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菅内閣、短命に終わるこれだけの理由 スーパー世襲政党のロジックと無責任政治体制/全国新聞ネット・msnニュース
全国新聞ネット
2020/12/22 07:00
安倍晋三前首相は、数々の不祥事やスキャンダルに関して在任中一切責任を取ることなく、今もまた桜を見る会前夜祭の経費補てん問題の責任を秘書に押しつけて逃げようとしている。それでも「責任は私にある」と胸を張ることは大いに好んでいた。後継となった菅義偉首相はそれに比して、政府の対応や政策の最終的な責任が首相である自分にあると理解していないようだし、建前であっても首相としての責任を認めなくてはいけないことさえよく分かっていないようだ。(上智大学教授=中野晃一)
■染みついた体質
日本学術会議新規会員の任命拒否問題で6人を除外する前の推薦名簿を「見ていない」と言ってのけたり、コロナ感染の拡大と医療崩壊の危機のさなかニコニコ動画に出演し「ガースーです」とニヤついてみたりする。
いずれも首相としての責任を感じていたらできない所業だ。菅首相に染みついた責任感のなさは、官房長官としてあまりに長い7年8カ月間、安倍首相に代わり「全く問題ない」「適切に対応している」「その指摘は当たらない」と繰り返してきたからだろうか。
森友学園や加計学園、桜を見る会など、それぞれ一群を成す事件や疑惑は一義的には安倍首相による国家の私物化に起因するものだった。菅官房長官として職責上矢面に立たされていたのであり、どこか人ごとという投げやりな態度で済ませてきたのだろう。そうした「手腕」が評価されて政権が転がり込んできたのもまた事実である。
田中真紀子氏の容赦なくも的確な評によれば「安倍家の生ゴミのバケツのふた」として安倍前政権から引き継いだ「臭いもの」にふたをし続けることが「菅政権の役割」ということだ。田中角栄元首相の娘だけに、自民党政治を熟知していると言わざるを得ない。
菅内閣が、安倍政権から継承するものは、悪臭漂う「安倍家の生ゴミ」だけでなく、それらに「ふた」をするごとく、公文書を改ざんしたり破棄したり、国会で延々と虚偽答弁を繰り返したり、法の支配をゆがめ、説明責任(アカウンタビリティー)を放棄することがまかり通る悪夢のような「2012年体制」であると前に指摘した。
その悪夢たるゆえんは、安倍首相の個人的属性と解されていた無責任な政治が、菅首相に継承され、内閣や政権の交代を超えるニュー・ノーマルとして常態化し、新たな政治体制(レジーム)として確立しかねないことであった。
安倍政権の「使用人」根性が染みついたかのような菅首相には、当事者意識も当事者能力もない。
安倍政権よりもある意味ひどいのではないか。そう感じさせる理由は、首相さえもが責任感もやる気も全くない「お客様苦情係」と化してしまった究極の無責任体制にあるのではないか。一般市民が「とにかく責任者を出してくれ」と絶望の叫びを挙げているような状況である。
菅首相のリーダーシップの欠如などという生やさしい問題ではない。生ゴミのバケツのふたとしての功績が買われて首相になった人物が、発揮すべき指導力など持つわけがない。
■終わらない悪夢
さらに述べるならば、これは菅首相個人の能力だけの問題ではない。せっかく首相になれた以上、本格政権を作りたい意欲は抑えがたいはずだ。ましてや菅を首相にした二階俊博幹事長は、81歳にしてなおも権勢を維持するために菅内閣の存続に手を貸すことにやぶさかではないだろう。
しかし実態は、老獪(ろうかい)な二階が、安倍や麻生太郎副総理らの一瞬の隙を突き、「菅総裁誕生」の流れを作ったに過ぎない。菅は、来年9月の任期切れで用済みとなる可能性が高いと見るべきである。
なぜか。
自民党の世襲政治である。1991年に就任した宮沢喜一以降、自民党総裁・総理はことごとく世襲議員であり、小渕恵三首相が倒れたさなかに密室の談合で選ばれた森喜朗だけが例外である。
2006年に安倍が小泉純一郎の後を継いで以降、自民党は、単なる世襲ではなく、元首相の子か孫でなければ首相に就けないと思えるほどの「スーパー世襲政党」と化しているのである。
菅もかつては世襲制限を掲げていたことがある。ところが、有権者もメディアもすっかりならされ、3世4世となる自民党世襲議員の圧倒的な特権は不問に付されるようになってしまった。
何の実績もない小泉進次郎が初当選時から「将来の首相」扱いされ、滝川クリステルとの結婚に際して一部メディアが「将来のファーストレディー」と騒いだことの異常さは話題にもならなかった。
目下、東京地検特捜部の取り調べでけん制されている安倍にとって、菅は急場しのぎで留守を預からせただけで、使用人として見下しきっているのが実態だろう。事実、辞意表明直後に敵基地攻撃能力に関して談話を発表し、後任首相の手を縛ろうとした。
このことだけでも常軌を逸しているが、辞任からわずか2カ月後の11月に衆院解散・総選挙について「もし私が首相だったら非常に強い誘惑に駆られる」とわざわざ言って注目を浴びた。永田町の常識で言えば、菅をよほどばかにしていなければ到底できることではない。
最大派閥の清和会にいつでも復帰して会長に収まることができ、まさに「上皇」気取りなのであろう。本音では3度目の登板を諦めていないのかもしれない。
同じく元首相の孫で自身も元首相にて今や8年の長きにわたって副総理兼財務相として居座る安倍の盟友・麻生は、党内第2派閥を率いる。
配下として元総裁の子にして3世議員の河野太郎を菅の次の首相に押し込み、80歳でもなおキングメーカーとして影響を保持しようともくろんでいる。傲岸(ごうがん)不遜で知られる麻生が「たたき上げ」の菅を対等の人間として見ているとは到底考えられない。
麻生派と並ぶ派閥の領袖(りょうしゅう)は竹下亘、竹下登元首相の弟である。二階が第4派閥の長だからと言って、平時に三大派閥を意のままにできるわけがない。
こうしてみると、世襲でなく、派閥に属さない菅は、安倍が政権を再び放り投げるという特異な状況でなければ首相になれなかったはずである。
側近と言えば、河井克行や菅原一秀らしかいない惨状で、自前の官房長官さえ選べなかった。加藤勝信は官僚出身だが、安倍の父・晋太郎の側近中の側近だった加藤六月の娘婿で、安倍晋三からすれば次の首相候補とすることを念頭に官房長官に据えさせたと見るべきだ。
もう一人、安倍や清和会(そして経産省、財界)が目にかけているのが、経済再生担当・コロナ対策担当大臣の西村康稔である。
西村も加藤同様官僚出身で、その岳父が吹田ナという岸信介の地元山口における側近で、吹田は岸の政界引退に際して選挙区で後継指名を受け国政進出を果たしたほどである。つまりやはり姻戚・血縁を通じて安倍・岸家の人脈だ。岸家と言えば、安倍の弟・岸信夫もまた防衛相として入閣している。
何のことはない。国家の私物化が安倍の下で進むはるか前から、自民党の私物化・世襲化は行き着くところまで行っていたのである。菅に独自の政権基盤はなく、短命内閣で終わるだろう。
しかし菅が引きずり下ろされたとしても自民党1強が続く限り、河野、加藤、西村あたりを後継首相にすげ替えて、有権者に対して一切責任を負わない2012年体制が存続することになる。2021年総選挙で立憲野党の共闘は有権者に選択肢を示せるのか。2020年の暮れ、あまりに寒々とした日本の民主主義のなれの果ての光景である。
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