究家でもある池田さんが加筆、一冊の本にまとめた。
池田さんがメールを受け取ったのは昨年十月初めにさかのぼる。内容だけでなく、日本で書き加えられた「長女の中学校の担任は、毎日生徒に学級通信をメールで流すすてきな先生です。とても感動したので皆さんにも流します」という言葉に強く心をひかれた。
ただ、こんな先生が実在するのか半信半疑で、本の解説では「いつ誰がつけたのか、また事実なのかいまのところ不明。調査は継続中」と記した。
それは市原市立五井中学校で国語を教える生稲勇先生(38)だった。生稲先生がインターネット学級通信「でじさむ」に百人の村を載せたのは昨年九月二十五日のこと。
これに感激した保護者の時田登子さんが紹介文をつけて参加しているメーリングリストに紹介し、その会員がさらに転送して、“学級通信版・百人の村”が一気に広まった。
一週間後、屋久島在住の知人を経由して池田さんまでたどり着いたのだ。
「100人の村だったら」の本を読んだ時田さんが生稲先生に知らせ、先生が池田さんにメールを送って対面が実現した。
一月中旬、五井中学二年五組の教室で、生稲先生と並んだ池田さんが「先生のメールが本になりました」と切り出すと、生徒たちからは「すごい」と歓声が上がった。
「学校はいろいろ批判されているが、学級通信をメールで送り、こんな話を紹介するすてきな先生がいることに驚いた」と池田さん。「百人の村の話も魅力的だが、こんな先生がいたらとみんなが思ったから爆発的に広がった。私も学級通信の話がなかったら本にしようとまでは思わなかった。まさに現代の伝承文学だ」と感激を新たにする。
次の増刷時には生稲先生と時田さんの名前を本に書き加えることを約束。印税の一部はアフガニスタン復興に寄付するという。
【図・写真】生徒に出版の経緯を説明する池田さん(右)と生稲先生(千葉・市原市)