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吉川元農相、司法取引か…鶏卵・贈収賄疑惑、特捜部案件なのに「逮捕者ゼロ」の怪
https://biz-journal.jp/2021/01/post_203914.html
2021.01.23 18:50 文=編集部 Business Journal
「吉川 貴盛 公式サイト」より
「特捜案件なのに逮捕者ゼロなんてありえない」。こうした考え方は、河井克行元法相夫妻の選挙違反事件や統合型リゾート(IR)をめぐる汚職事件など過去の例を振り返っても至極真っ当なことだが、吉川貴盛元農相の鶏卵汚職事件は、収賄側と贈賄側ともに在宅起訴に終わるという異例の展開になった。
自ら議員のクビを差し出したことが、いわば司法取引だったのか。元農相は衆院議員を辞職、そして自民党をすでに離党し、もはや政権と関係ない人物を装っているのかもしれないが、同期当選の菅義偉首相とも極めて近く、政権運営への負の影響は避けられない。
吉川元農相が在任中に大臣室で鶏卵生産会社から現金を受け取っていたかもしれないという噂が永田町周辺を駆け巡ったのは、昨年11月下旬ごろのこと。まるで映画のようで「信じられない」(与党議員)と衝撃をもって受け止められた。与党関係者によると、そのころから自民党会合に顔を見せなくなった。そうしたさなか、12月に入ると、元農相が現金を受領したとの疑いがあるという報道が過熱。東京地検特捜部はクリスマスに衆院議員会館や地元札幌市内の事務所を家宅捜索し、関係書類などを押収した。
■司法取引か
気になるのが、特捜部による任意聴取と議員辞職の妙なタイミングだ。元農相は、慢性心不全など「健康上の問題」を理由に議員を22日に辞めた。一方、特捜部が任意聴取したのは21日とされており、「何らかの司法取引があったのでは」(霞ヶ関関係者)との見方が広がり、この頃から身柄を拘束する逮捕ではなく、「在宅起訴」で決着するという空気に包まれた。
結局、特捜部は今月15日、大臣在任中に大手鶏卵生産会社「アキタフーズ」(広島県福山市)の秋田善祺前代表から現金500万円を受領したとして、元農相を収賄罪で在宅起訴した。贈賄罪で秋田前代表も在宅起訴。両者とも金銭のやり取りは認めているとみられるが、元農相は賄賂性を否定しているという。
元農相をめぐっては、心臓病の手術を受けて療養中の身であることや、議員辞職したことも考慮し、逮捕は見送った。特捜部の姿勢に対し「心臓にペースメーカーを埋め込めば逮捕しないという前例をつくった」(メディア関係者)という皮肉交じりの声も聞かれる。
元農相は、家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア」の国際基準案への対応や日本政策金融公庫からの融資条件について、養鶏業界に有利になるよう便宜を図ってもらいたいという趣旨を知りながら、大臣室などで計3回にわたり計500万円を受け取ったとされる。
アニマルウェルフェアは欧米で浸透している飼育方法。国際機関は2018年9月、巣箱の設置など養鶏業者が不利になりかねない基準案をまとめ、業界団体が猛反発。前代表は同11月、農林族のドン、西川公也元農相とともに、大臣である吉川元農相のところに駆け込み、基準案に反対する要望書を提出。その後、日本政府は国際機関に反対する意見を出し、基準案から巣箱設置などの項目は削除された。政府関係者は「現金授受があったかどうかは別にして、卵の価格が跳ね上がるので政府が案に反対するのは当然」と述べ、野上浩太郎農相は「政策判断は妥当」と繰り返している。
■商工族から農林族に転身
事件が明るみに出る前は知名度が低かった吉川元農相。どのような人物なのか。1950年東京都で生まれ、まもなく北海道に移住。故鳩山威一郎元外相の秘書や北海道議などを経て、96年の衆院選で初当選。もともとは農業とは縁が薄く、商工族だったが、環太平洋連携協定(TPP)交渉などを機に、農水族に転身。当時官房長官だった菅首相のプッシュもあってか、18年10月に大臣の椅子を勝ち取った。
菅首相お気に入りの鈴木直道氏を北海道知事選に反対論を押さえ込んで擁立し、当選にこぎ着けるなど、道内で強い影響力を発揮していた。自身の選挙区とは関係ない地域の団体が吉川詣でを行うため、「札幌に拠点を設けたという噂」(関係者)などもあり、大臣退任後も道内一強体制を築いた。
霞ヶ関界隈の元農相の人物評は「ムスッとしている」「政策に非常に理解がある」「大臣の立場を忘れ地元への利益誘導的な発言をしていた」などさまざま。選挙が弱く、過去2回比例復活もならず浪人生活を送った。
自民党は、在宅起訴を受け、4月に行われる衆院北海道2区の補欠選挙に候補者擁立の見送りを決めた。菅首相は「信頼回復に努めることを優先すべき」と話しているが、汚職事件に絡んだ補選で旗色が悪いため、不戦敗を決めた格好のようだ。鈴木宗男氏の娘、貴子衆院議員を擁立するという話もあったが、政界関係者は「いったん見送り、秋に腰を据えて戦うということだろう」と解説する。ただ、この一件で菅下ろしが始まるリスクをはらんでおり、最近表情がどこかさえない菅首相の手で解散総選挙に打って出られるかどうかは見通せない。
■西川元農相の立件見送り
鶏卵汚職事件をめぐっては、吉川元農相と関係が深い西川元農相は内閣官房参与在任時などに多額の現金を受け取っていたとの疑惑がある。ただ、非常勤の国家公務員である参与は職務権限が事実上ないと判断し、立件が見送られた。農水省関係者は「前代表にいろいろな政治家を紹介し、金をもらっていた西川さんが一番悪いのに」とため息がもれる。
今回の事件では、農水省幹部が吉川元農相と前代表らの会食に同席していたことが発覚。幹部らは「政治家からの誘いで吉川さんが払ったものだと思った」と口をそろえ、会場に行くまで前代表が参加することは知らなかったという。与党議員は「前代表があれだけばらまいているのに、政治家に払わせるようなことはしない」と疑う。
恐らく役人も支払いの部分については虚偽の説明はしていないだろう。ただ、会食が行われたのは庶民の手が届かないような高級料亭。高い酒を飲み、何十万、下手したら100万円単位の飲食費が使われていてもおかしくない。「俺らなんか1本100円の焼き鳥をもう1本頼むかどうか悩む」(警察OB)というのがごく普通の感覚。清貧であれとまでは言わないが、役人は「自分たちは東大法学部を出たエリートで特別」「おごられて当たり前」という傲岸不遜な態度になっていたのではないか。
農水省はコロナ関連の政策で失敗も続き、そこに会食の話が加わり、イメージは最悪。これまで農政と縁遠かった野上農相には、組織の姿勢に問題がなかったのか、政策が捻じ曲げられていなかったかどうか、徹底的にあぶり出してもらいたい。
(文=編集部)
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